『帰ってきたヒトラー』 - みんなの思い出ヒットラーの復活
帰ってきたヒトラー
ER IST WIEDER DA/LOOK WHO'S BACK
2016/ドイツ/G 監督/ダーヴィト・ヴネント 出演/オリヴァー・マスッチ/ファビアン・ブッシュ/クリストフ・マリア・ヘルプスト/カッチャ・リーマン/他 原作/ティムール・ヴェルメシュ/『帰ってきたヒトラー』
21世紀の諸君、お待たせしました。
もうじきお盆なのでご先祖さまの霊が帰ってくるとか。この前くたばったお爺ちゃんの悪霊が帰ってくると嫌なので塩撒いとこ。
シッシッ。
てなツカミからさりげなく且つ大胆に、改行を再開した事をアピールしてみたわけですが、「おまえのくそぶろぐ、かいぎょうしてないからよみづらい、すまほからもよみやすくしろ。いきろ。」というたいへん有難いメールをPCから送って下さった埼玉在住の匿名希望さんこれでよろしかったでしょうか。OKサインの代わりに文末の「いきろ。」の意味を横のメルフォから送って下さると私の得心が行って非常に助かります。
まあそんな事を考えながら、あっ「そんな事」というのはツカミに書いた夏に亡者が黄泉帰ってくるって俗説の方なんですけどね。まあそんな事を考えながらシネマ・クレールへとダイブオン。目当ては岡山でもやっと上映が始まった『帰ってきたヒトラー』インザドイッチュラント。「インザドイッチュラント」とかわざわざ強調しているのは、ドイツ以外の場所ではもう散々蘇っておられます地獄の総統閣下が、ついに本国で蘇った事に対するささやかなオドロキと不謹慎な期待から。決してお盆に死者がぞろぞろ復活してくるという我が朝の迷信とかけて何かうまいことを言おうとして、特に何も思い浮かばず誤魔化したわけではありません(ありませんったら、ねえ)。
実は原作は結構前に読んでいて、「ひとしきり笑った後にゾッとする」なるちまたの評判通り、ひとしきり笑い転げて上下巻まとめて1日で読了してその後夕飯のソーセージまで美味しく感じたのは深く記憶に残っている。当時からもう「映画化決定!」と触れ込まれていたこともあって、正味の話、映画の前哨戦として読んでいた側面もありました。なのでいざ映画『帰ってきたヒトラー』を観てみるや、後半の大幅な改変や、本物の通りすがりを用いたドキュメンタリタッチなモブと総統閣下とのやり取りなぞに、かの国の自己言及性、それも悲鳴や軋轢をブラックユーモアで糊塗し吐き捨てるが如きもの、を、これでもかと感じてしまい、笑っていいのやら泣いていいのやら。まあ場内一同クスクス笑ってたんで、闇に紛れて自分もゲラゲラ笑っていたんですが。隣に座っていたおじさんみたいにスナック菓子撒き散らかしながらという程ではありませんでしたが。
ほで、笑いながらも、これ、かの国ではジャッカスやサシャ・バロン・コーエンにヤンチャされるどころのイタズラじゃ済まないんじゃないのかしら、とか他国ごとながら心配してみたり。あと前々から思っていたんだけど、ローマ式敬礼をしたりナチスのコスプレをすると官憲に連行される国ドイツで、映画のためとは言えハイル・ヒトラーとやったりしてお咎めなしというのはそこら辺の法整備がちゃんと出来てるからなのかしら、と、背中を伝う不安にもぞもぞしてしまう。そりゃ例えば自分もいきなり街中で復活したヒロヒトに話しかけられたら驚いて、そののち指差して爆笑すると思うので、帰ってきたヒトラーに移民へのヘイトをぶちまけたり、一緒にセルフィを楽しんでたりする人を一概にお味噌扱いしたりはできないし、してはならないと思うし、第二次世界大戦の亡霊の姿形を介して吐露される、軽口に紛れた心情は直視するべきだと思う程度の社会性は保持しているつもり。製作陣はそうした“人間の前提”を信じた上で、最後の方のあの改変に踏み切ったのだろうという漠然とした思いもあります。その意味では、本作のターゲットとして設定されているのは「ヒトラーに詳しい人間」ではなく「市井に詳しい人間」つまり現代を生きる凡俗、私も含めた只々日常を生きて、時折政治に文句を垂れる人間なのでしょう。その割にはちょこちょこ「空中の要塞」などなどナチネタで笑いを取りに来ているのもご愛嬌。原作を踏まえた映画としてはGOTHっ娘のアレコレが多少端折られていたのと(重要な山場も端折られていたが)、「あなたは筋金入りですね」の一言がたぶん配慮によって削除されていたのが少々物足りなかったくらいで、映画単体としても各種の配慮による縛りの中で健闘していたんじゃないのでしょうか。やっぱり日本も負けじと『帰ってきたヒロヒト』を撮らなきゃいけませんね。
帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1) ティムール・ヴェルメシュ 森内 薫 by G-Tools |
帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫) ティムール ヴェルメシュ 森内 薫 by G-Tools |
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