朝日新聞に、かなり一面を丸まる使ってかなり大きく掲載されていたインタビューをご紹介。学習院大学教授という、井上寿一さん。
このブログでも何度も書いてますが、「もはや戦後ではない」のではなく、つまり「戦後ではなく、今は戦前なんだ」と。
これからの日本政治はどこへ向かうのか。戦前の歴史からの類推に手がかりを求めて、考えてみたい。なぜ遠い過去の戦前の歴史と比較するのか。理由は三つある。
第一に、戦前は政権交代が普通の二大政党制の時期があったからである。
第二に、当時も今も格差拡大が大きな社会問題だからである。
第三に、危機は解消することなく続いているものの、小康を得ている「非常時小康」状況として歴史的な類似生があるからです。
戦前の政党内閣は、世界恐慌下の経済危機の拡大にとどまらず、さらに二つの危機に直面する。対外危機(満州事変)と国内危機(五・一五事件)である。
満州事変は政党政治に対する外からのクーデターだった。対する二大政党は、立場の違いを超えて提携し、協力内閣構想によって対抗する。協力内閣構想は満州事変の拡大にブレーキをかける。そうなると両党は、この構想から離れて、総選挙の勝利による単独政権をめざすようにん。
その結果、政友会の犬養内閣が成立する。この内閣は満州事変の拡大になす術がなかった。さらに五・一五事件が襲う。三つの危機の鎮静化に失敗した政党内閣は崩壊する。しかし国民の同情は、政党内閣の崩壊よりも政党内閣の崩壊をもたあいた側に向かう。農村の惨状や政党政治の腐敗を告発した五・一五事件の被告に対する減刑嘆願運動の署名者数は、100万を超える。
国民は(それ以前の)8年間の二大政党制の時代から苦い教訓を学んでいた。二大政党制は、政策の優劣を競う政治システムではなくなり、機能不全に陥っていた。反対党の失点が自党の得点になり、二大政党制の下で党利党略が激しくなる。国民は二大政党制を見放した。
政党内閣を崩壊させた三つの危機のうち、経済危機は高橋是清蔵相の積極財政が克服する。対外危機も日中停戦協定の成立を境に沈静化に向かう。以上にともなって、テロやクーデターの国内危機のおそれも後退する。日本は「非常時小康」の時代を迎える。
「非常時小康」とは今の日本のことでもある。一昨年の世界同時不況は小康を得ているものの、再び欧州発ともなりかねない。危機は過ぎ去ったと思った瞬間、再来する。当時がそうだった。「非常時小康」は、日中全面戦争の勃発を経て、戦時体制に転換したからである。
戦時体制は翼賛体制をもたらす。その画期となったのが斉藤隆夫の「反軍演説」問題だった。民政党の斉藤は、議会演説で政府の日中戦争の収拾方針を批判した。軍部は議会に斉藤の議員除名を強いた。これをきっかけに政党は雪崩を打って解消していく。(そして)大政翼賛会が成立する。斉藤は軍部の政治介入よりも政党の「無気力」をより強く批判した。翼賛体制を招いたのは、新しい政党政治の枠組みを作ることができない政党の「無気力」だった。
国民が求め続けた(として選挙の結果に現れていた)のは、格差の是正をとおして平等な社会を実現する社会民主主義的な改革だった。政友会と民政党の二大政党は、改革志向の国民の期待に応えることができなかった。
代わりに軍部が無産政党の協力を得て、国家社会主義体制のなかに国民の意思を吸収していく。この体制が軍部独裁に見えなかったのは、近衛文麿首相が主導したからである。
国民は高貴な出自の近衛に腐敗した政党政治と軍部独裁からの救済を求めた。しかし近衛は戦争の拡大を回避できなかった。
近衛内閣の総辞職後ほどなくして日米戦争が始まる。4年後、帝国日本は敗北した。
私たちは、近衛のような国民的な人気に依存する政治指導者よりも、政策の実行力がある政治指導者を求めるべきであろう。
私たちが求めるべきは、国民と痛みを分かち合える政治指導者である。甘口の利益誘導を図る政治家はいらない。低成長と少子高齢化を前提とするならば、戦前の国民と同様に、下方平準化であっても、国民は政府による公共財の平等な再配分を求める。必要なのは、自己を犠牲にしてでも解決困難な国家的な課題に取り組む胆力がある政治指導者である。
私たちも日本政治に対する責任を分有しながら、議会制民主主義の発展に参加し続けなくてはならない。
後半部分は、かなり端折って引用しちゃったので、結論がやや唐突な印象になっちゃってるかと思いますが、本文のインタビューはもっともっと長くて、ちゃんと説得力のある内容になってますので。あしからず。
で。
やはり"二つの危機”というキーワードが印象的ですよねぇ。対外危機と、国内危機。
今の時代にトレースして言うと、対外危機というのは、パッと思いつくのは、やっぱり北朝鮮。
それから、対中関係。(対韓国っていうのは、冷静に考えれば、どんなにマズい方向に転がっても"危機”という状況にまではならないと思っています。感情的にグダグダ言っている人は多いかとは思いますが)
国内危機っていうのは、まぁ、色々ありますけどね。
「五・一五事件」や、「二・二六」に相当するような"危機”っていうのは、まぁ、近い将来日本で起きても別に不思議じゃない、というか。この間も、新聞社に銃弾が届けられたばっかりだし。
民主党がこのまま地盤沈下を続けていって、自民党も"新党ごっこ”もこのままグダグダな展開に終始するなら、まぁ、そういう事態に陥ってしまうことは十分あるだろう、と。そういうことは、自民党の末期三代の「政権放り投げ」が相次いでいた頃から、繰り返し言われていたことですから。
例えば、当時の"軍部”が今の自衛隊か、ということではなく、例えば"検察”とか、ね。
そういうことだってあり得る。
やっぱりねぇ。
色んな人が、こういう、似たような「警告」を出してるってことは、重要なことだと思うんですよねぇ。
難しいですけどね。
要するに、"熱狂”しちゃって冷静に考えられなくなる、という事態が一番マズいワケで。
「勇ましい言葉」とか「綺麗ごと」とか、ね。
別に、すべてにコミットすべき、ということでは全然ないんですけど、多少なりにでも関心を持っていれば、それでいいと思うんで。
まぁ、でも、アレですよねー。
今の民主党政権のままだと、ずぶずぶといっちゃいそうですよねー。
もうちょっとシャキッとしてくんねーとなー。