利益を持続的に拡大する企業がもつもの
――書評『創業メンタリティ』

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ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する本連載。第32回は、世界有数の戦略コンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニーのパートナー、クリス・ズック氏とジェームズ・アレン氏の共著『創業メンタリティ』を紹介する。

 

全世界の上場企業を分析して判明した事

 大企業は世界的に、持続的成長を果たすことが難しくなっている。世界の全上場企業の中で、最近10年間、売上高と利益で年5.5%成長を続けている企業は、10社に1社ほどしかないという。

 その稀有な企業の多くは、コア事業と関連事業に軸足を置きつつ、主にコアを進化・拡大させて新たな伸びしろを見つける能力に優れている。

 そうした企業のほとんどは、創業者が経営者として事業に携わっているか(オラクル、ハイアール、Lブランズなど)、創業者が設定した経営理念が生きている(イケアやエンタープライズ・レンタカーなど)という。

 以上は、ベイン・アンド・カンパニーが、世界中の株式市場に上場している企業をすべて網羅したデータベースを分析して、判明したことだ。

 評者が日本企業で考えてみても、成長を続けている大企業は、ソフトバンクや楽天、ファーストリテイリングなどの創業者が経営者であり続ける企業や、トヨタ自動車やサントリーなどの創業者の経営理念が生きている企業がつらなる。

 こうした傾向は、多くの経営学者やアナリストが指摘することであり、読者も納得感のあるところではないだろうか。

 本書の価値は、多くの人が最近感じ始めたことを、データをもって実証的に明かしたことと、その理由を分析したことにある。そしてそれを、コンサルタント会社として、企業経営に実践的に活用できるように、誰もがわかるようにまとめている。

 具体的には、「創業目線(メンタリティ)」というコンセプトでまとめ、特徴的な3つの側面として、「革新志向」「現場へのこだわり」「オーナーマインド」を抽出している。

 革新志向は、経営者から従業員まで全社員にとって仕事の原動力になる。創業者の核になる思いは、「満たされていない顧客のため業界に戦いを挑むことが起業」とか、「新しい市場をつくることが革新」などとさまざまだが、そうした思いが組織全体に行きわたると、創業者がいなくなっても、その力は持続的に働くと分析する。

 そして、革新志向は、製品特徴の決定、広告宣伝、人事システムの構築などにおける方向性を明確にするから、活動にぶれがなくなり、組織全体の力が存分に発揮される。

 現場へのこだわりは、ほとんどの創業者がもつものである。創業者は、顧客体験とすべての業務まで把握したいという知的好奇心が旺盛で、現場に生き、そこで培われた直観があらゆる意思決定で使われる。現場へのこだわりは、経営者の理念が生きる企業においては、顧客支持獲得への執念、現場への権限移譲、絶えざる実験という面で具現化する。

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