大抵の発想というのは、人類史において既に為されているものです。漫画のみならず、物語創作全般においても根幹となる大凡の形は太古に類型化されています。本当に斬新で新鮮な驚きを提供してくれる作品に出逢う機会というのは、最早ほぼありません。ただ、その枝葉末節の部分は手を変え品を変え、あるいは組み合わせ次第でまだまだ見たこともない世界を見せてくれます。昨今の様々な作品を見ていても強くそう思います。
この『タニクちゃん』も、そんなことを感じさせてくれる作品の一つです。
一言で表せば、「多肉植物育成コメディ」。エケベリアデスメチアナや、セダムが喋りまくります。……と言っても、恐らく多くの人にとっては聞いてもピンと来ない固有名詞でしょう。まさかの「多肉植物」漫画! 世界は広いですね。
本作の主人公は、母親の経営する多肉植物専門店PAPASの留守を任された、独身彼女なしニート(就活中)の34歳、花田章。植物の世話など全然したことのない章が、意思疎通のできるようになった多肉植物たちとドタバタな日常を繰り広げていきます。
まず、妖精化されたタニクちゃんたちが可愛いですね。特に、章に密かに恋をするセダム(園芸名「乙女心」!)のいじましさにはついニヤニヤしてしまいます。
綺麗な女性を見るとすぐに反応し、また出会いはそこそこあるものの、面白いほど発展する縁には恵まれない章の様子には悲哀と苦笑が生じます。あまりの不遇さに、タニクちゃんたちから付けられる名前は切なすぎます。
PAPASでの営みは賑やかですが、時にはしっとりと心に沁み入って来るようなお話も。正に、千差万別な形状の多肉植物のように、豊かな魅力が詰まっています。
多肉植物愛がそこかしこから溢れ出ているのを感じるこの作品。多肉植物が好きな方は勿論ですが、むしろ多肉植物について詳しくない人が読む方が新たな知識を得られて楽しめるかもしれません。
単行本ではセダムが可愛すぎる描き下ろしエピソードに、4コマが8本、あとがき漫画他も加筆されていますので、WEBで読んだ方も要チェックです!
(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)
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