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【社説】

経済対策 見掛け倒しの水膨れ型

 政府がまとめた経済対策は事業規模二八・一兆円と見掛けが大きいだけの水膨れ型だ。市場の目先の評価ばかり気にするアベノミクスの典型である。必要なのは少額でも効果のある対策のはずだ。

 安倍晋三首相が参院選で掲げた「アベノミクスのエンジンを最大にふかす」という訴えが信任を得たといいたいのだろう。国と地方の財政資金に加え、無駄な公共事業の温床だとして縮小してきた財政投融資を六兆円も投じ、規模を目いっぱい膨らませた印象である。

 さすがに台所事情が厳しく野放図に借金に頼れなくなった事情があろう、国の財政支出は二〇一六年度補正と一七年度当初予算にまたがり計六・二兆円。代わりに目を付けたのが「第二の予算」といわれる財政投融資である。

 国債の一種である財投債を発行して資金を集め、投融資する仕組みだが、一般会計の枠外なので基礎的財政収支には影響せず都合のいい「財布」だ。しかし、かつて郵貯や簡保の資金を原資に膨張し、無駄な公共事業が問題となって〇一年から改革を進めてきた経緯がある。忘れたのだろうか。

 自民党は参院選公約で財投を積極活用し今後五年間で三十兆円規模を確保するとした。業界団体をフル活用して票を集める戦い方をみれば、経済対策はぶら下げたニンジン、そして選挙御礼の意味かとみられても仕方あるまい。古い自民への完全回帰である。

 そもそも財投は、民間だけでは手を出しにくい事業に資金提供するものだ。今回、JR東海の中央リニア新幹線大阪延伸工事を前倒しするために三兆円を融資するのはおかしいのではないか。同社は国に頼らず自前で進めると言い続けてきたはずだ。

 「失われた二十年」の間に幾多の経済対策が打ち出されたが、目先の景気浮揚に拘泥するばかりで日本経済を中長期的に成長させることはできなかった。政治家も、省益を目指す官僚も一体となって規模ばかりを追求し、中身は官僚の作文任せになってきたからだ。加えてアベノミクスは人為的に金利を抑え込み、市場機能も財政規律もマヒさせた。

 低所得者に一万五千円の現金を配るなど安易なバラマキや旧来型の公共事業を続ける余裕はない。再生エネルギーの導入を加速する規制緩和や、政府頼みで思考停止状態の企業に投資を促す改革など少額でも有効な対策はある。見掛けだけの対策に期待はできない。

 

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