ベネッセホールディングス(HD)の業績悪化が止まらない。1日に発表した2016年4~6月期の営業損益は初の赤字に沈んだ。前社長の原田泳幸氏は「進研ゼミ」など国内教育事業の低迷に歯止めをかけられないまま、会社を去った。新経営陣も明確な解決策を見いだせていない。そんなベネッセの苦境を物語る数字がある。
■すがった「使い古された手法」
36億円――。ベネッセが発表した4~6月期のDM(ダイレクトメール)の費用だ。前年同期は24億円だったのに、1.5倍の金額に膨らんだ。広告宣伝費や人件費を含めた販管費は抑えようとしている中で、DMにかける費用だけは大幅に積み上がったのだ。
ベネッセにとって、DMを使ったマーケティングは顧客を獲得するために最も重要な戦術だった。何千万件もの個人データを網羅していた顧客リストはベネッセの強み。進研ゼミや「こどもちゃれんじ」の顧客を毎年、大量に獲得する原動力になってきた。
いわば、ベネッセにとっては、手慣れた顧客開拓の手段といえる半面、効果が薄れてきた旧来手法。創業家の福武総一郎氏はビジネスモデルを転換するために2014年、原田氏を社長に起用。原田氏が掲げた改革の柱が「脱DM」だった。社長就任直後に名簿の情報が流出したこともあり、原田氏は改革にアクセルを踏んだ。
原田氏は既存会員の継続率をアップさせるため、学習内容について相談できる拠点「エリアベネッセ」を全国に設置。タブレット端末などを活用する「進研ゼミ+(プラス)」を投入してコンテンツの内容も見直すなど、矢継ぎ早に改革策を打ち出した。
しかし、結果は伴わない。原田氏はDM頼みからの脱却を進めていたが、今年に入ってから方針を転換。DM依存に逆戻りし、原田氏は退任に追い込まれた。使い古された手法にすがるしかないほど、今のベネッセは追い込まれているのかもしれない。
■教育事業の赤字拡大
1日に発表した4~6月期の売上高が前年同期比2%減の1056億円となり、営業損益は7億1800万円の赤字(前年同期は6億2300万円の黒字)に転落。屋台骨の国内教育事業は営業赤字が前期の1億6400万円から17億円に広がった。
進研ゼミやこどもちゃれんじなど国内教育事業の収益を大きく左右するのが、新しい学期が始まる4月時点の会員数。2016年4月は243万人と前年同期と比べて1割ほど減少し、足元の業績悪化を招いた。DMに頼ったものの、十分な効果は表れなかった。
そして、会員流出はいまだ止まっていない。4~6月の累計会員数も前年同期に比べて11%減少してしまった。原田氏は5月の退任会見で経営改革の成果について「(社長をつとめた)2年間で変革の時代は終わった」と胸を張ったが、今回の決算からは新生ベネッセの形は見えてこない。
むしろ、「原田改革の前」に戻った旧来ベネッセの姿が浮かび上がる。原田氏の後を継いだ新社長の福原賢一氏の経営手腕が試されるのは、これからだ。
ベネッセは「通期ではDM費用を前期よりも減らす」としているが、来年4月に向けてDMに代わる会員獲得策をひねり出せるのか。手あかのついたマーケティング戦略に頼るようではいつまでたっても浮上のきっかけを見つけられない。
(中尚子)