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ホーサクっ

ホッと一息、サクッと読める400字

ユーレイ彼女のたった一つの願い『ダメリーマン物語』

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付き合って7年の彼女が死んだ。自衛隊の爆弾処理班をしていた彼女。赤と青の配線のどちらかを切るか迷って青を切って爆発した。

身体は木っ端微塵になってしまったという。普通のサラリーマンをしてる僕の携帯に電話があり彼女の上司から伝言があった。

「『早く忘れて』とのことです。ミュウ君は二階級特進の陸士長として国葬されます」

「ミュウの遺体は?」「ありません」

忘れてと言われ7年の記憶を消せる訳ない。ミュウなんて村上春樹の『スプートニクの恋人』みたいな珍しい名前、忘れられない。

ミュウと僕の出会いは18の時。コンビニでバイトをしていた時に、客として来たのがミュウだった。ボサボサの髪に、大きな瞳。

僕は一目でミュウに恋した。平凡なサラリーマンが好きというのでバイトを辞め中小企業に就職した。サラリーマンは辛かった。

でもミュウの為なら頑張れた。この7年間、結婚資金を貯めた。ミュウの25歳の誕生日にプロポーズしようとしていた矢先の事故。

明日がミュウの誕生日だった。事故るか?

そんなドラマのような悲劇が起こるだろうか?平凡なブルーマンデーが、忘れられないブラックマンデーに、変わってしまった。

僕は、泣いた。

一晩中、泣いた。

初めて、手をつないだ春。

初めて、キスした夏。

初めての秋。

初冬。ミュウを失った僕はこれからどうやって生きていけばいいんだ。明日、履いていくパンツさえ決められない情けない男だ。

『あー、やっぱりねー、そうなるよねー』

「え?」ミュウの声が頭の中でする。

『あたし無しだとダメ男だよねー』

「ミュウ?」

『そうだよ。今はユーレイだけどねー』

「姿を見せてくれよっ!」

『いいよー。でも条件があるらしいよ?』

「いいよ。なんでもする!姿を見せて!」

『条件を聞いてからにしてよー』

「分かった。教えてくれ」

『私を忘れてください』

「そんなことできるわけないだろっ!」

『それは困ったなー。やっぱりムリかー』

「ムリだよ」

『じゃあ、私はこのまま消えるねー』

「なんでだよっ!」

『神様がね、君が私を忘れたら生き返らせてくれるって、言うんだよー。まあ、そんな都合のいい話ないよねー。分かってるー』

「生きかえる?」

『うん。私たちがねー。出会わなかったことにすれば生き返らせてくれるんだってー』

「ほんとにか?」

『私が嘘つかないの知ってるよね?』

「うん。知ってるよ」

『ずっと思ってたんだ。私がいなかったら君がどうなっちゃうんだろうって。ずっとずっと心配だったんだ。だからかな……』

「だから、なんだよ」僕は涙声で言った。

『本当は赤い線を切れば爆発しないって分かってた。でも赤い糸が切れちゃう気がしてできなかった』ミュウは涙声で、言った。

「……」

『私がいなきゃダメな君じゃダメなんだよ』

「……」

『私がいなきゃパンツさえ決められない君じゃ、ダメなんだよ』

「……」

『君をダメにしたのは、あたしなんだよ』

「そんなことないっ!」

『じゃあ、あたし無しで生きてよっ!そんな情けない顔しないでよっ!あたしが好きになった男が弱いとこ、見せないでよっ!』

「分かった……。ミュウを忘れるよ」

『うん。ありがとう』

薄暗がりの部屋にぼんやり人影が浮かぶ。ミュウだ。ぼんやりとしているがミュウだ。頑張って笑うと、ミュウも笑った気がした。

僕は、水曜日から出社した。ミュウを思い出しそうな物は、全て捨てた。ミュウを忘れるように頑張って、頑張って、忘れた。

付き合った人を完全に忘れるには、付き合った時間の3倍かかると言う。21年後、僕は完全に忘れた。46歳になり部長になった。

初冬。

年配の派遣社員が入った。僕と同じ46歳の女性。初出社の自己紹介で彼女は言った。

「赤井美夕です。よろしくお願いします!」

僕は、初出社で疲れ切った彼女に言った。

「もう自分でパンツも選べるしワイシャツにアイロンだってかけられる。炊事洗濯だってできるし、休日に一人で映画にも行く」

美夕さんは、驚いた顔で僕を見ていたが

「素敵ですね」と笑いながら腕を組んできた。

お伽話(1623字)