【毎日新聞特集「湖国の人たち:オピニオン’11」 福田保子さん】
◆軽度・中等度難聴児の福祉を考える会代表・福田保子さん(37)=栗東市
◇障害者手帳、有無の壁 助成制度求め団体結成
1割負担と全額自己負担。同じ補聴器が必要な難聴児でも、身体障害者手帳の有無で経済的な負担は大きく異なる。今年1月、手帳認定から外れている軽度、中等度の難聴児の親たちが県に独自の助成制度を求め、団体を結成した。代表の福田保子さん(37)に団体設立の理由や親の思いを尋ねた。【姜弘修】
--考える会設立の経緯は?
個人的に手帳の有無で補助が出たり、出なかったりするのはおかしいと思っていたんですが、1人で役所に掛け合っても「手帳があるから支援がある」という対応で、話を聞いてもらえない。1人より、同じ思いの人が集まった方が話がしやすい、声が届きやすいのかなと。県立聾(ろう)話学校の先生に相談し、保護者や支援者の方々で会を作りました。子どもが手帳を持っているけど、趣旨に賛同してくれた方もいて、会員は現在92人です。
--手帳認定は聴力70デシベルを基準に“線引き”されています。
補聴器は耐用年数が5年ほどで買い換えが必要ですが、数万~数十万円と高額で、全額自己負担はかなりきつい。子どもの成長を考えると、親としては本人に合った、性能が良いものを付けさせてあげたいんですが。手帳があれば10万円が1万円で済むと考えると、腑(ふ)に落ちないところはあります。
--子どもの成長との関係は?
言葉を獲得する時期に補聴器がないと、言葉の聞き間違いがあるんです。例えば「ひ」を「し」に、「し」を「ち」に、「え」を「て」にとか。これから小学校、中学校と勉強していく上で、最初に言葉を覚えていく一番大事な時期なので、しっかりと聞こえる補聴器は必要です。
--だからこそ補聴器の性能が気にかかるわけですね。
うちの子どもが初めて補聴器を付けた時の表情は、今も覚えています。「えっ」と驚いた表情で。聞こえなかった音が聞こえると、笑顔になってくるんですよ。だから、今までと違う、性能が劣る補聴器を付けると嫌がるんです。そんな時は親としてつらいところがありますね。
--3月と9月に署名を添えて県の担当課に要望し、9月は1万人余りの署名を提出されました。
これだけ賛同がありますと伝える効力があると思い、まずは署名集めからスタートしました。署名用紙を会員に配り、それぞれ子どもが通院している病院や学校を通じて集めたり、隣近所を回っている方もいます。
--改めて助成制度への思いを。
調べてみて、大阪府や岡山県、京都市など、独自に助成制度を導入し、手帳を持たない聴覚障害の子どものことを考えてくれている自治体がたくさんあるんだと感じました。お金が絡むので、お願いしにくいところはあるんですが、少しでも負担を軽減してもらえると、ありがたいと思います。そのために、私たちも制度の必要性をまだまだ県に訴えていかないといけないと考えています。
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■提言
◇「サポートも必要」理解を
手帳がないから聞こえる、補聴器を付ければ100%聞こえると思われている方は多いと思います。でも、それは誤解だと知ってもらいたい。難聴の子どもは後ろから話しかけられると聞こえませんし、いわゆる「小耳に挟む」ということができない。だから「話しかけたのに、無視された」といった事態が起こる。補聴器は聞こえにくさを軽減するだけなので、サポートも必要なんだということを理解していただければと思います。
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■人物略歴
◇ふくだ・やすこ
大阪府高槻市出身。結婚を機に約10年前に栗東市へ。夫と聴覚障害がある小学2年の長女と3人家族。「考える会」は発起人として推され、代表に就いた。現在は第2次の署名活動中で、来年も第3次へと続ける予定。
(10月15日付け毎日新聞・電子版)
http://mainichi.jp/area/shiga/news/20111015ddlk25040443000c.html