安倍首相がきのう、第3次再改造内閣と新たな自民党執行部を発足させた。

 麻生副総理兼財務相や菅官房長官、岸田外相を留任させ、政権の骨格は維持した。入院中の谷垣前幹事長に代わる幹事長には、二階前総務会長を充てた。二階氏は18年9月までの安倍首相の党総裁任期の延長に前向きな発言をするなど、一貫して首相を支持してきた。

 防衛相には歴史認識などが近い稲田前政調会長を起用。自らの支持基盤への配慮もあっただろうが、韓国や中国のメディアが警戒感を示している。

 7月の参院選で自民、公明の与党が大勝したのを受けて、世論受けを狙う人事より、政権の安定を重視した守りの布陣と言えるだろう。

 首相がいま、問われているのは、参院選の大勝をどう生かすかだ。衆院を解散しなければ、あと2年余、衆参両院選挙のない期間が生まれる。この圧倒的な「数」と「時間」という政治的資産を何に使うのか。

 安倍内閣はアベノミクスで得た世論の支持を追い風に、特定秘密保護法や安全保障法制に力を振り向けてきた。

 首相は、きのうの記者会見で在任中の憲法改正に改めて意欲を示した。だが、日本政治にとっての最優先課題は他にある。

 世界でもまれな少子高齢化にいかに立ち向かい、子や孫の世代に持続可能な社会をどう引き継いでいくか――。多くの国民はそれを望んでいるはずだ。

 求められるのは、長期的な視点に立った政治の営みである。社会保障の立て直しにしても、財政再建にしても、国民にビジョンを示し、「痛み」を求め、理解を得る。そんな粘り強さが欠かせない。

 エネルギーや働き方の改革を含む成長戦略も、成果を生むまでには相当の時間が要る。

 政権はこれまで「デフレからの脱却」の掛け声のもと、金融・財政政策を「ふかす」ことに重きを置いてきた。

 かつてないほどの安定政権を得たいま、逆風をも覚悟し、広く、長い視野で真に必要な政策に取り組めるか。

 野党、とりわけ第1党の民進党に協力を求めることも必要だろう。4年前、民主党政権が主導し、自公両党と合意した「税と社会保障の一体改革」の枠組みは崩れている。首相の2度にわたる消費増税延期がその原因だが、首相は一体改革をどうしようとしているのか。

 厳しい課題から逃げることなく、改革を前に進めなければ、安定政権に意味はない。