「聴覚障害者が居酒屋の予約を断られた」店側はどう対応すべきだったのか?当事者講師が解説
※2016年8月2日、一部原稿を追記しました。
こんにちは。聴覚障害のある当事者講師の薄葉です。
幼い頃に羅患した肺炎の後遺症で感音性難聴となり、30代で全く聴こえなくなりました。普段は手話と口話(口の動きを読み取ること)でコミュニケーションをとっています。
聞こえないからこそ誰よりも見た目で気づくことや、見えない障害に対するフラストレーションの解消のために、研修を担当しています。
2016年8月1日、このような記事が目に留まりました。
出典:J-CASTニュース http://www.j-cast.com/2016/08/01274162.html
聴覚障害者の予約を断った店は「どう接したらいいか分からず、失礼にあたるのでお断りした」と理由を述べました。現在、問題となった飲食チェーン会社は謝罪しています。
障害者をサポートできない、1位は「接し方がわからない」
内閣府の世論調査によると、困っている障害者を見かけてもサポートができない理由は下記の通りです。
1位 接し方や方法がわからない(57%)
2位 お節介になるような気がした(16%)
3位 誰かに任せた方がよいと思った(14%)
「障害者のサポートについてどうすればいいかわからない」「知識が無い中で対応すると、逆に迷惑になるのでは」と言う葛藤は、この店舗に限らず多くの人々が感じていると言えます。
居酒屋の対応は適切でなかったにせよ、今後このような問題はどこでも起こってもおかしくありません。
手話ができるスタッフがいない!店側はどうすれば?
それは入店を断ることでも、大変な無理をしてでも障害者の要求に応じることでもなく、ズバリ「選択肢を提供すること」に尽きます。
例えば今回の場合は「手話ができるスタッフがいない」「筆談をする時間が無い」という条件により、居酒屋が出した応えは「入店を断る」という一択でした。
これでは、食事を楽しみにして電話をしたお客様も、悲しい気持ちになるでしょう。
でも本当に、断るしか無かったのでしょうか?
もしかしたらそのお客様は、口話ができる人だったかもしれません。
複雑な内容だけを筆談すれば事足りたかもしれません。
メニューを指さして注文できたかもしれません。
あるいは、あらかじめ注文したい内容を伝えておくことができたかもしれません。
お客さん自身に、限られた条件の中でもより良い方法を選んでいただくということが重要なのです。私は少しくらい不便であっても、本当に自分が行きたいお店に行けるならとても嬉しいです。
正直に店舗の状況やできないことを伝えた上で「このような状況ですが、何かお手伝いできることはありますか?」という一言で、解決できた問題ではないでしょうか。
知っているだけで、できること3選
今回のケースは車いす利用者や視覚障害者など、店舗の利用に不安がある人々は誰でも当てはまることですが、ここでは聴覚障害者とのコミュニケーションの取り方についてお伝えします。
特別な知識が無くても、今日から店舗で利用できる方法に絞りました。
(1)筆談(ひつだん)
紙やボードに書いて、意思を伝えます。居酒屋では「筆談する時間が無い」と判断されましたが、工夫次第で時間は短縮できます。
例えば、全文を書く必要はありません。「温かいお茶と冷たいお水、どちらの方がよろしいでしょうか?」なら「温かいお茶 冷たい水 どちら?」とだけ書いて、あとは口の動きや表情で補えば充分です。
私の場合は、サッと取り出せて、一瞬で文字を消すことができるキングジムのブギーボード(詳細)を使っています。
(2)口話(こうわ)
全く耳の聴こえない方でも、口の動きを読み取って会話をすることができる人もいます。
「読み取りやすいように口を大きく開ける」「伝わらないところは筆談やジェスチャーで補う」ことが、口話のコツです。
(3)メニューを指差してもらう
注文の際は、メニューを指差してもらいましょう。指を差すだけで簡単なコミュニケーションを取れるボードを手作りすることもできます。
カウンターの場合、メニューが高いところにあると人によっては見づらいことがあります。手元で持ってもらえるメニューを用意しておくと便利です。
店側にも、お客側にも歩み寄りとマナーを
商売である以上、店側の対応には限界が生じます。これは仕方の無いことです。しかしコミュニケーションひとつで、多くのお客様に利用していただくことができるかもしれません。
店舗における障害者対応を定めている、障害者差別解消法の企業における認知度はまだ3割程度。まだまだ配慮が行き届いていない今だからこそ、多様な方々を広く受け入れる店舗はファンになってもらいやすいのです。
また、サービスを受ける側もマナーを身につけていかなければいけないと私は思っています。お互いに歩み寄り、店舗を利用するための建設的なコミュニケーションを取ることが大切ではないでしょうか。
さらに詳しく知りたい方は……