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暴力団の構成員が、ここ3年で1万人余り減少した。暴力団排除条例などの成果で資金獲得が困難となり、“離脱者”が相次いでいるとみられる。はたして、その実態は…。取材班は、暴力団を“離脱”した構成員たちに接触。社会での再出発に挑む者がいる一方で、多くは犯罪に手を染め続けている実態が明らかになってきた。暴力団を離れることで警察の厳しい取締りを逃れ、闇金などで稼いだ方が「手っとり早くカネになる」という。離脱者を社会復帰させる取り組みも始まっているが、容易ではない。“離脱者”が増える中、社会の安全をどう確保していけばよいのか、最前線を追う。
ゲスト
弁護士
三井義廣さん
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この日、取材班は、福岡のある公園に向かった。ここで1人の男と待ち合わせていた。
男は、現役の暴力団幹部。今、暴力団が岐路に立たされているという。
暴力団幹部
「ヤクザが店を出せばつぶされる。ヤクザが商売すればつぶされる。暴力団の影があれば、そのしのぎを止められてしまうわけ。だから飯が食えない。」
先月、警察庁が公表した暴力団情勢の報告書。横ばいを続けていた組員の数が、急激に減少。過去最少となった。暴力団を厳しく取り締まる法律や条例の効果と見られている。わずか3年で1万人の組員が減少。彼らはどこへ消えたのか。
取材班が接触した元暴力団組員。
元暴力団組員
「これが顧客データ。ヤミ金の。」
男は、組を抜けた後も犯罪行為を続けていた。
元暴力団組員
「今、厳しいじゃないですかヤクザは。一人の方が楽でしょ。」
暴力団“離脱者”。消えた1万人の追跡取材から、暴力団対策の新たな課題に迫る。
特報フロンティアです。取締りを強化する条例や、改正された暴力団対策法によってここ数年暴力団の活動は大きく制限されています。先月、警察庁が公表した暴力団構成員の数です。暴力団対策法が作られた平成4年に大きく減少。その後、横ばいが続いています。それが平成22年からの3年間で、再び急激に減っています。その数1万人。最も多く影響したと見られているのが、全国各地で施行された暴力団排除条例。企業や個人が暴力団に利益を提供することを禁じたもので、建設会社や飲食店からの資金源・みかじめ料が絶たれました。暴力団の弱体化が進んでいます。では、暴力団から離れた1万人はどこにいったのか。元組員からの取材から見えてきたのは、暴力団対策の裏側で進行する“新たな現実”でした。
福岡の繁華街。10年間、指定暴力団に身を置いていた男に話を聞くことが出来た。
記者
「○○さんですか?」
元暴力団組員
「はい。」
暴力団への取締りが厳しくなってきた2年前、組を離脱したという。男が所属していた指定暴力団は、企業や市民から用心棒代として、カネを吸い上げて、資金源にしてきた。
カネを集めるのは末端の組員。集めたカネは、幹部に納めなければならない。いわゆる、上納金だ。暴力団排除条例はこのカネの流れを遮断。上納金を納められず、逃げ出す者も出てきた。男も、組員であることにうま味を感じられなくなり、離脱したという。
元暴力団組員
「今、厳しい、ヤクザは締め付けがある。食えない。食えないから逃げるしかない。」
だが…、男は犯罪行為をやめたわけではない。
元暴力団組員
「これは取り立て。債権回収。」
組員の頃と変わらず、ヤミ金や債権の取り立てでカネを稼いでいる。
元暴力団組員
「これは顧客データ。ヤミ金の。これが金になる。」
ヤミ金の利用者の情報は、同業者から買い取った。こうして元組員たちは、暴力団に属さない者と手を組み、犯罪を続けている。ヤミ金では、名簿業者や、違法チラシを作る者…。振り込め詐欺では、電話でだます者、カネを引き出す者…。必要な相手と必要なときだけつながる関係だ。
元暴力団組員
「横のつながりの方が多い。自分がヤクザだったことを知らない人もいるし。自分から名乗ったこともないし、普通に入り込んでいく。自分みたいなやつが集まる。その中から輪を広げていく。」
一方、離脱した元組員の中には、暴力団との関係を持ち続けている者もいる。きらびやかなネオンに紛れて歩く一人の男。都内の繁華街で、風俗店への客引きを仕切っている。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。」
「どう?今日は」
「ちょっと内偵が入っている」
「マジで?」
この男は組員として10年余り、違法な客引きでカネを稼いできた。しかし数ヶ月前、男は組を抜けたいと申し出た。組織を離れ、自己裁量で稼ぎたいと考えたからだ。条件は、組に月70万円を納めること。それでも以前より稼ぎが増えたという。
元暴力団組員
「(売り上げが)月に150〜200万円はあるんで。上納する、一定の金額は決まっているが、それ以外の収入、利益の方は自分の方に来るようになった。そういったところでは良いと思いますね。」
なぜ組員の離脱を許すのか。そこには、暴力団側の更なる思惑があった。ある暴力団幹部が、そのからくりを明かした。まず、暴力団の息のかかった人間を社会に潜り込ませ、資金を獲得させる。
暴力団幹部
