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第8話 救い
飽きたのか疲れたのか、実際の時間としてはそれほど長くは無かっただろうが、体感時間としては永遠にも等しかった神の怒りの時間が前触れもなく終わる。
「……でね私は努力している子、頑張っている子が好きなの」
そして唐突に話が変わる。どうやらそうとう気分屋のようで、さきほどまでの怒りはどこへ行ったのか上機嫌で話し始める。
「どんなことでも目的に向かって頑張っている姿は尊くて素敵だと思わない、カイルちゃん?」
「はい、それは当然そう思います」
いきなり同意を求められ反射的に返事をしてしまうが、言っていることに間違いは無いと思う。
「うん、そうよね……だから今世界で一番頑張っているカイルちゃんに会いたくて呼んだ訳なの!」
「自分が……ですか?」
カイルは首を捻る。メーラにこうまで高評価され、好感をもたれている理由がわからないのだ。
「だって世界を救うために頑張ってるじゃない」
そう言ってカイルを見るメーラの眼は本当に優し気で、己の何もかもを捨て去り縋りつきたくなるそんな眼だった。
メーラは人間世界の滅びを見た後も、時々折を見ては未来を見ていたらしい
「でもある日を境にその未来が変わったのよ。あの時は驚いたわね……今までも見ていた未来が変わることはあったわ。でもそれは些細なものでこんなにも目に見える形で、大きな変化は無かったの」
例えば大侵攻が始まる前に生きていた人物が生きていたりなどで、人間側が有利に変わっていったと言う。
「そして未来は見るたびに変わったわ。その変化を見ていくうちに解ったの、これは『これから起こることを知っていて効率的に変えようとしている』ってね。だから色々と手を尽くして調べたの。その結果……あなた達で言うところの、創世歴二千八百二十三年五の月二十三日ね、この日から世界が変わり始めたの」
その日はカイルにとって忘れられない日だ何せ十六の誕生日にして――
「そう、カイルちゃんが、正確にはカイルちゃんの魂が過去にさかのぼってきた日ね」
にっこりと笑うメーラ。
「驚いたわ、時の流れに逆らうなんて出来ないと思っていたけどね。しかもそれがレイラちゃんの弟子だって言うんだからさらにびっくり」
メーラはこれまで黙って話を聞いているだけのレイラに眼をやるが、レイラは軽く頭を下げるだけだ。
「そして滅びの運命を変える為に必死に、本当に必死に頑張っているカイルちゃんの姿を見た時にはほんと、年甲斐もなく涙が出てきちゃったわ」
うんうん、と涙を拭うふりをするメーラ。
メーラはカイルをほめちぎるがカイルはそれどころではなく、ついにこの時が来たかと身構える。
カイルの魂が過去に遡ってきたこと、これはシルドニアしか知らず、他には竜王ゼウルスに話しただけで、仲間達にも話してはいない。
これも棚上げにしてきたこと、先延ばしにしてきたことだ。
何故話さなかったのかは単純なことで、信じてもらえなかった時が怖かったから、そんな情けない理由だった。
大事な人たちを護る為にカイルは必死になっていたが、もし信じてもらえなかったら……想像するだけで恐ろしい。
話すべきかどうかと色々と葛藤をしつづけたが答えは出ず、ずるずるとここまで来てしまった。
だがこの展開はある程度は覚悟していことだ。
メーラ教が自分の秘密に、未来を知っていることに気付いているというのは元々匂わせていたことで、ここに来るときもこのような展開になるかもと予想はしていた。
臆病かもしれないが流れに任せていたのでいい踏ん切りになると深呼吸をして、今メーラが話したことは事実だと意を決して、もしかしたら罵倒されるのかもと悲壮な決意で話そうと、仲間達を見る。
「カイルが……未来から来た!?」
ミナギが驚愕の声をあげた――だけで、他のリーゼやセラン、ウルザは平然としてる。
「いや……だって知っていたし」
リーゼは頬を掻きながら困ったような顔になる。
「ああ、知ってたな」
セランは何を今更と言わんばかりだ。
「正直半信半疑ではあったがな」
ウルザも難しい顔で頷く。
「ああ、妾が話しておいたぞ」
シルドニアは何でも無いこと、当然のことの様に言った。
「ちょ……おま……なん……で」
一方カイルは陸に挙げられた魚の様に口を動かし、絵にかいたような狼狽ぶりだ。
「え……私は聞いてないんだけど……?」
