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銀河孤児亭

2016-07-31

シン・ゴジラ感想(ネタバレ極力無し) 昭和29年と2016年の「今この瞬間」

シン・ゴジラ見ましたよ。見てきましたよ。端的に言って最高でしたね。「これを見ないまま死なずにすんで良かった」と言える映画がこれまでの人生で何本あったことか。この映画を見ないまま死なずにすんで良かったです。
という訳で以下感想です。ネタバレらしいネタバレはほとんど無いんじゃないかと思います。(ゴジラ東京を火の海にします、なんて情報までネタバレでは流石になかろ



 そもそも、だ。フィクションの魅力の大部分というのは「文脈」に依存する。作られた時の時代背景、既存のフィクションの文法、先行作品の量と質、視聴する観客の言語圏に文化圏、そして歩んできた人生。
 純粋に「予備知識無しで楽しめる作品」なんてのはこの世に存在しない。どんな作品でも必ず楽しむための前提知識が何らか存在している。「予備知識無しで楽しめる作品」と一般に言われる作品はあくまで「必要な予備知識を大多数の人間が知っている作品」でしかない。私は一時期「赤毛のアン」シリーズを好んで読んでいて、当時多いに笑わせてもらったが、あの小説も19世紀末にカナダで暮らしたことがあるか否かで笑い所が大きく半減すると聞く。

 で、何が言いたいかと言うと、だ。私たち現代人が如何に良い視聴環境で初代「ゴジラ」を観たとしても、私たちは決して昭和29年に映画館に現れた「ゴジラ」を楽しむことはできない、ということだ。
 無論「ゴジラ」は今観たとしても紛れも無く面白い。傑作である。観てない人は是非観よう。だが、「ゴジラ」公開当時、日本中を包んだそ衝撃や感動をそのまま味わうことは、決して私たちにはできない。

 私たちは既に高画質のカラー映像を知っている。高度に発達した特撮CGがふんだんに使用されたハリウッドの大作映画を知っている。ゴジラシリーズの恒例や怪獣映画のお約束を知っている。
 私たちは空襲で街を焼かれる恐怖を知らない。一夜で都が焼け野原となった絶望を知らない。廃墟となった東京復興させた誇りを知らない。

 当時「ゴジラ」を映画館で観た人々に比して、私たちは圧倒的に多くのことを知り過ぎているし、圧倒的に多くのことを知らな過ぎている。仮にもし「ゴジラ」を同じストーリー、同じ脚本のまま、現代映画で可能な限りの完璧なセット、完璧な特撮、完璧な役者の演技で再現したとしても、私たちは決して当時の人々が「ゴジラ」から受けた衝撃と感動を手に入れることはできないだろう。私たちは「ゴジラ」の前提としている「文脈」の多くを60余年の間に喪失しているのだ。(勿論、時代を経ることで獲得した新しい「文脈」が映画に別の魅力を与えることも往々にしてあるのだけど)

 それを前提として、だ。私は「シン・ゴジラ」のエンドロールが流れるスクリーンを観ながら、思った。

 ああ、これが『ゴジラ』だったんだ。60年以上前、みんな映画館でこれを観たんだ。

 勿論「シン・ゴジラ」は「ゴジラ」とは設定もストーリー運びもカメラワークも演出も全く違う。しかしそこには紛れも無く「ゴジラ」の全てが詰まっている。

 巨大な怪獣に住み慣れた街が蹂躙される恐怖。
 人間の叡智の結集たる武器や兵器が何の役にも立たない絶望。
 そして、その恐怖と絶望のドン詰まりの中でギリギリ存在する一縷の希望。

 「ゴジラ」の中で、とても好きなシーンがある。街を廃墟にして悠々と去って行くゴジラに向かって、名も無きキャラクターが「チクショウ、チクショウ…」と声を震わせながら嘆くシーンだ。とても好きなシーンなのだが、私はこのシーンの本当の意味を今まで全く分かっていなかった。分かっていなかったことに、初めて気付いた。
 これまで怪獣映画をいくら観たって、破壊される街を観ても何とも思わなかった。むしろ「もっと派手に壊せ」くらいに思っていた。けれど、「シン・ゴジラ」の中盤の山場、ゴジラ東京を火の海にするシーンで、私は初めての思いにかられた。「やめろ。もうやめてくれ。これ以上街を焼かないでくれ」と。それはきっと、「ゴジラ」で聞いた「ちくしょう」の声と、同じものだったのだと思う。