「組員になってしまうと、自分たちと同じ立場になり動きづらい。代紋を持たせずに俺たちがケツを持って、登録させずに仕事をさせて上に収入を上げてもらう。」
暴力団は、組員を組織とは関係のない存在に仕立て上げ、水商売や客引きをさせる。取締りの網を逃れて稼いだカネが、組へと流れ込む。警察の摘発を受けた時は、組とは関係ないと切り捨てる。これこそが暴力団を守る形だという。
暴力団幹部
「自分らの身の安全、お金も上がってくる。その時の法律とか条令に合わせて、また違った形態になっていく。なるべく遠ざかって、俺たちは陰になっていく。」
こうした実態を、警察はどう見ているのか。
警視庁暴力団対策課 水野宏志課長補佐
「暴力団員の数が過去最少になったことは、取締りなどの一定の成果が出ていると考えています。その一方で、暴力団はその活動を多様化・不透明化させているのが現状です。全て把握することは難しいですが、離脱者が不法行為を行えば、警察としては当然、検挙していくものと考えています。」
スタジオには暴力団問題に詳しい三井義廣弁護士と、福岡放送局の清水記者です。まず清水さん。1万人の暴力団員が減ったとは言っても、実態としては、離脱者の一部が、今なお、犯罪を続けているわけですよね。
清水記者
確かに元組員たちの取材では、離脱する理由として、心を入れかえたというよりは、暴力団員としてのうま味がなくなったという全く共感できないものが多く聞かれました。そこからは、離脱者が条例や法律での厳しい取締りから逃れ、組織内での規律、いわば「おきて」のようなものからも逃れ、その両方から逃れて、思いのままに犯罪をしているという実態が見えてきました。そういった意味で、これまでとは違った新たな脅威が生まれつつあると言えます。
新たな脅威に対して、警察はどう対応しているんでしょう。
清水記者
離脱者の存在が水面下に潜れば、警察もそれを把握することがより難しくなるため、こうした意味で新たな課題として取り組むことが必要だと思います。
弁護士の三井義廣さんです。三井さん、この1万人の現状、どうご覧になりましたか。
三井弁護士
はい。1万人、数としては減ったということですけれども、その全てが実際に暴力団員でなくなったかというとそういうわけではないんだろうということです。ひとつには、実際にやめたという人もいるでしょうが、いまのVTRにありましたように、新たに違法な活動をしていく資金を稼ぐ。その為にあえて意図的に暴力団という肩書きを外していく。そういう人もいる。それからさらには、最近その暴力団というのは、誰が暴力団員であるかという名簿を作っているわけではありませんし、例えば逮捕されたときにも、自分がどこそこの組の者だということすら認めないという。そういう形で、非常に暴力団内部に関する情報が取りにくくなっている。そのために、この人間が暴力団であると認定しにくくなってる。その結果として、構成員の数から外れていくという形でそうしたもののトータルが1万人という数になっているのだろうと。自分のやっている弁護士という業務のなかでも、今まで4万人いた構成員が、その4分の1が減少して1万人減ったという実感はないわけでして、現場での実感から言っても、1万人全てが離脱した・暴力団員ではなくなったというわけではないだろうと思います。
数字の上で、1万人減ったとは言っても、市民としては安心できませんね。
三井弁護士
そうですね。そういう面はあるかと思いますけれども、ただ、一方で、暴力団という組織としては、確実に弱体化してるということも言えると思います。その組織という背景をもたないということは、組織としての資金を使えない。例えば、銃器などを輸入する密輸するとか、薬物を密輸するとかいうときは資金が必要なわけですけれども、そういう大きな資金を必要とするような犯罪ができなくなる。それから、組織というものを背景にして、これまでは割合、簡単に恐喝なんかもできたわけですけれども、そういう組織は背景としての活動というものも出来にくくなっている。そういう意味では効果は大きいものがあっただろうと思います。ただ、1万人という数の人間が把握できなくなってきているというところで、その人たちが活動している違法な活動に関しては更にその情報を収集するような能力を高めて、最終的にはその1万人の人たちが組織から離れ、違法な活動から離れていくというのを目指さなければならない。そんな風に思います。
実は、暴力団を取り締まる暴力団対策法のなかには、離脱した組員を社会復帰させ、仕事につかせる支援を行うことも明記されています。その仕組みです。
都道府県ごとに、警察や暴追センター、労働局、刑務所、民間の協力者が連携した協議会が設置されています。たとえばある離脱者が就職先を探している場合、協議会が連携して、受け入れ先の企業を探し、紹介することになっています。しかし、去年、協議会を通して就職までこぎつけた離脱者は、全国でわずか9人。うまく機能していないのが現状です。離脱者の就職支援の現場を取材しました。
福岡刑務所
「前に進め!」
暴力団関係者400人余りを収容する福岡刑務所。希望者に、暴力団からの離脱と社会復帰を促すプログラムを行っている。毎年およそ20人が受講して、出所していく。
暴力団関係者
「長い間まともに働いたことがなかったから、ちゃんと仕事していけるか。」
