金融庁は2日の金融審議会で、金融機関が顧客の利益を最優先に行動しているかどうかの検証結果を公表した。検査などを通じて浮かび上がったのは、十分な説明をせずに複雑な仕組みの商品を販売したり、手数料目的で短期間に投資信託を乗り換えさせたりしている実態だ。同庁は幅広く切り込む方針で、金融機関側は身構えている。
「顧客本位とはいえない事例を列記しました」。リスクと収益や手数料構造が分かりにくい商品を投資経験が豊富でない顧客に推奨・販売、販売員が顧客の投資目的を把握しながら目的に沿わない商品を勧誘・販売…。金融庁の担当者が説明に使ったA3用紙には金融商品の販売、開発、運用の現場での問題事例が所狭しと並べられていた。
例えばデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ仕組み債。最初の3カ月間の年率は10%超だが、3カ月ごとの判定日の株価が当初の株価の90%以上なければ年率1%未満に急低下。さらに当初株価の105%以上になると額面金額で期限前に償還する仕組みだ。こうした商品が顧客の理解を十分に得ることなく販売されているという。
矛先は個人向けにとどまらない。新株予約権付社債(転換社債=CB)発行と自社株買いを組み合わせて自己資本利益率(ROE)を高めるリキャップCBと呼ばれる手法もやり玉にあがった。ROEの上昇は一時的なものにすぎないにもかかわらず、発行手数料目当てに証券会社が企業に勧めていることを金融庁は問題視している。
金融庁が顧客本位の業務運営を最重要課題に掲げるのは、顧客不在の姿勢が貯蓄から投資への流れを妨げている一因とみているからだ。金融審の委員も「高い手数料などは長い目でみると業界の利益を損ねる」と指摘する。成功体験を味わえない個人が投資から離れれば市場は縮小し、結果的に金融機関の収益機会も減るというわけだ。
金融庁が顧客本位という観点で包括的に金融機関の姿勢を検証したのは初めて。幅広く対象にしたのは「(注目されている)手数料の開示にとどめないという意思表示」(幹部)だ。同日の金融審には銀行、保険、証券業界の代表もオブザーバーとして参加したが、発言の機会はなかった。