 きっと、60数年前、昭和29年の映画館で、日本人はこの映画を観たんだ。それと同じ映画を、俺はたった今観たんだ。
 映画館からの帰りのバス停でベンチに座りながら、そのことに思い至った私は涙が止まらなくなった。ボロボロに泣いた。幸い、周りに人はいなかった。

 「ゴジラ」公開当時、昭和29年の日本にしかない「文脈」があったのと同じように、2016年の日本を生きる私たちには、私たちの「文脈」がある。戦後70年という時間。東日本大震災福島原発事故。(そこに「ハリウッドにお株の『ゴジラ』まで奪われた映画界」を付け足しても良いかもしれない)
 「シン・ゴジラ」はそんな2016年の今この瞬間に生きる私たちに向けて作られた、私たちの「ゴジラ」なのだ。
 今までのどんな「ゴジラ」にも似ていない、誰も見たことがない、全ての人々が初めて見る、62年前そっくりそのままの「ゴジラ」。それが「シン・ゴジラ」だ。


 っつー訳でな、みんな「シン・ゴジラ」を見ろ。見て驚け。ゴジラの姿に恐怖しろ。絶望しろ。希望に勇気づけられろ。そして泣け。俺から言えるのはそんだけだ。以上。

(っていうか感想じゃなくポエムだよこれ。)

たかしたかし 2016/07/31 19:06 はじめまして。 
ぼくも今日初めて「本物のゴジラ」を体験できた思いがしました。と、同時にウルトラマンやマジンガーZがどうして産まれたのか、そしてどうして皆に好かれたのかも、自分の中でまことに納得のいく答えをもらうことができました。

あいつと戦うために、みんな産まれてきたのですね。
何か日本のヒーローのルーツみたいなものを感じました。

adenoi_todayadenoi_today 2016/07/31 21:16 コメントありがとうございます。

>あいつと戦うために、みんな産まれてきたのですね。
それは素敵な解釈ですね。
ゴジラがいたから日本のヒーローは大きくなったのか。

たかしたかし 2016/07/31 21:56 しつこい用で心苦しいのですが……中盤のあのシーンでの強い絶望感に「ウルトラマンがいれば……」と思いました。もちろんそこでウルトラマンが助けに来ればどっちらけですが、初代ゴジラを見た人と、今シン・ゴジラを見ている僕が同じ体験をしているのであれば、多分僕と同じように「ゴジラと戦える。ゴジラに負けない存在をつくろう!」と思った人が、ウルトラマンに代表されるヒーローの出現に繋がったんだと得心しました次第です。

しかし、シン・ゴジラにはウルトラマンもガメラもついでにジプシ・デンジャーも敵いそうにないので次のヒーローは荷が重いですねw

無名兵士無名兵士 2016/07/31 23:38 初めまして。土曜日初めて映画館で試聴したのですが、上映中ずっと興奮しっぱなしでした。私は勤続10年以上の自衛官なのですが、あれほど緻密に我々の仕事を映像化した作品を今まで見たことがありませんでした。(ある意味自衛隊あるあるな作品としてもたのしめました(笑)同時に、これほど自衛官であることを誇らしいと思わせてくれた作品も。そして、自分が抱いた感情の正体に、主様のブログを読んで気づくことができました。試聴後感激のあまり数多のレビューを貪るように読みまくりましたが、これ程得心できる考察、感想はありませんでした。確かにあのゴジラの絶望的なまでの破壊力の前には我々の血の滲むような訓練も最新鋭の装備も無力に見えてしまいますが、それでも国民が最後まで我々を頼りとして下さる以上は、諦めてはならないと、気持ちが引き締まる思いで劇場を後にしました。我々にはそのための力が与えられているのですから。主様の文章に感激のあまり駄文を書き連ねてしまいましたが、素晴らしいレビューを読ませて頂き、感謝いたします!敬礼!

