渋谷系うらりんご

夏の始まりの匂いがたまらなく嫌だ。
ムワッと体にまとわりついてくる草や空気の匂い。
夏休みを思い出す。あの倦怠と焦燥。
少年時代の記憶が巡ってきて。
特定の何かが浮かぶわけではないんだけど、
あの頃の空気を感じて、胸が苦しくてたまらない気持ちになる。
あれは最低の時代だったな。

中学生の頃のことも思い出した。
当時から友達なんて一人もいなかったおれは
学校が終わると寄り道もせずにさっさと家に帰ってた。
まだ誰も帰ってこない家で一人テレビを見て。
当時は夕方に平日帯で今田耕司が司会の渋谷系うらりんごって番組がやってて
まあ内容はあんま覚えてないけど、とにかくそれを毎日見てた。
その番組のエンディング曲がスピッツのロビンソンって曲で、
なんだかせつないその曲を毎日聴きながら
自分の人生はこうやって、テレビを見ながら何もなく過ぎていくんだろうなあ
と漠然と予感していたもんだった。

こんな夏の始まりの帰り道にはせつない曲が似合うもんだ。
二十代の頃は仕事帰りのくたくたに疲れた体に
GRANT LEE BUFFALOの曲がよく沁みたもんだった。
三十代になってブッチャーズばかり聴いてたな。
ちょうど一年位前にブッチャーズのstoryって曲がなぜだか何日も頭のなかで鳴り止まなくて
それからしばらくしてあのおっさん死んじゃった。
まったくとんでもねえ話だ。いまだに悲しくてたまらない。


こうしてなんともせつないやりきれない思いで夏の匂いを迎えている。
過去の記憶が巡ってきても、そこに郷愁なんてなくて
言うなれば故郷なき郷愁。
郷愁があったとしても、そこには何もないんだ。
中学の頃と変わらずおれには友達も金もなくて退屈で、
だけどあの頃と違うのは、それはもう自分の一部になってることなんだろう。


匂いといえば数年前に一時期、香水ショップで気に入った女物の香水を買って
それをハンカチに染み込ませて、家で嗅いで恍惚としていたことがある。
まるで殺しの烙印で炊きたての米の匂いを恍惚と嗅ぐ宍戸錠さながらに。
だけどあるとき街中で、それと似た匂いの女とすれ違って
そんなこともやめてしまった。
この匂い、この香水、これは運命の人だ!なんて思うおれじゃあない。
誰かであっちゃあ駄目なんだ。
無名の女の匂いだからおれは好きだった。

こうしていつしか何もないことを愛し始めてしまうんだ。
もしおれの人生にこれから素晴らしいことでも起こったら
欺かれたって思うだろう。
人ってのはそういうもんだ。
だけど腕を失くした人間が腕が痒いって掻きたくなるように
存在しない傷跡をえぐるようなこの夏の匂いだけはどうにかならんもんかねぇ。



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