時代の正体〈108〉従軍慰安婦問題

 国内の歴史研究者でつくる16団体が旧日本軍による従軍慰安婦問題について、加害の事実に向き合うことを政治家やメディアに求める声明を発表した。声明文の調整と各団体の取りまとめに当たった歴史学研究会の久保亨・信州大教授(62)と石居人也・一橋大准教授(41)に経緯や意味を聞いた。

◆人権蹂躙は通説的事実/久保亨さん(信州大教授)

 偏った思想を持つ一部の歴史研究者が声明を発表したわけではない。そのことをまずはっきりさせたい。

 朝日新聞が2014年8月に従軍慰安婦に関する記事を取り消したことを受け、昨年10月に約2千人が所属する歴史学研究会が声明を発表し、直後から別の学会からも賛意が寄せられてきた。国内有数の歴史学会が賛同しているといってよい。

 声明文に盛り込んだ内容は、歴史を研究する数千人規模の研究者らの標準的な考え方だ。賛同した16団体は手続きにのっとり、しかるべき場で諮った上で意思を表明している。その内容は学術的な通説として争いのない歴史的事実として認識されていることだ。

 朝日の記事取り消しをもって、あたかも「慰安婦問題」という問題自体が存在していないかのような政治家の発言や報道があった。

 一部の政治家は従軍慰安婦をめぐる歴史認識について「歴史家に任せる」という趣旨の発言をして加害責任への言及を避けようとしている。だが、任せるというのであれば歴史家の見解に耳を傾け、研究の成果としてたどり着いた歴史的事実を大前提にした認識を基に発言してもらいたい。

 忘れてならないのは、従軍慰安婦とされた女性たちは筆舌に尽くしがたい人権蹂躙(じゅうりん)を受けたということだ。

 文字通り強制的に連行された女性もいたし、貧困と差別の中で他の選択肢がなく、慰安婦とならざるを得なかったという政治的社会的背景があった。これは数多くの歴史研究者による成果として判明している通説的事実だ。

 戦前から戦後まで日本には公に認められた売春が存在していた。そうした中で慰安婦を利用した人は、自分だけが悪いことをしたわけではないという心情から、できるだけ罪を軽くしたいと思うのかもしれない。それでも慰安婦の存在を否定する理由にはならず、問題を相対化しようとする姿勢は全体像を見誤らせることになる。

 くぼ・とおる 1976年東大卒。同大助手などを経て88年信州大人文学部助教授、96年同教授。専門は中国近現代史。2011年日本学術会議会員、13年歴史学研究会委員長。

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