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嫁を動かす

HOW TO WIN WIFE AND INFLUENCE PEOPLE

それでも大地を耕す件

嫁を動かす

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1932年3月1日、五族協和の王道楽土建設を目指して満州国が成立した。五族とは、満州人、蒙古人、漢人、朝鮮人、日本人を指し、五つの民族が協力して平和な国を作ることを理念とした。

 

実質は日本の傀儡国家であったが、人口の増加と共に満州国は大いに繁栄した。しかし、太平洋戦争の終結と共にわずか13年あまりで消滅する運命をたどる。


アンニョイな夏休み。家族協和の理想を実現すべく、ユートピアを求めて嫁の実家への移住を果たした。しかし、移住前から果てしなく続いた嫁の実家の開墾作業。ワタクシは疲れ切ってブログを書く気力すら失っていた。

 

満州に移民した日本人も、作物の育たない痩せた土地への入植を強いられ、夜になると盗賊が入植地を荒らしにやってくるため、銃を持って戦わなくてはならなかった。

 

苦労を重ねた先人達に思いを馳せながら、汗だくになって労働に励む日々。先に入植している姑氏はそんなワタクシをよそにソファで寝転がっている。嫁はエアコンの効いたアパートで何もしていないのに疲れたと寝ている。


過酷な環境の下でワタクシがこの1週間、たった一人の武装移民として行った作業と被災の状況を列挙する。

 

・壊れているエアコンの取り外しと廃棄

⇒作業中に足に裂傷を負う。

・婚礼タンスの廃棄

⇒嫁姑が運ぶのを手伝わないため、部屋でタンスをバラして一人で粗大ごみに出したが、腰をいわす。

・舅氏の遺品のスーツなどの洋服を古着屋へ持っていく

⇒45リットル袋に4袋分を持って行ったが400円にしかならず。

・アパートや実家の引越ゴミをゴミ処理場に直接搬入

⇒ゴミごと焼却炉に落ちそうになってビビる。

・引っ越し、退去の掃除、新居の片づけ作業全部

⇒嫁・姑一切の手伝いを拒否。退去3日前になって危機を感じて大物だけ引っ越し屋のアリさんを呼ぶ。3万円の出費。

 

他、もろもろ。


作業の間には、10分に1回蚊に刺されるかのように、姑氏からの絶え間ない小言攻撃に悩まされた。ゴミ箱の位置を10センチ動かしただけで文句を言われる。

 

庭に不用品をちょっと置いていただけでも、

 

「付け火される!ご近所に言われる!」

 

などと、ここ10年くらい聞いたことのなかったセリフを吐かれて、ワタクシは限界に達していた。


そして、柳条湖で事変は起こるべくして起こった。ワタクシがアパートから冷蔵庫を運び込むため、階段の幅などを測って計画を立てていたところ、

 

「邪魔だから冷蔵庫持ってくんな~」

 

とソファに寝ころびながら、微妙な距離を取り聞こえるか聞こえないか程度の小言攻撃。しかし、確実に聞こえるようには発声する小意地の悪さ。

 

ワタクシの怒りは頂点に達して、ユートピア建設計画の変更を決意した。そもそも、赤の他人同士が互いに協力することなど不可能である。人間は生まれながらに自己中なのだ。


ワタクシは胃痛で吐きそうになりながら、やり場のない怒りをポケモンGOのポッポにぶつけた。手持ちのモンスターボールをすべて投げ終え、怒りを鎮めたワタクシは、移民計画の変更を決めた。

 

というわけで、一旦、満州に移住するが、すでに住み着いている蛮族を追い払うか、自分たちがすぐにまた移住する方針を大本営発表として嫁に伝えた。

 

嫁はそのまま実家に居座るつもりのようだが、ワタクシは関東軍ばりの強引な手法も厭わない覚悟である。すでに向こうが仕掛けて来たのだから、ワタクシには抵抗する大義名分がある。リットン調査団に説明すれば納得してくれるだろう。


兎にも角にも、嫁と娘とネコを連れて移民は果たした。すでに困難に見舞われているが、まだまだこれからが本番だと思っている。ワタクシのパソコンの周りには手付かずの自然ならぬ荷物が未だに積まれている。

 

心の拠り所であるD・カーネギー先生の名著「人を動かす」もどこかに埋もれてしまい、本来、ここいらで始める読書もままならない。が、ワタクシの脳裏にはすでに名著の一節が刻まれている。 

「偉人は、小人物の扱い方によって、その偉大さを示す」

 

「人を動かす」(何ページか忘れた)より引用

老い先短い小言の多い老婆や、ポケモン探しに夢中の嫁のような小人物に、怒るほどワタクシは落ちぶれていない。まだ見ぬユートピアの建設のため、ワタクシは一人、ただひたすらに大地を耕す。

 

土に鍬を入れるかのように、荷物を一つ一つ片づけて入植は始まる。毎日の労働の積み重ねが将来の実りを生むのである。たとえ、シベリアに抑留されることになろうと、家族と離れて引き揚げ船に飛び乗ることになろうと、ワタクシは土地を耕し、種をまく。

 

古来より人類が続けてきた営み。労働という尊い行為、そのものに喜びを見出し、ワタクシは人としての偉大さを示すのである。はやくポケモンGOがしたい。