「おや?……そう言えば喋ったのはジルグスの王女を助けた直後あたりであったか? その時はミナギはまだおらんかったか。すまんすまん、言い忘れておった」
何それ、と言わんばかりのミナギにシルドニアが軽い調子で謝る。
「まったくこのたわけが、詳しいことも喋らないのに協力してくれているなど、どこまで自惚れておったのだ……知っていたからこそ皆がついてきてくれたというのに」
シルドニアにそう言われ、ぐうの音も出ない。
「話を続けていい?」
ここでメーラが割り込んでくる。
その声色に微かな苛立ちが混ざっていることがわかり、神の話を遮ってしまった形となっていることに気付く。
「大変申し訳ありませんでした、お話をお続けください」
危険物を扱っている気分になりながら、ひとまずこれはおいておくこととする。
「そして今では未来なんて絶えず変化しているわ。勿論カイルちゃんの活躍でね」
「……本当ですか?」
「ええそうよ。でも未来を見ると言ってもそこまで都合が良い訳じゃないの。見えるのはあくまでその時点での未来だから、最終的にどうなるかが解るのではなくて、カイルちゃんが変えようとしている途中の未来が見えるのよ」
ここら辺になると話がこんがらがってくるが、要するに全部変わった未来ではなく、変わりつつある未来が見えるようだ。
「未来を見るのは大変だから私でもそう繰り返せる訳じゃないんだけど……最後に見た時は、魔族との戦いが始まって一年後に人間は四分の一くらいになっていたわね」
「駄目じゃねえか」
散々たる有様を説明されセランが思わず言ってしまい、隣のレイラに黙ってろとばかりに足を踏まれる。
だがカイルにはそれは衝撃的などという言葉ではすまなかった。
「………………」
カイルは思わず腕が震えるほど拳を握りしめ俯いてしまい、そしてその眼からは涙がこぼれる。
四分の一も生き残っている、この事実に文字通り涙したのだ。
大侵攻が始まって一年後なら、正確な数は解らないが、カイルの知る限り人間の数など十分の一を確実に下回っていた。
人間の数が四分の一になる、それだけ聞かされればとてつもない大参事だが、それ以上の惨状を知っているカイルからすればこれほど嬉しいことは無い。
未来は変わった、それも間違いなく良い方向へと動いている、自分の知っているあの絶望的な未来じゃないと、他ならぬ神が言ってくれたのだ。
かつての仲間もその手で殺した。まだ何もしていない王を暗殺もした。自分を偽り世間を騙して仮初の英雄にもなった。そして戦場では何百もの人を斬った。全てが正しいと信じて。
しかしこれが本当に正しいのか、もしかしたら全くの無駄ではないのか……そう自問自答することもあったが答えが出るはずもなく迷うことが何度もあったが、それでも剣を振るい続ける日々だった。
だがメーラがその答えをくれた。
自分のしていたことは少なくとも無駄ではなかった、意味があったとわかり、沸いてきたのは身体の底から震えがくるほどの歓喜、そして安堵だった。
「あ……ありがとうございます……ありがとうございます……ありが……」
後はもう言葉にならず、涙が滂沱として流れ落ちていくだけだ。
仲間達もそんなカイルを心配そうな視線を送るが、先にメーラが動く。
「頑張ったわね、本当に……あなたのその努力は報われるべきなの」
人間のみにその慈愛をあたえるという女神は、泣き崩れるカイルの頭を優しく撫で、慈愛の眼で見つめていた。
「お見苦しい姿をお見せしました。申し訳ありません」
「構わないわよ」
落ち着いたカイルが醜態を見せましたと、恐縮して謝るがそんなカイルを見るメーラはやはり優しかった
「それでね、このことを知った私は新たにうちの子たちに【神託】を授けたの、カイルちゃんに協力してくれって。カイルちゃんを中心に頑張ればもっと人間を助けることが出来るってね」
それは純粋な善意だったが、これほど有難迷惑という言葉も無いな、と思ってしまうカイル。
何という余計なことを、とカイルの中で先ほど暴騰する勢いだったメーラへの評価が暴落していく思いだった。
「そ、そうだったのですか……それでコーディ達が自分に指導者になって欲しいと……」
「こーでぃ?……ああ確かそんな名前だったわね。そうみたいね、頑張ってるみたいで嬉しいわ」
どうやらコーディの名は覚えていなかったらしい。
