-そもそも、離脱派の論拠はなんだったのでしょうか? 報道を見ていると移民問題が大きかったようですが。
マッカリー ポーランドなどEU域内の東欧諸国から大量の労働者が入ってきたせいで仕事を奪われたとか家賃が高騰したとか、そういう不満が多いのは事実です。ただ、誤解してほしくないのはイギリス人が人種差別的になったわけではなくて、そこには別の背景があるんじゃないかと僕は分析しています。
つまり、移民問題はあくまで表層的な部分で、離脱派の根本には経済政策、社会福祉政策、賃金問題などに対する政府への不満がある。そうした様々な不満を離脱派の政治家たちが巧みに利用し、移民問題に収斂(しゅうれん)させた。シンプルなメッセージとして力を持ってしまったのではないか。
-離脱派のリーダーにはどんな人が?
マッカリー 保守党のボリス・ジョンソン元ロンドン市長が離脱キャンペーンの主役でした。実は、彼は元々、残留派だったんです。しかし今年2月に突然、離脱支持を表明し、いつの間にか離脱派の中心人物となり、国民投票に非常に大きな影響を与えました。
結果的にキャメロンが辞めてしまって、今やジョンソンは次の首相候補となっていますが、スコットランドの独立運動は再燃するし、経済的にも困難を迎えるであろう国の首相に自分がならないといけないという極めて皮肉な状況になっているわけです。国民投票直後は「やった! 俺らは独立したぞ」と喜んでいましたが、今は一歩引いているように見えるのは気のせいでしょうか。
ジョンソンら離脱派の政治家たちはこれから苦労すると思います。移民の問題を解決したとしても、庶民の根本的な不満を改善できる状況ではないことを彼らは知っているからです。彼らはウソに基づいた主張で離脱派を勝利に導きましたが、これから多くの問題を背負うのは彼ら自身です。
-それにしても、なぜキャメロンは国民投票なんかやったんですか? 別にやらなくてもよかったんでしょう…。
マッカリー 確かにやらなくてもよかったんですが、与党・保守党はイギリスがEUに加盟した時から、党内でEU派・反EU派の対立が続いていて、その対立はもはや抑えきれなくなっていた。キャメロンは国民投票をやれば残留派が勝てるという楽観的な見通しの上で、ある意味、党内の統制を図るために国民投票に踏み切った。だから、実際には保守党内の問題であったと言ってもいいかもしれない。
そういう意味では、保守党内の問題解決のために行なった国民投票が、イギリスを分裂の危機にさらすという極めて悲劇的な結果をもたらしてしまいました。
-その一方で、基本的に残留派だった野党・労働党も内部で揉(も)めているそうですね?
マッカリー 残留キャンペーンを有効に指導できなかった党首のジェレミー・コービンに対する不満が爆発していて、労働党の「影の内閣」の閣僚11人が全員辞任するという事態になっています。保守党は真っぷたつ、労働党もお家騒動…イギリスがバラバラになりかねない、極めて深刻な状況です。