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日銀の追加緩和  手詰まり感は明らかだ

 日銀が追加の金融緩和に踏み切り、上場投資信託(ETF)の購入額を現行の年3・3兆円から6兆円に増やすことを決めた。
 円高や消費低迷で物価の上昇基調が揺らいでおり、政府の大規模な経済対策と歩調を合わせ、デフレ脱却への相乗効果を狙った形だ。
 黒田東彦(はるひこ)総裁は物価上昇率2%の目標を堅持したが、空前の規模の金融緩和を始めて3年余りで3回目の追加緩和は、政策効果が表れていない証しにほかならない。
 市場は小規模な追加策との失望から一時大きく円高・株安に振れるなど乱高下した。金融政策の手詰まりが一層浮き彫りとなり、日本の経済、財政への不安を広げていることを憂慮せざるを得ない。
 追加緩和は、6月の消費者物価が0・5%減と4カ連続のマイナスとなり、2017年度中の2%上昇達成の目標が遠のいているからだ。英国の欧州連合(EU)離脱問題など先行き不透明感から景気の下振れ懸念が強まり、16年度の物価見通しも引き下げた。
 加えて政府や市場の圧力も見逃せない。安倍政権は近く事業費28兆円規模の経済対策を打ち出す方針で、日銀の協調を期待する閣僚発言が相次いだ。これで日銀が追加緩和を見送れば政府との連携が崩れたとみられ、緩和予想の反動から急激な円高・株安を招いた今年4月の二の舞いになりかねないと懸念したのは確かだろう。
 ETF購入は、日銀が掲げる三つの緩和策のうち、国債買い入れの「量」、「金利」政策と並ぶ「質」的緩和に当たる。株価指標に連動するETF買い増しで市場活性化を狙うが、消費や投資を増やす効果は限定的とみられている。
 今後の経済情勢の急変に備え、量や金利の緩和を温存したとの見方もあるが、それだけではない。すでに日銀の年80兆円の買い増しで国債の流通量は品薄で、上積みの余地は小さい。今年2月に初導入した「マイナス金利」政策は、収益低下から銀行の反発が強く、年金積立金などの運用難で企業業績にも影を落としつつある。
 黒田総裁が否定しても緩和策が限界に近いのは明らかで、広がっている弊害を直視すべきだ。政府支出を日銀が丸抱えしているとみられ、財政や通貨への信認を損なうリスクも高まっている。
 日銀は9月に総括的な政策検証を行うとしているが、自縄自縛に陥っている2%目標を実体経済に即し柔軟に見直すべきだ。政府には内需の底上げや稼ぐ力を高める着実な施策推進が求められよう。

[京都新聞 2016年07月30日掲載]

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