為替介入とFXの関係についてまとめる
今回は為替介入とFXの関係についてまとめます。
- 単独介入と協調介入の効果の違い
- 不胎化介入と非不胎化介入の効果の違い
などについて基本からまとめています。
なぜ為替介入が必要か
為替は国民の生活に大きく結びつく分野です。どの国も自国通貨が極端に高くなってしまったら産業の競争力が落ちるし、反対に安くなり過ぎれば資本流出や物価上昇などに悩まされることになります。
日本のように安定している国の場合は、主に円高(自国通貨高)による仕事の海外流出が問題視されるケースが多いですね。
反対に、アジア通貨危機時の東南アジアのように、国内に資本が蓄積されていない場合は、自国通貨安は海外への支払い能力に影響するため経済危機に直結します。
このように為替は一国の経済に大きな影響を与えるにもかかわらず、しばしば極端な値動きをすることがあります。
変動相場制というのは市場の調整機能によって適切な為替レートを実現する手段ですが、市場の参加者である投資家も手探りであるべきレートを探っている以上、為替市場の行き過ぎは避けられないものです。
そのため、政府や中央銀行は為替レートを注視しており、為替レートが極端な水準にあると判断した場合には為替介入を行うのです。
単独介入と協調介入の違い
為替介入は中央銀行や政府(国家)といった巨大な存在が為替市場を動かそうとするものなので、FX市場に大きな影響を与えます。
しかし、その効果は為替介入の種類の違いによって大きく異なります。
効果が限定的な「単独介入」
単独介入とは、文字通り一国が為替市場に単独で介入することです。
一国単位で行うため、その国にとって都合が悪い為替水準にあれば、いつでも起こりえます。一つの国の都合だけで実施できるので、機動性が高いのです。
しかし、それで為替市場を自由に動かせるかというと、うまく行かないケースも多いのです。
日本が為替介入を行う場合は、一連の為替介入で10兆円近く使うケースがあります。欧州債務危機の影響で円高が加速した2011年10月末から5日間で9.1兆円の資金を使って為替介入しました。
しかし、それによって為替市場の流れが変わったかと言えばそんなことはなく(介入効果は短期に留まり)、その後も日本は円高に苦しみ続けることになります。
為替市場の流動性は非常に高く、1日で500兆円もの金額が売買される市場です。
日本が介入に使った10兆円近いお金は、(大きな金額なので一時的に為替レートを円安誘導することはできるが)500兆円もの流動性がある為替市場の流れを反転させるような力はないわけです。
効果抜群の「協調介入」
一国の判断で勝手に行う「単独介入」とは対照的に、複数の国で連携して行う「協調介入」というものもあります。協調介入は、単独介入と違いFX市場に絶大な影響力を持ちます。
なぜ協調介入が効果的と言えば、複数の国が絡むので単純に介入できる金額が大きい、というだけではありません。
「為替をこっちの方向に動かそう(動かすべきだ)」という国際的な合意が出来ているという事実が重いのです。
どういうことかというと、単独介入なら、日本が円安ドル高を望んでいたとしても、米国は自国通貨高を望まないかもしれません。むしろ望まないケースはかなり多いでしょう。
為替介入をする国に、反対する立場の国があれば、かならずけん制が行われます。そうした状況下で、自国の利益だけを考えて長期間介入するというのは、国際的な問題に発展してしまいます。普通の国はそうした国際問題は避けようとするので、為替介入を長期間にわたって行うことはしません。
となれば、単独介入にはタイムリミットがあるので、為替市場のプレーヤーから足元を見られやすくなります。
しかし協調介入ならどうでしょう。
国際協調がとれているので、反対する国はありません。
複数の国の政府が大量の資金で介入するうえに、国際協調下で行うという為替介入であるので、際限なく介入してくる可能性があります。
為替市場の投資家だとしたら、世界中の政府の向こうを張って戦うことは無意味だと思うでしょう。
だから協調介入は成功率が高く、効果的なのです。