「まあそんな訳だから頑張ってるカイルちゃんにご褒美をあげたくて呼んだの。私の教徒ってあなたが思ってるよりずっと多いのよ。何せ他の連中とちがってこうやって直に触れ合っているんだから」
「そう……だったのですか」
この時メーラ教徒の狂信の正体がわかる。何せ直接神と会っているのだから。
神と直接会いまみえると言う、それこそ人生が変わる出来事を体験したメーラ教徒ならばあの狂信も納得できるし、そして人間社会に深く根付いている理由もわかった。
「あ、でも勿論直接会っているのはそう多くは無いし、その場合でもこういった部屋じゃなくて大きな広間みたいなのにして、私は精々一言、二言で終わりね。こうまでするのはカイルちゃんが特別なんだから」
「……お気遣いありがとうございます」
言葉とは裏腹に、これは困ったことになった、そんな思いでいっぱいになるカイル。
「さて、さっきも言ったけど何か聞きたいことはある? 何でも聞いていいわよ?」
自分の言いたいことはとりあえず一段落したようで、今度はカイルに質問を促す。
聞きたいことは当然あるが、先ほどは怒り狂わせてしまったので、慎重にならざるを得ないが、それでもやはり聞かざるを得ない。
「そのメーラ様の教義についてなのですけど……何故人間以外の人族を排斥しようとしているのですか?」
「ああ、あれね。どうも誤解されて広まってるみたいね」
「誤解ですか?」
「うん誤解。ええ、確かに私は人間が大好きよ。そして一番とも思ってるわ。でも他の人族を迫害しようなんて思ってないわ」
メーラ教徒の人間至上主義の主張を根底を破壊するかのような言葉が女神の口からでる。
どういうことだと思う間もなくメーラが話を続ける。
「人間は他の人族より優れているわ、優れているからこそ、他の人族を導いていかなければならない。そしてその為に己を高めるよう、常に努力を怠るな。これが私の教えよ」
えへん、と胸を張らんばかりの言うメーラで、自己鍛錬これが本来のメーラの教義だそうだ。
「で、他の人族については思うところは無いわね。特にエルフなんかは他の神と違ってムーナとは仲がいいし……あなた達で言うならそれこそ友達の子供? 誰だって自分の子供が一番かわいいでしょ?」
それこそ人間臭い物言いだが、納得は出来る言い方だ。
「つまり私がもっとも重視してるのは努力、頑張りで、それで本当に努力してる、それがレイラちゃんなのよね」
ここで急にずっと黙って聞いていたレイラに話をふる。
「私も長く人間を見て来たけどレイラちゃんほど自分に厳しく、自分を磨き上げている子はそういなかったわ。ほんと大したものよ」
レイラのことを絶賛するが、そんな褒め称えるメーラに対し当の本人はまたも軽く頭を下げるだけだ
不敬とも言える態度だが、当のメーラはまったく気にしていない、それほどお気に入りなのだろう。
「でも、どうも歪んで伝わってるみたいね。人間が一番という部分が強調されて歪んでいるみたいで……困ったものね」
と全く困った様子を見せないで言うメーラ。
「で、では何故正さないのですか? メーラ様が言えばその歪みは正せるはずです!」
「何で正す必要があるの?」
だがメーラはまるで少女のような仕草でキョトンした顔になり、質問の意味が解らないと言った具合だった。
「だって形はどうあれ私の為に頑張ってくれてるじゃない。それは評価してあげないと」
「そ、それで……いいんですか?」
「どういう意味かしら? 努力に良いも悪いも無いじゃない」
頑張っている子が好きと言ったが、その頑張っている方向については問わないようだ。
「しかしそれではメーラ様が誤解を受ますし……他に被害が出ています」
「そうね、確かにそこら辺は困った子達よね。あまり迷惑かけないようにしてくれるといいのだけど……でもそれぐらいはしかたないでしょ」
それは腕白な子供に対するかのような感想で、言葉と裏腹に困っているというのがまるで伝わってこない。
「それにカイルちゃんだってこの間、同じ人間を何百人か殺していたじゃない? それとどう違うの?」
「あ……」
どう違うのかと問われれば、答える事は出来なかった。
カイルは目的の為に今まで多くのものを犠牲にしている。
覚悟は決めていたつもりだし、メーラ自身もそれを責めている様子は微塵もなく変なことに拘るわね、と軽く笑うだけで何百人もの死について当たり前のように受け入れている。
善や悪、罪とか罰とか全て超越しており、人間の倫理など完全に当てはまらないのだ。
