【ワシントン=河浪武史】国際通貨基金(IMF)は2日発表した対日審査の年次報告書で、日銀の大規模金融緩和について「長期化すれば金融システムへのリスクが増える」と警告した。とりわけマイナス金利政策は銀行の業績悪化につながり「代替策をとるべきだ」と厳しく指摘した。
対日審査は3年半の安倍政権の政策点検に重点を置いた。アベノミクスは「初期は成功した」が、足元では「物価上昇の推進力を失った」と分析した。中期的な物価上昇率は約1%にとどまると予測し、日銀が目指す2%の早期達成は難しいとの見方を示した。
金融政策については「大規模緩和が長引けば国債市場の流動性がさらに細り、長期金利の急変動など金融システム不安が高まる」と警告した。
低成長が続く場合は「金融政策を長期目標に設定し直し、追加緩和がもたらす利益と中期的なリスクを慎重に比べて考えるべきだ」と柔軟な見直しを求めた。特にマイナス金利政策の効果は民間の資金需要が乏しく限定的だと指摘。国債を大量に持つ銀行の経営を圧迫し「収益力がさらに悪化すれば信用仲介に影響する」と懸念した。
消費税増税の再延期については「短期的な成長を支える」ものの財政政策に「信頼できる中期的なアンカーがない」と批判。税率を15%まで段階的に引き上げるよう提言した。円相場の水準は「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)とおおむね整合的」と指摘。日本の円売り介入への動きは支持しない考えをにじませた。
IMFは成長加速には「構造改革が不可欠」とも強調した。とりわけ「企業の賃上げを促す政策の強化」を求め、賃金上昇により物価を押し上げる労働市場改革が必要と訴えた。安倍政権が決めた最低賃金引き上げは「歓迎する」とした。