ゴジラ大好きですねんゴジラ大好きですねん 2016/08/01 14:56 シンゴジラ良くて良くてたまりません

ほとんど全部いいところばかりなのですが
目からプシュッと音を立てて涙が噴き出したのは電車突撃のシーンでした
衝突の衝撃で跳ね上がり、生きているようにあの巨体を這い上り絡みつき爆散する様が、あまりにも生命感にあふれていて
いつもは寡黙な通勤電車たちが「俺達の日常を返せ」と血の出るような声で叫んでいるかのように思え、思わず身震いがしました

とにかくこのゴジラは素晴らしい
あの日に既に目にしていた、でも何かもが初めての戦いの様相は
いま封を解かれたばかりの真新しい神話のようでありました

名無し名無し 2016/08/01 15:25 主様

世の中ポケモンgoに浮かれて、みんながみんなゲームしている姿にある意味私は、いい風景だなぁと思ってました。
このシンゴジラ、そして主様の文脈の捉え方、説明の仕方、あぁ納得と思いました。一縷の希望の中に、戦後昭和の世界の技術力の日本もいました。もう、勝ち目の無い経済競争に真っ只中いるのにも、かかわらず
まだやれんだなぁとシンゴジラを見て思いました!
この国は好かれてるわね
の一言が震災後の我々にしか分からない言葉です。
まだやれんだなぁと思います。また、仕事しようと思った次第です。
素晴らしいレビューありがとうございます
駄文失礼しました!

おりおり 2016/08/01 16:41 初めまして。

シン・ゴジラは初代ゴジラと同じく「人間の業が生み出した人間の力では
どうにもならない理不尽な災害=ゴジラ」をあますことなく描ききった
快作だと思います。

ブログ主様の文中にもあるように、東日本大震災と福島原発事故を想起させる
映像が現代日本人の心に刺さり、それが心情的リアリティに繋がっています。
まさに現代日本人に向けたゴジラであり、現代日本人が共感できる映画です。

それに立ち向かう政治家、官僚、自衛官は大規模災害の危急時において、
こうあって欲しいという理想として描かれており、実際の災害時にも
このような働きをしている人たちが数多くいるのだと思います。
(女性の防衛大臣だった小池百合子と震災時に官房長官をやっていた
枝野幸男に取材しているのは非常に説得力があります)

この時代だからこその圧倒的な共感と説得力。シン・ゴジラは最高傑作と
呼ぶにふさわしい作品だと思います。

adenoi_todayadenoi_today 2016/08/01 18:16 >たかしさん
いやあ、本当ですねw これからのヒーローはあのゴジラに立ち向かって行かなくちゃいけない訳ですから大変です。

>無名兵士さん
本職の方も唸らせるリアリティなんですね。流石庵野秀明です。
私のは考察ってほどのものではないので、そこまでおっしゃって頂くのは面映ゆいですが、楽しんで頂けたならこちらとしても幸いです。

他の方々もこんな考察分析以前のポエム記事にコメントありがとうございます。
是非とも周りの人に熱く語って少しでも多く動員しましょうw

nanashinanashi 2016/08/01 19:38 非常に良い記事でした。
初代と比べられるのはゴジラ作品の運命かもしれませんが、シン・ゴジラだけは比べる必要がないと思いました。
戦争の敗北も核兵器の恐怖も知らない我々が初代に感じるものは、体験したことのある恐怖ではなく、
未体験であるからこその恐ろしさなのです。
シン・ゴジラにあるのは我々が実際に体験した恐怖、日常の中で直面した危機。それが怪獣の形をしているというだけ。
映画ならではのハッタリも強烈なので逆にその部分が薄っぺらく見える可能性も、あるにはありますが。
まこと、主様がおっしゃる通り、ただただうなずくばかりです。

タカタカ 2016/08/01 21:17 シン・ゴジラ。
ヤシオリ作戦のヤケクソのような猛攻撃が好きです。
列車爆弾出撃には泣きました。
どんだけ必死なんだよ日本政府w
転んだゴジラに即座に迫るコンクリートローリー軍団にも泣きました。
命懸けで守るとはこういう事だと教わったような気がしました。

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