確かに会話をしているのだが、大事なところで意思疎通が出来ていない気になってきてやはり相手は神で、根本的なところで人間とは違う。改めてそう思い知らされる。
確かに頂点に立ってはいるし、神託という方針はだしているが統治は一切しておらず、メーラ教をメーラに正してもらうと言うのは無理だとはっきりと解った。
「それに努力して成長していく過程で他者との衝突は当然だし、争い、競うことでしか成長しないこともあるわ……そうでしょ、シルドニアちゃん?」
ここで唐突にシルドニアに話が振られる。
メーラのその意味ありげな笑顔に対し、シルドニアは苦虫を噛み潰したかのような顔だ。
「また会えるとは思わなかったわ。あの時は愚妹が本当に御免なさいね」
「あれは当然であり必然でしたので、結果には不満はありません」
丁寧に頭を下げるシルドニア。
「私としては上昇志向あっていいと思うのだけど、頭の固いうるさいのが多いのよね……」
どうしようもない連中ね、と断じるメーラ。
「お気になさらずに」
女神と魔法王の会話に周りの視線が集まるが、シルドニアは面白くなさそうに言う。
「この場は妾のことを語る場ではあるまい。後で話そう」
憮然とそれだけしか言わないシルドニアだが、そんな態度を見てもメーラは面白そうに笑うだけだ。
「私はね人間が大好きよ。でも無制限に甘やかすこともしたくないし、できないわ。だから今回のことで出来るのは何が起きるのかを教えるくらいの贔屓ね……でもその贔屓すらゆるさない心の狭いのがいてね……それにうるさいのが多くて、特に喧しいのはあの愚妹よね」
朗らかと言っても良いメーラだったが、自分で口にしたと言うのに妹、カイリスを意識した瞬間それまでの笑顔が消えた。
「まったく、あのこは杓子定規にあれは駄目、これは駄目と……融通とか臨機応変とかそういうものを……」
また怒りがこみあげてきたようで急速にあたりの空気ごと 不穏な気配が漂いはじめる。
だがこのまま放置して、また先ほどの様な怒りの爆発になられては困るとカイルは一か八か口を挟む。
「あの、お聞きしたいのですが、大侵攻を起こす次の魔王について何か知っていることはありませんか?」
これも訊いておきたかったことで、メーラなら何か知っているかもしれないという希望を込めての質問だった。
「え? あ……さあ?」
カイルの問いにメーラは興味無さげに首を傾げる感じだった。
「ならば、その魔王が人族のほとんどを犠牲にしてまで過去に戻ろうとしていたのかは?」
メーラはこの質問に関しても初めて考え「そう言えばなんでかしら?」というような反応だ。
「神だからと言って全てを知っている訳じゃないのよ。魔族に関してはそれこそ魔族の神である△※〇~□じゃないと詳しくないわよ」
メーラの口から洩れたのは意味不明で、うまく聞き取れない音の羅列だった。
「あの……今何と?」
「だから△※〇~□……人間じゃ発音も聞き取ることも無理なのよね。私もあまり関わりないし」
魔族の守護神と言われている名も知れない闇の神。
どうやら名前が伝わっていないのではなく、人族では名前を言えない神のようだった。
「あ、そろそろ時間ね」
ここで何かに気付いたようで、そろそろ話は終わりと締めにかかるメーラ。
「まあ、こんなところかしら。カイルちゃんを呼びだしたのは色々と伝えたいこともあったけど、とにかくお話ししてみたかったの。で、レイラちゃんに頼んで連れてきてもらったわけ……どうだった? カイルちゃんにとっては得るものがあったかしら?」
「……はい。まずお礼をさせてください。メーラ様のおかげで自分のやっていることに自信が持てました。無駄ではなかったと解りました……本当にありがとうございます」
カイルは心からの感謝をする。
「そんなに礼を言わなくいいわよ、照れちゃうわ」
口ではそう言いつつも、メーラは満更でもない顔になる。
「そしてメーラ教についても誤解をしておりました。その本質は努力であり自己鍛錬だったのですね」
メーラが人間を好きだと言い、愛しているというのは本当だろう。それはカイルにも解った。
もしかしたらその愛は愛玩動物に向けるものに近いかもしれないが、それでも人間のことを考えていてくれる守護してくれている。
(祈っても何もしてくれない他の神よりよほどありがたい)
これが紛れもない本心だった。
「解ってくれて嬉しいわ」
