3D映画化「ルドルフとイッパイアッテナ」--LA拠点・榊原監督に聞く、作品の見所と現地映画事情

2016.08.02 18:30

8月6日に公開となる映画「ルドルフとイッパイアッテナ」。この作品の監督を務めるのが、映画「ポケットモンスター」シリーズの監督を19年間務め続ける湯山邦彦氏と、アメリカをはじめ80ヶ国以上でOAされた3DCGアニメ「パックワールド」をヒットさせ、ロサンゼルスに活動拠点を置く榊原幹典氏だ。

1987年に刊行され、シリーズ累計100万部を誇る「ルドルフとイッパイアッテナ」がついに3DCGに。井上真央(ルドルフ)、鈴木亮平(イッパイアッテナ)など声優陣も豪華なこの作品。
今回お話を伺ったのは榊原幹典氏。2002年にSprite Animation Studios を立ち上げ、2004年からロサンゼルスを拠点に活動している。榊原氏に、CGに込めたこだわりや、現地での映画製作事情について伺った。

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(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会

■「リアルさ」と「温かさ」のバランスを意識

--今作の見所について教えてください。

榊原:
日本のCGアニメの中でも、ここまで本格的に猫の毛並みを再現したものはなかなかなかったと思います。また、猫の動きにもこだわっています。作中で猫同士が喋っている時はキャラクター的な動き、人間が隣にいる時には動物らしい動きをしようという使い分けをしています。また街並みの雰囲気や季節感も工夫したところです。
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(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会

--街並みを再現するために工夫した点は何ですか?

榊原:
どんな人が見ても「身近な街だな」というところを再現しました。一方で、写真のようにリアルにすると温かみがなくなるので、デザインや質感のつけ方、模様のテクスチャをどの位リアルにしてどの位まで省いていくか等といったところも工夫しました。

--身近に感じてもらえるよう、あえてデフォルメしたということでしょうか。

榊原:
実は初期はもっとデフォルメもしたんですが、最終的にはリアルさと温かさのちょうどいいバランスのところに落ち着きました。よく見て頂くと、まっすぐな線があまりなく少しだけ歪んでいたり、ドアのサイズを大きくしてデフォルメしたりしています。すぐには気づかないところを細かく調整して、両立の線を狙ったんですね。

--日本の街並みを改めて見に行くこともあったのでしょうか?

榊原:
谷中の商店街や、(作品の舞台となっている)北小岩を見に行きました。実際に回ってみるとその時作っているCGと全然違うなと感じたので、ロサンゼルスに戻って「見てきたんだけど全然違ったわ」と話して、作り直しました。表面的には違っていないのですが、実際の商店街を見てみると、混沌とした美しさ・迫力、生きている感じがあったので、それを踏まえてやり直そうと。商店街にいるだけでも人の服装とか、自転車が多いなとか、その自転車には必ずかごがついていてしかも前も後ろも、とか、ベビーカーが多いなとか、行かないと分からないことが結構あったんですね。
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(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会

■大事にしている「引き算」

--榊原監督のキャリアについても伺いたいです。ロサンゼルスに拠点を移されたのはいつ頃からですか?

榊原:
2004年からなので、おおよそ12年ですね。その前、まずアメリカに来たのは1995年頃のニューヨークからです。その時から、ピクサーとやドリームワークスといったプロダクションがいっぱいあり、CG技術は今もそうですがアメリカが先頭を走っていたので、自然とアメリカで勉強したいと思っていました。

--どのように技術を習得していったのでしょうか?

榊原:
遡ると1999年から2年間、共同監督という立場で、「ファイナルファンタジー」の映画に携わっていました。そこで今一緒にやっているSprite Animation Studiosのコアメンバーと知り合って、そのプロジェクトが終わった後の2002年に、みんなで独立して会社を興しました。「ファイナルファンタジー」に携わった当時は22ヶ国からアーティストが集まっていて、有名な映画をつくった人も沢山いて、その時代はまだ「シュレック」も出ていない時期でCG映画が黎明期で、混沌とした中から映画を作る...それは貴重な体験でした。
こうして2年くらいハワイで活動した後の2004年からがロサンゼルスですね。その辺の技術の習得は、今回もスーパーパイザーとして関わってもらっている弊社のコアメンバーたちがキャラクター、アート、エフェクト、アニメーション、ライティングなど、各セクションごとに習得していきました。その中でSprite Animation Studiosが目指しているものは「こうだ」とみんなで考えていて、今作で全てそれをアウトプット出来たと思っています。

--目指している「こうだ」という像は、どのようなものなのでしょうか?

