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shi3zの長文日記 RSSフィード Twitter

2016-08-01

シン・ゴジラ MX4D vs 4DX VRとしてみた4D演出の鉄則 07:41

 言いっ放しもあれなので、MX4Dでも見てきた。

https://i.gyazo.com/69556326689dd9139cfa9bd19ac25cde.png

 するとどういうことだろう。

 驚くほど「良く」なってる。


 MX4Dの尻を突き上げるような効果は、普段は邪魔でしかないが、ヘリコプターの動きや振動といったものをうまく再現しているように思えた。


 スターウォーズEP7やジュラシック・ワールドに比べると雲泥の完成度であり、おそらくモーション担当が邦画ということもあってハリウッドの人間ではなく日本人がつけたのだと思う。これならMX4Dでも充分鑑賞に耐える、と思った。東宝劇場には4DXはなく、MX4Dだけなので、東宝が力を入れたシン・ゴジラならではの意地を見せた、と評価できる。


 特にヘリ攻撃、戦車戦の動きではMX4Dのアクチュエータが最大限に活用され、ダイナミックで迫力ある動きが実現し、これは4DXでは体験できない楽しさである。その意味ではMX4Dと4DX、二回も違った楽しさを映画に与えてくれるという意味ではかなりお得だ。


 ただし、残念ながら二箇所だけ、不自然なモーション演出があった。

 そこに目を瞑ればMX4Dでも充分楽しめることは先に言っておく。


 以下、ややネタバレに近い要素を含むので未見の人は読まないでください。




 ゴジラが攻撃を受けた時に、尻から突き上げる演出があったことだ。


 さて、どうして僕はスターウォーズEP7、ジュラシック・ワールド、そして今回の非常に完成度が高いもののシン・ゴジラの一部4D演出(なんか変な日本語だがわかりやすいので以後この用語を使う)に関して、MX4Dが未熟であると感じるのか。


 自分なりに考えてみると、そもそも4DX、およびMX4Dは、VR技術の一種であると捉えると整理しやすい。


 4DX、およびMX4Dは画面にあわせて椅子が振動する、まずこれが基本である。

 画面で水しぶきがあれば、水が発射され、風が吹けば風が吹く、画面に煙が立ち込めれば実際の煙が昇る。画面が光ると映画館全体が激しくフラッシュする、という具合だ。


 ここまではMX4Dと4DXでほとんど完全に共通した要素である。これだけならばMX4Dに対して全く不満がないどころか、動きのシャープさに関しては4DXより遥か上を行くと言っても良い。


 では何が問題なのか。

 MX4Dにはシートポッパーという、シートを突き上げる装置とバックポッパーという、背中を叩く装置が追加されている。これは4DXにはない機能で、おそらくMX4Dのモーション担当者は4DXには不可能なこの2つの装置を上手く使えと厳命されているのだろう。そしてこの2つの使い方が、映画における4D演出の明暗を決定的に分けてしまう。


 僕がMX4Dで違和感を感じたシーンは、スターウォーズでは遠くのストームトルーパーが倒れた時にシートポッパーがケツを突き上げるシーンだ。


 これはどう考えてもおかしい。

 いったい、感情移入する対象は誰なのか。

 たとえば、ハン・ソロかもしれないし、ポー・ダメロンかもしれないが、いずれも三人称視点で画面に映り込んでいるキャラクターに起きていることを4Dで再現しようとするとかなりの違和感が出る。


 これはなぜだろうと思うと、要するに映画における4Dとは、VRであるという前提から見ると、三人称視点で映り込んでいるキャラクターがどんな目にあおうとも、彼らに起きていることを4Dの動きで再現してはならないのだ。


 そうではなく、その場にいる「臨場感」を出すためには、本来の映画ではほとんど考えられていない要素、すなわちカメラマンはどのような状態でその場に居るか、という要素で考えなくてはならない。


 実際、CG全盛の今は、実際のカメラマンの位置と観客が感じるカメラマンの体勢にはほとんど共通点がない。それが4D演出をする際にモーション担当者が最も迷うところだろう。