本当に上機嫌になるメーラだがそれもここまでで、褒め称えるかのようだったカイルの口調が変わる。
「……メーラ様の御厚意大変ありがたく思いますし、メーラ教徒と協力し合えば多くの人を救えるでしょう。でもそれで救えるのは人間だけです。俺は人間だけじゃありません、他の人族も助けたいのです」
背後でウルザが息を呑むのが解る。
メーラ教徒の、特にコーディの様な者の力を借りれば当然人間を優先して、他の人族は二の次……いや犠牲にしてでもということになるはず。
メーラ教徒の力を借りると言うのはそういうことだ。
「なるほど……でもそれは他の亜人達、当人同士が頑張ることじゃないかしら?まずは自分を、人間を助けることを優先すべきじゃない?」
メーラの顔から表情が消える。
それまでのメーラは、笑ったり怒ったり悲しんだりと感情の起伏が激しく情緒不安定だとは思っていたが基本的にカイルには非常に好意的だった。
だがこうしてはっきりと自分と違う意見を言われ、素のメーラが見えたような気がした。
「それに……そこまで行くと傲慢というものよ、己の手の大きさに余ることを望むのは」
「はい……」
カイルも自分で言っていることはただの我が侭だというのは解っていた。
不穏な空気が漂い始めるがそれを打ち消したのもメーラだった。
「でもその気概は悪くないわね。だったらもっと強くなることね。今のままではただの絵空事よ」
「はい、解っています。分をわきまえない発言でしたお許しください」
「いいのよ、カイルちゃんにはそれぐらい言う権利はあるわ……これは言おうかどうか迷ったけど、提案があるの私にとってもカイルちゃんにとっても良い話。あなた【試練と祝福】をうけてみない?」
「試練と……祝福?」
聞きなれない言葉に思わずオウム返しをしてしまうが、ここで黙って聞いていたレイラが口を挟む。
「聖下! それは!」
「レイラちゃんは聖下でなくメーラで呼んでいいって言ってるじゃない。まあすぐに結論を出せとは言わないわ。その気になったら明日の昼また来てね、今度は一人で」
待つと言っても一日だけのようだが、これでもメーラにしてはかなり譲歩したようだ。
「詳しい話は経験者のレイラちゃんに聞いてね。それとレイラちゃんも偶には家族と語り合いなさい、どうもあなた……あ、本当にそろそろ時間ね」
そう言った直後メーラの身体が輝きはじめる。
「こうやって身体を借りるのには制限時間があるの、あんまり長く入っていると、サキラちゃんの身体が耐えきれないの、ほんとはもっとお話ししたいのだけど……でも、普通の子に入ったら一瞬で肉体も魂も消滅しちゃうのよね。人間の中で耐えられるのはこのサキラちゃん達一族だけなのよ」
まったく面倒だわとメーラがぶちぶちと文句を言うが、ここでまた思い出したように言う。
「あ、そうそう。さっきも言ったけどこのサキラちゃん、引っ込み思案で全然友達いないから後でこの子と話してあげてね。とってもいい子だから、私が保障するわよ……いいわねサキラちゃん、ちゃんと自分の事情を説明して理解してもらいなさい。なんならけっこ……」
消え入りそうなときに、最後は自分の胸を叩き自分に、サキラにそう伝えるメーラ。
こうしてほとんど一方的に話した後、自分の都合で話を終えるメーラだった。
そして周りの空気が一気に変わる。
始まりの塔の中と言う事で神聖な雰囲気は変わらないが、神を前にした張りつめたかのような緊張感、押しつぶされるかのような重圧感が消え失せており、メーラがいなくなったことがはっきりと解った
残されたカイル達の視線が、胸を叩いた格好のまま固まっているメーラ――ではなくサキラに集まる。
ゆっくりと眼を開いたサキラは、自分の格好に気付き慌てて姿勢を正し、カイルと目が合うと、頬に朱がさした。
「あ、あの……せ、先日は失礼いたしました」
顔を赤くしたサキラがカイルに慌てて謝る。
「いえ、事情は解りました。こちらこそお構いもせず……」
互いに頭を下げあうという昨日の再現となった。
「えっと……この塔の中にはあまり長くいない方がいいので、外にでましょう」
サキラの提案どおり、何もせず座っていただけなのに疲労困憊になっている全員がやっとの思いで腰をあげ、塔から出る事となった。
七章第八話です。
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