-イギリスはこれからどうなっちゃうんでしょうか…?
マッカリー 離脱派は自分たちが選択した現実の重さに苦しむでしょう。ジョンソンはいつの間にか離脱派に転じて人々を駆り立てました。僕の個人的な見方ですが、ジョンソンの変節は彼の個人的な政治的野心に過ぎなかったと思います。人気を得るためにEU離脱という国の将来を左右する問題を利用し、その過程でウソもついた。これはとても悲しいことです。
-では、離脱が日本に与える影響は?
マッカリー EUの中でイギリスは一番、日本企業が進出している国です。日産はイギリスに自動車工場を持っているし、日立は鉄道の大きな工場を造ったばかりです。イギリスは英語の国ですし、ビジネスの信用性も高いので、日本にとってEUというマーケットへの便利な入り口になっています。
経団連の会長も「EU残留を望む」と繰り返し語っていましたし、日本経済への影響はもちろん大きいでしょう。2年後に離脱するという状況で、果たして日産はイギリスに工場を維持するのかどうか。
離脱決定後、ポンドは急落し、世界中で株価も落ちている。当然アベノミクスへの影響も大きいでしょう。アベノミクスの生命線である円安・株高が維持できなくなるとすれば、今後非常に深刻な影響があると考えざるを得ません。
-ちなみに、安倍首相は伊勢志摩サミットで「今の世界経済の状況はリーマンショック前に似ている」と発言し、キャメロン首相は「そんなには悪くない」と言っていましたが、皮肉にもキャメロンがリーマンショックに似た危機をもたらし、安倍首相の発言が予言のように的中してしまったという…。
マッカリー ハハハ。確かにそういう意味では、消費増税再延期の判断は正しかったと安倍首相は胸を張って言うかもしれませんね。
-「サミットで私が言った通りになった!」と胸を張るのはいいけど、円高・株安になったら、ガッツポーズしながら足元から沈んでいくような景色にも見えます。
マッカリー まったくそうですね。日本への影響でもうひとつ心配なのは、離脱が日本経済にもたらす影響によって、参院選の争点がボヤけてしまうことです。参院選はアベノミクスの成否もそうですが、憲法改正、安全保障、TPP、原発、いろんなテーマがある非常に大事な選挙のはずですが、このせいで経済危機への対応が最優先であるという構図になってしまうと、他の争点が見えにくくなってしまう。
-アベノミクスの失敗は、政策自体が悪かったのか、イギリスのEU離脱がもたらす経済危機という外的要因も加味されるのか、責任がわからなくなってしまいますよね。
マッカリー 本当にそうですね。安倍首相は、憲法改正は参院選の主要な争点ではないと言っているようですが、憲法改正は彼の悲願であり、3分の2以上の議席を獲ればそういう動きになることは間違いないわけで、このような大切な意味を持った参院選で、経済問題ばかりがクローズアップされるのだとしたら、日本にとって良いことではないですね。
●ジャスティン・マッカリー
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で修士号を取得し、1992年に来日。英紙「ガーディアン」「オブザーバー」の日本・韓国特派員を務めるほかTVやラジオでも活躍
(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)