ちなみに有名なプラザ合意もその後の先進5か国(5G)による協調介入で、ドル安トレンドを作り出すことになります。
ここまでで以下のことが分かりました。
- 単独介入の効果:限定的
- 協調介入の効果:非常に大きい
不胎化介入と非不胎化介入
為替介入について話題になる時に、単独か協調か、だけでなく、不胎化か非不胎化かということも話題になります。
この場合の胎化とはインフレ(率の変動)を指します。
不胎化介入とは
為替介入を行うと、介入資金を得るため政府が資金を調達します。
それにより市中(経済)に出回るお金の量(ベースマネー)が変化して、インフレ率に影響を与えます。
このインフレ率の影響を排除しようとするのが、不胎化介入です。
介入によって増減したお金を、中央銀行が吸収(または放出)して補います。
それによってお金の量(貨幣量)の変化を抑えて、インフレ率を変えずに、介入効果だけを得ようとする介入方法です。
具体例は、下の非不胎化介入の個所で示しますのでご覧ください。
非不胎化介入とは
非不胎化介入とは、介入によって変化した貨幣量をあえてそのまま放置します。
放置することによって、より大きな介入効果を目指すって言ってもよいかも知れません。
ちょっとこれは難しいので、どういうことかと具体的に説明します。
日銀が円売り介入をすると、日本に円資金が増えます。
この増えた資金を日銀が吸収するなら、不胎化介入になります
一方で、非不胎化介入は円売り介入によって日本に円資金が増えてもそのまま放置です。
放置することでインフレ率は上昇しやすくなります(昨今のようにデフレ色が強くなく前の状態で考えてください)。
インフレ率の上昇は、その国の通貨(この場合は日本円)の売り要因(購買力が下がるので)です。
円売りで直接為替市場に働きかけるだけでなく、インフレ率の上昇を通じて二重に為替市場に円売りを促すイメージです。
そのため、非不胎化介入は不胎化介入より効果的とみなされています。
非不胎介入>不胎化介入
なお、日本の介入の仕組みは自動的に不胎化介入になる仕組みになっているのですが、外国人はそんなことを知らないことが多いので非不胎化介入のうわさが流れると為替市場は大きく反応します。
覆面介入と口先介入
覆面介入とは
日本は基本的には為替介入を行うと直後に介入実施を公表します。
しかし、場合によっては介入を隠す(公表を控える)ことがあります。
なぜこのようなことを行うのか説明します
介入直後に公表しなかったとしても、為替介入の結果は毎月公開されます。すなわち、多少知らせることが遅れても、すぐに為替市場は介入の実施を知ることになります。
しかし、のちになって、実はあの時日本が覆面で介入していたってことが知られることで、今後も覆面でいきなり介入してくるかも知れない、という疑心暗鬼を植え付けられます。
(単独)為替介入では長期的なトレンドは作れないと説明しましたが、短期的には十分レートを動かす力を持っています。
取引を行った直後に、覆面で介入されて、自分の不利な方向にレートを動かされるかも知れないと思えば、自ずと日本政府の望む方向(大抵は円安)に逆らうポジションは取り低くなります。
覆面介入は、そうした効果を狙っていると言われています。
なお、金融政策の透明性が求められる最近では、覆面介入は国際的な非難さらされやすくなっています。
口先介入とは
こっそり隠れて為替介入することでより大きな介入効果を狙うのが覆面介入だとしたら、あえて「やるぞやるぞ」ということで介入効果を狙うのが口先介入です。
よく政府関係者が
「為替市場は極端な値動きになっている」
「ファンダメンタルズからみて正当化できない円高水準になっている」
「投機的な動きには断固とした措置をとるつもりだ」
などと、為替市場をけん制する発言が出ますが、こういうのを口先介入と言います。
口先で、今の為替レートには疑問(不満)を持ってますよっていうことで、為替介入を匂わせて為替市場をコントロールしようというものです。
為替介入には実弾(お金)が必要ですが、口先介入は言葉だけで済むので低コストでいくらでも行えます。
こうした手段を駆使して、国は為替市場で影響力を持とうとするわけですね。