「きつい仕事、お金が安い時もあると思う。けど、それで割り切らないと。」
暴力団を離脱した元組員が真っ先に直面するのが、仕事探しの厳しい現実だ。2年前に暴力団をやめた男性。つてを頼って方々を探し回ったが、雇ってくれるところはなかなか見つからなかった。今の建設会社で働けることになったのは、つい1ヶ月前のことだった。
元暴力団組員
「暴力団は指もないし、入れ墨も入っているので一般の会社は絶対に受け入れてくれない。(就職できて)本当に運が良いというか、その一言ですね。」
簡単にはいかない離脱者の就職をどう支援すればいいのか。福島県の井上勇さんです。会社を経営する傍ら、離脱者を支援する協議会に協力しています。この日、地元の企業を訪ね、九州の暴力団を離脱した元組員を受け入れて欲しいと相談しました。
「47歳 奥さんがいるんです」
「家族で来られるんですか?」
「一人でいいんです。そして子ども2人いるんだって」
井上さんが、離脱者の支援を始めたのは23年前。これまで51人を就職させてきました。井上さんがいつも持ち歩いているものがあります。求人広告の切り抜きです。
井上さん
「こういう募集広告の中から、雇ってくれやすそうな企業を選んで訪問するわけです。やめた者をないがしろにしないで、社会に貢献させるということ、それから彼らを救ってやるということが一番大切だと。」
離脱者のために、暴力団事務所へ自ら足を運ぶこともあります。
井上さん
「離脱届けですね。」
暴力団と縁を切ったことを証明する文書。離脱者の受け入れをためらう会社を説得するために使います。
井上さん
「所属している組長からもらう。そうしないと証明にはなりませんから。暴力団を怖くないといったらうそです。でもね、これ引くわけにはいかないんです。」
これまで離脱者を受け入れてくれたのは、11社。ほとんど井上さん1人で交渉してきました。
井上さん
「もう少し警察や暴追センター、そういうところの支援が無ければだめです。積極的な。」
井上さん
「おはようございます。」
「おはようございます。」
井上さんは、1人でも多く社会復帰させることが、社会の安全につながると考えています。この男性は組をやめた後、おととし建設会社に就職しました。
井上さん
「今はどういう仕事に従事していますか。」
男性
「今は除染ですね」
井上さん
「暴力団時代と比べると仕事は大変でしょ」
男性
「大変です」
男性は今、従業員のスケジュール管理を任されています。
ディレクター
「何人くらいのスケジュールを管理している?」
男性
「全部で60人。みんな現場に入るのに、段取りとか全部している」
刑務所を出た後、仕事が見つからず追い詰められていました。井上さんに仕事を紹介してもらえなければ、暴力団に戻っていたかもしれないといいます。
男性
「最後どうしようもなくなってだめだとなったときには戻ろうかと気持ちもあったけどね、ヤクザにね、もう一回また。自分のいたところに。こういう仕事して良い社長にも恵まれて、うれしかったものすごく。」
井上さん
「暴対法をやるのはいいけれども、締めるのもいいけども、厳しくなればなるほど、社会復帰というものは強化していかなきゃいけないんですよ。その両輪ですね。片方だけが回ってて、片方が回らない状態、脱線状態なんですよ。見直して、再構築しなければだめなんですよ。」
福岡や長崎では、NPOが支援に加わる新たな取り組みが始まっていますが、そういった組織が大切なんでしょうか。
三井
そうですね。その組織的に対応する。そしてそういう組織を作る制度が必要だろうと思います。それからさらに言えば、組織に携わる人の意欲と能力も大切だろうと思います。
そうした組織、運用していく上での課題は何でしょう。
三井
はい。課題としては2つあると思います。1つは離脱する元暴力団員側の問題。離脱の意思が確かなものかどうか。そしてその離脱する意思があるとして、それを実際に離脱できるところまで高めていかなければいけない。そういう離脱の意思の判断の問題と、それをさらに推し進めていくという問題。そしてさらには、最終的には就労という形で一般社会の方に戻していかなくてはいけないわけですから、その就労をできるような準備段階に対する支援というものが必要だろうと。それが1つ離脱する側の問題。
それからそれを受け入れる社会の問題として、受け入れ企業があるかどうか。ここが現実には非常に難しいわけですけれども、ひとつには、暴力団員を社会に戻していくということの目的意識をはっきりその企業の人たちにも持っていただくということが必要でしょうし、そういう意味の意識改革。それからただ意識改革だけを求めても、なかなか現実にはついてこないわけですので、例えば離脱者を就労させることによる、企業側のメリットを明確に打ち出していくことも必要だろうと思います。
離脱する人がそのまま、また暴力団側に戻ってしまってまた犯罪を犯すということになれば、その犯罪に対する対策にかかる費用であるとか、あるいは被害者の受ける被害であるとか、デメリットというものが非常に膨大なものになるわけで、そこを戻す側といいますか、同じ費用をかけていくことで社会全体が安心して暮らせる、そういうものにしていくことができれば、離脱ということが非常に大きな意味を持ってくるだろうと思います。
ゲストは弁護士の三井義廣さんでした。ありがとうござました。