「お世話になった人たちや埼玉に少しでも恩返しがしたい」と意欲を見せるそうぎの窓口の加藤佳孝会長 |
業界初の葬儀見積入札サイト「そうぎの窓口」が9月にオープンする。希望する葬儀の条件を入力すると、複数の業者から一括で見積りが取れる画期的なサイトで、県内全ての葬儀社が対象となる。
運営会社の「そうぎの窓口」(東京都板橋区)を立ち上げた加藤佳孝会長(53)は、2012年1月に民事再生法の適用を申請した総合建設会社「上尾興業」(上尾市)の3代目社長を務めていた。倒産のどん底を乗り越え、葬儀業界という新たなステージで復活を期す。
―サイト開設の背景は。
「葬儀社は基本的に訪問販売が禁止され、直接的な営業ができない。PRできるメディアも限られ、自社で広告を出すと多額の費用がかかる。一方、利用者からすると、業者の良し悪しが分からず、病院や搬送業者の紹介で決めているのが現状。想定をはるかに超える料金を請求されても、不祝儀だけに文句も言えず泣き寝入りするケースも多い。葬儀社と利用者の双方が納得いくマッチングができないかと考えた」
―主な特徴を。
「利用者は地区や葬儀の種類、参列者人数などの条件を入力すると、3時間以内に複数の葬儀社から一括で同一書式の見積りを無料で取ることができる。葬儀社を決定するまでは匿名のままなので、安心してご利用いただける」
―葬儀社側については。
「県内すべての葬儀社(約600社)は、無料で名称や所在地などの基本情報が掲載され、見積入札にも参加できる。見積入札に参加すると、一番安い業者の料金と自社の順位が分かり、3時間以内に一度だけ再入札ができる仕組みだ。有料会員(毎月1万円)になれば、多くの詳細な情報を掲載してアピールでき、自動で見積りを瞬時に送れる『自動見積入札機能』も付く。評価に関しては星五つを最高点として、利用者の評価や見積入札への参加状況が、当社の算出方法で加味されて掲載される」
―売り上げ構造は。
「有料会員の会費に加え、サイトのマッチングで葬儀が行われた場合は営業協力金を頂く。一方、アンケートにご協力いただいた利用者には、謝礼(弔慰金)を差し上げたいと考えている」
―今後の予定を。
「7月29日に業者向け説明会(大宮サイサンホール)を開き、9月1日にサイトをオープンする。地盤的に明るく、思い入れがある埼玉県を皮切りに、いずれは対象エリアを関東全域に広げたい」
―4年半前は建設会社の社長として倒産を経験した。
「当時は大変だった。リーマンショック後に東日本大震災があり、修繕にも相当の費用がかかった。建設不況に耐えられず、事業継続を断念せざるを得なかった。祖父の代から続いてきた会社。葛藤はあった。今でも悔しい。何より、多くの方々に多大な迷惑をかけてしまった。本当に申し訳なく思っている」
―第2の人生が本格的にスタートする。
「世の中、捨てたもんじゃない。家族や周りの方々の支えがあって、ここまでやってこられた。心から感謝したい。人は孤独でなければ何でもできる。お世話になった人たちや埼玉に少しでも恩返しできるよう、この事業に人生の全てを懸けて臨む」
■かとう・よしたか
1963年生まれ。上尾市出身。29歳から約20年間、総合建設会社「上尾興業」の3代目社長を務めた。
同社は2012年1月、約57億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請。再建は厳しく、約2年の歳月をかけて100人近くの従業員を再就職させ、会社を閉めた。
その後は病院のコンサルタント業などに携わり、15年5月25日に「そうぎの窓口」を設立。現在は妻の千加子さんが社長を務める。問い合わせは同社(電話03・6912・3000)へ。
■記者の目/イメージUP、サービス向上期待
葬儀見積入札サイトの導入により、利用者は葬儀社を比較し、納得した上で決めることができるようになる。グレー部分が多いとされる葬儀の透明性も高まり、業界のイメージアップや業者のサービス向上につながることが期待される。
加藤佳孝会長には、倒産当時のご苦労や心の葛藤、多くの人々に対する謝罪や感謝の念、そして第二の人生に懸ける思いを赤裸々に語っていただいた。心から御礼申し上げる。事業の成功が、同じように憂き目に遭った経営者の方々へのエールにもなることを願っている。