 しかしあくまでも4D演出は、観客が主人公ではなく、カメラマンそのものであるという前提に立って演出を設計しなければならない。


 それを逸脱した演出は全て過剰に感じてしまうのである。


 シン・ゴジラの場合、95%以上のカットで非常にストイックに、MX4Dはカメラマンの動きをなぞっている。たぶん、シン・ゴジラがとりわけカメラワークに凝りに凝った内容で、常に感情移入の対象となる主人公なりキャラクターなりといったものが画面に映り込んでいるわけではないので、特に誰が写っているかわからないような会議室のシーンなどは動きをつけづらい。もしかすると苦肉の策でカメラワークにあわせたモーションになってしまったのかもしれないが、これが素晴らしく効いている。


 さらに、時折挿入されるゴジラによって被害を受ける街のシーンでは激しいモーションに変わり、この段階でもゴジラがどんな形状なのか見えないため、やむなくカメラマンの位置から感じるモーションという演出になってしまったのかもしれないが、やはりこれが凄く効いていることは間違いない。


 そして、会議室のシーンと現場のシーンの切り替えに非常にハッキリとメリハリがついていて、このメリハリだけ考えるとMX4Dの機敏な動きは非常に気持ち良い。


 4DXでなければ体験出来ない要素として、「ふわっとした風」がある。

 たとえばヘリコプターで空中を飛んでいるシーンや、海野シーンで「ふわっ」とした風を体感できるのは4DXだけだ。これが実にさりげなく、そして効果的に浮遊感を演出できる。そのかわり、MX4Dのようなシャープさはない。


 ところがゴジラが全貌を現したところで突然、MX4Dはいつもの調子に戻ってしまう。ゴジラは間違いなく主役である。しかしゴジラがダメージを受けた時に、それを観客が体感する必要は果たしてあるのだろうか。


 あの場面でゴジラに感情移入している観客はゼロだ。そういう演出なんだから。なのにMX4D演出だけがゴジラの体験した動きを観客に体験させるのだ。これは明らかに蛇足だろう。椅子のモーションはあきらかにカメラと同じなのに、忌々しきシートポッパーだけが空気を読まずゴジラに同期する。これでは台無しである。それまで非常にストイックにカメラマンと同じ動きをトレースしてきたのに、なぜ最後の最後でこうなる。やはりMX4Dにしかない、シートポッパーをどうしても使えと厳命が下っているとしか思えない。


 正直言うと、途中まではMX4Dを見なおしたほどだった。これならMX4D版も充分お勧めできる、と後悔したほどだ。


 ところが最後の最後で余計な演出がシートポッパーに加わるので興ざめした。


 ・・・が、そこにこだわるのは僕みたいな偏屈者だけかもしれないので、大多数の人は気づかないかもしれない。



 それに考え方を変えれば、4DXとMX4D、どちらもそれぞれ良いところがあるのでスキモノなら両方みるのがベスト。どちらか一方しか選べないとしたら、VRとして正しい演出が加わったものが見たければ4DX、ただし対応してる映画館が少ないので、近所にはMX4Dしかないとしたら、まずは2D版やIMAX版の通常のシン・ゴジラを見てから、MX4Dを見ることをお勧めする。二倍楽しめるからだ。


 個人的にオススメなのは


 2Dシン・ゴジラ→4DXシン・ゴジラ→MX4Dシン・ゴジラ→IMAXシン・ゴジラ→爆音シン・ゴジラ


 という順番のラリーである。

 さすがに今日から平日が始まってしまうので、本当はIMAXと爆音もすぐに行きたいところだがちょっとむずかしい。


 ただ、3日連続でシン・ゴジラを鑑賞して間違いなく言えるのは、これは大傑作であるということだ。


 会議室のシーンでフラストレーションをためて、怪獣が街を破壊するシーン(とはいえ本作では誰も怪獣とは呼ばない)でスカッとして、自衛隊が勢揃いするシーンでワクワク・ドキドキする。


 そして怒涛のクライマックスへ向かっていく。

 怪獣映画ファンも、そうでない人も、スカッとすること請け合い。


 ハリウッドにこんな映画は絶対作れない、世界よ、これがゴジラだ。

 この映画は、日本映画史上に残る金字塔である。



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