東京都の新しい知事に、小池百合子氏が選ばれた。初の女性都知事の誕生だ。日本の首都の顔として、持ち前の発信力を生かしてほしい。

 自民党の意向に逆らった末の勝利である。都民の胸中には、党による「組織の論理」に対する反発が色濃くあったはずだ。野党の統一候補選びにも分かりにくさがあった。

 小池氏は、都民一人ひとりが主役だと唱えた訴えどおり、特定の組織に目を向ける旧来の政治から、都民全体を考える都政への変革を進めてほしい。

 急速に進む高齢化への対応や首都直下地震への備えなど、小池氏がリーダーシップを発揮すべき課題は山積している。

 すぐに待ち受けるのは東京五輪・パラリンピックの整備費の分担見直しだ。当初7千億円と言われた全体経費は2兆とも3兆とも言われている。これをいかに削り、都負担の適正ラインをどこに引くか。

 組織委も都議会自民党も「招致した東京の責任」を唱え、都の負担増を求めている。小池氏は「都政がブラックボックスになっている」と決定過程の透明化を訴えた。その真価が問われることになる。

 朝日新聞の調査では、新知事に力を入れてほしい政策のトップは「教育・子育て」だった。

 「子育て」問題は東京の課題にとどまらない。首都圏に集まった地方の若者が、子育て環境の悪さなどから、子どもを産むのをあきらめる構造が日本の人口減に拍車をかけている。

 約8500人にのぼる待機児童の解消に向け、都有地の活用や保育士の待遇改善など様々なアイデアが選挙戦で語られた。着実に対策を進めてほしい。

 一方、小池氏が「教育」について語ることはほぼなかった。

 かつて、家族間での殺人事件などが起きるのは「自虐的な戦後教育の結果」だと語ったこともある。自虐史観の克服を掲げる「新しい歴史教科書をつくる会」は、主な候補のうち小池氏だけが活動を支えてくれた、と今回支持を表明していた。

 2014年の地方教育行政法の改正で、首長の権限が強められた。特定の価値観ではなく、自らが公約とした「多様性」を認める教育をめざすべきだ。

 立候補の際、小池氏は都議会自民党との対決を強調した。議場での真剣な議論を通じ、都民本位の政治を競うなら歓迎だ。

 しかし、またコップの中の争いになるなら、ごめんこうむりたい。猪瀬直樹氏、舛添要一氏と2代続いた失脚で、これ以上都政を停滞させる余裕はない。