榊原:
引き算ですね。アメリカでの主流はテクスチャを積み重ねてリアルを見せることで説得力を出している手法ですが、僕らは日本人的な考えなのか、省いて大事なものだけ残すやり方を目指していました。今回も関わっているSprite Animation Studiosのスーパーバイザーはみんな日本人なので、その辺は何も言わなくても分かるような関係性です。

--ロサンゼルスで日本人以外の現地のスタッフの方と話すときは、その哲学をどのように伝えているのでしょうか?

榊原:
今回もモデリングなどで現地のスタッフに参加してもらっているので、ディテールの入れ方をどのくらいで止めるかなど、もちろん議論になることもあります。なので、具体的な指示ができるようにビジュアルで具体的に「このくらいの落としどころにしてほしい」と見せたりしました。そうして出来上がってくるものが良いと、みんな「ああ、こういうことか」と思ってくれるので。
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(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会

--ちなみに、今のロサンゼルスにおける映像技術のトレンドなどはありますか?

榊原:
ジャンルによって大分違います。ゲームだとリアルタイムでどれだけリアルな映像を作れるか。ピクサーの映像だと、リアルなところを突き詰めていきながらも、キャラクターアニメーションの表現としてもずば抜けていくような。映画はディズニーの一連の作品が、単純な技術だけではなくスタッフのマネジメントも含めて、「一年間でそういう映画を作っちゃうんだ」という洗練されている部分を感じます。

--3Dでの表現も定着してきていますか?

榊原:
日本に比べてアメリカは当たり前になってきているなと思います。映画だけではなくテレビでもレベルは違いますけど、そういった表現にトライしていたり。日本に比べて3Dに対する受け入れ方が広いので、その分進化しているのではないかなと思います。

--ロサンゼルスという場所が、創作に影響することもありますか?

榊原:
日本に比べると誘惑が少ないですよね。移動は基本車だし、仕事が終わって飲みに行こうということもなかなかないですから。安定した生活スタイルといいますか、ノイズが入らずに一定したリズムで仕事が出来ますね。この点は長い期間、集中しないといけない映画のプロジェクトだと結構大事なのかもしれないと思いました。 またロサンゼルスは、メジャーなスタジオがすぐ近くにあって、仕事のきっかけがあれば、気軽に打合せしたり会ったり出来るメリットはありますね。
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(C)2016「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会

--ここしばらくアメリカにいらした中で「日本らしさ」のある作品に向き合うにあたり、感じたことがあれば改めてお聞かせいただけますか?

榊原:
Sprite Animation Studiosを始めて12年。自分たちのスタイルや製作の仕方を確立してきた中で、念願かなっての映画製作、しかも日本の題材というのは気持ちが入りました。これまで英語の仕事が多かった中であらためて思ったのは、日本語だとダイレクトに感情を出せること。またハリウッド的ではない、間の取り方もたっぷりとった情感のある映像になっています。日本の観客のみなさんのために作った映画です。

--お客さんに注目して頂きたいポイントがあれば、教えて頂けますか。

榊原:
やはり、猫の表現ですね。猫好きの人に納得してもらえる仕事にしたいという気持ちがあったので、猫は大事に表現しました。そこは頑張ったつもりです(笑)。また、先程もお話した通りアメリカに10何年いて、日本の作品をやるということには思い入れが強いので、「日本らしいCGアニメだな」という気持ちで見てもらえると嬉しいです。

映画「ルドルフとイッパイアッテナ」は8月6日公開。上映される劇場情報など、詳細は公式サイトhttp://www.rudolf-ippaiattena.com/)から。

取材:市來孝人

SENSORS Web副編集長
PR会社勤務を経てフリーランスのWebエディター・PRプランナー・ナレーターなどとして活動中。「音楽×テクノロジー」の分野は特に関心あり。1985年生まれ。
Twitter:@takato_ichiki / Instagram:@takatoichiki

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