July 31, 2016

「ウィザードリィがRPGの元祖」と言い出したのは誰なのかしら・序説

最近はすっかり「ウィザードリィは(ウルティマと並ぶ)RPGの元祖」という言説が迷信であることが周知されてきましたが
(え、そうなの!?と思われた方は、筆者が以前書いたウィザードリィの呪文名についての記事や、
ウィザードリィの世界的な知名度の実情についての記事をご覧ください)、
それではなぜ、そういった迷信が生まれたのか…と気になって、
今年の初めごろからいろんなウィザードリィ関係の書籍を当たっています。


筆者が探した中で、もっとも古いウィザードリィ関係の書籍である
『ウィザードリィハンドブック』(初版1986年4月)の前書きには、
以下のような記述があります。

RPGがコンピュータと宿命的な出会いをしたのは、もう12年も前のことです。
多くのプログラマ達がこの無限の可能性を持つゲームの移植を試み、
そしていろいろな形で作品を造り上げました。
そんな背景の中で、「ウィザードリィ」というソフトが生まれたのです。
多くのRPGソフトの中でもウィザードリィの人気は特に大変なもので、
最初のバージョンが発表されてから5年以上たつ今日でも、
全世界に冒険者たちを育てつつあります。
もはやウィザードリィは、コンピュータRPGの代名詞にまでなってしまっているといっていいでしょう。

(「ウィザードリィハンドブック」(1986,株式会社ビー・エヌ・エヌ), P5より引用)

「ウィザードリィは、コンピュータRPGの代名詞」とまで言ってはいますが、
「元祖」や「起源」とは一切記述されていません。
それどころが、同時期〜それ以前に多数のコンピュータRPGが存在していた事も
読み取れる記述
になっています。

もっと興味深いのは「RPGがコンピュータと宿命的な出会いをしたのは、もう12年も前のこと」という部分で、
西暦にすると1974年、ちょうどアメリカで『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が正式に発売され
またアメリカの大学間コンピュータネットワークシステムPLATO」上で動作した最古のコンピュータRPG『m199h』(現存せず)や、
D&Dの影響を多大に受けた現存最古のCRPG『pedit5』(1975)が生まれた時期とほぼ一致します。


PLATOで動作していたゲームとそれらの後世への影響の大きさ、
そしてコンピュータRPGの起源にまつわる話は2010年代に入ってから知られるようになった…
と筆者も思ってましたが、少なくともこの本の執筆者たち
(当時の雑誌「遊撃手」「バグ・ニューズ」のライター陣の誰かと思われる)は、
これらのコンピュータRPGの起源の話をほぼ正確に知っていた可能性が高いと思われます。


次にウィザードリィを取り上げた本で有名だと思われるのは、
『SFファンタジィゲームの世界』(1986年5月)。
後にグループSNE代表となる安田均氏が様々な非電源ボードゲームや、
テーブルトークRPG、
そしてそれらの系譜を踏まえたコンピュータゲームを紹介している書籍ですが、
その中で、『ウィザードリィ』と『ウルティマ』を詳細に説明しています。

そうしたコンピュータ・ゲームの中でも、ここで詳しくとり上げてみたいのは、
ロールプレイング・ゲーム、特にその代表作と言われる『ウィザードリー』と『ウルティマ』です。

(「SFファンタジィゲームの世界」(1986,安田均著,青心社), P229より引用)

この本の中でウィザードリィについて当時のアメリカにおける評価
(雑誌「ソフトーク」の人気投票で3年連続1位を取った…など)、
そしてゲーム概要の説明や操作方法、攻略における心構えなどが書いてあるのですが、
やっぱり、ウィザードリィがCRPGの「元祖」であるとか、そういった内容は一切書いてありません。


そしてこの本に影響を受けて書かれたのが、
矢野徹氏の『ウィザードリィ日記』(1987年11月)。
日本におけるウィザードリィの伝播を語る上で欠かせない一冊なのですが、
この本の欄外の注釈に、こういった表記があります。

ウィザードリィ(日本版)
アスキー発売 九八〇〇円
(中略)
コンピュータRPGの古典ともいわれる作品。

(「ウィザードリィ日記 パソコン文化の冒険」(1987,矢野徹著,(株)エム・アイ・エー), P42より引用)

「古典」という表記は出てきましたが、ここでもやはり「元祖」といった記述はありません。


そして1987年末と言えば、ファミコン版『ウィザードリィ』が発売された時期。
ゲームチラシコレクション様や、ゲーム探偵198X様のツイートでファミコン版ウィザードリィのチラシが紹介されていますが、
ここにも(「国際的」「欧米で人気を博した」という舶来品アピールの文言はあれど)、
「元祖」といった記述は見当たりません。


が。
同時期(1987年末)に発売された、意外な書籍に、
ウィザードリィをコンピュータRPGの「元祖」と認定する記事が載っている
のです。

'86年も'87年も、そしてたぶん'88年もファミコンゲームの主流は、やっぱりRPGだね。
ウィザードリィは、コンピューターを使ったRPGの元祖なんだ。
(中略)
迷宮を歩いて、出会ったモンスターと戦い、
お金や経験値を手に入れてキャラクターを成長させて、
最後に悪のボスをやっつける…。
な〜んだ、そのへんのRPGとおんなじじゃないか、と思ったキミ。
逆なんだよ。このRPGのスタイルは、ウィザードリィの方が先なんだ。

(「月刊少年ジャンプ特別編集 ホビーズジャンプ Vol.14」(1987,集英社), P15より引用)

まさかの少年ジャンプ系列誌で、「元祖」認定。
そして、同時期に発売された少年ジャンプ本誌にも。

コンピューターRPGの元祖として、世界的に有名なゲームが、
ついにファミコンでもできるようになったぜっ!
地下10階の3D迷路を探検し、迷宮の奥にかくれ住む
悪の魔道士・ワードナを倒すのだっ!!

(「週刊少年ジャンプ 1988年新年3・4合併号」(1987,集英社)より。
引用元は「週刊少年ジャンプ秘録!!ファミコン神拳!!」(2016,ホーム社), P45)

ゆうていみやおうきむこう…で一世を風靡した、
「ファミコン神拳」でも同様にウィザードリィをCRPGの元祖と認定していたのです。


その後の書籍やゲームを調べてみると…

海外で発表された「ウィザードリィ」「ウルティマ」は、
パーソナルコンピューター上で初めて完全な形でRPGを遊べるようにデザインされたゲームです。

(「ウィザードリィ3ハンドブック」(1988,フェイザーインターナショナル)より引用)

周知の通り、「ウィザードリィ」シリーズは、
『指輪物語』に触発されてつくられた最も古いロールプレイングゲームで、
シリーズ中に登場したモンスターは300種を優に超えます。

(「ウィザードリィモンスター事典」(1992,石埜三千穂編著,JICC出版局), P4より引用)

元祖3Dダンジョン探索型RPG 完・全・復・活

(プレイステーション版「ウィザードリィ リルガミンサーガ」(1998,ローカス), 帯より引用)

WizardryはULTIMAやROGUEと共に、RPGの原点とされる作品で、
ドラクエをはじめ多くのゲームがこのゲームを経典としている。
(中略)
そう、「元祖で、完成されたゲーム」
それがウィザードリィなのである。

(「ウィザードリィコレクション」(1999,鈴木常信著,ローカス), P7より引用)

といった感じで、非常に多くの書籍、そして移植作品にまで、
「ウィザードリィはCRPGの原点」「元祖」といった認識が広まるに至ります。

(ちなみにウィザードリィが「PC上で初めて完全な形で遊べるRPG」や、
「指輪物語に触発されたRPG」といったあたりの記述も完全に誤りである)


…もっとも、本当に「WizがCRPGの元祖」と言い出したのが「少年ジャンプ」かどうかは、
まだまだ疑問が残る
ところでして。

先述した「ファミコン神拳」の特集本『週刊少年ジャンプ秘録!ファミコン神拳!!』において、
仕掛け人の鳥嶋和彦氏(マシリト)氏が語るところによれば、

・堀井雄二氏と共にアメリカのアップルショーに行き、
そこでウィザードリィに初めて触れたときはRPGの面白さがわからなかった
・当時アスキーの「ログイン」副編集長だった河野真太郎氏にRPGの面白さを教えてもらった

という記述がありますので、もしかしたら「ウィザードリィ元祖説」も、
雑誌「ログイン」に由来するのかもしれない…のですが、
筆者はそこまで調べきれていないのが現状です。
(バックナンバーもそう簡単に入手できないしねえ…)


今後この話題については引き続き調査し、
新たに判明した事実がありましたら別途記事を作成する予定です。

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