「18人死亡」群馬大病院 問題医師の素顔 経歴 評判 これだ!
2015.03.13
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開腹手術で10人、腹腔鏡手術で8人が死亡。なぜオペをやり続けたのか?
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事件の舞台となった群大医学部附属病院。北関東では最大級の大学病院だ
「オペのリスクは1%です」
「がんを取れば、平均寿命まで生きられます」
 問題のドクターは、高齢の女性患者に開腹手術を強く勧めていたという。説得に応じ、女性は手術を受けた。術後、激しい痛みに襲われたが、その医師は、
「大丈夫、回復状態にありますよ」
 と言うばかり。そして手術3日後、女性は亡くなった――。
 北関東最大の拠点病院、群馬大学医学部附属病院(前橋市)第二外科の外科医、須納瀬(すのせ)豊助教(消化器外科)が行った腹腔鏡手術で8人が死亡した事件。
 3月3日、病院側は「手術のすべてで過失があった」と最終報告を行った。腹腔鏡手術には高度なスキルが求められるが、須納瀬氏は臓器を切除しすぎたり、動脈を傷つけて大量出血を招いたり、縫合不全で胆汁漏れを起こしたり……と、あまりに未熟な技術のオペを繰り返していたというのだ。
「しかし、医学界では最も重要なハズの死亡事例の検証はされないまま"犠牲者"は増え続け、昨年秋に病院が調査のため重い腰を上げたのは8名の患者が亡くなった後。開腹による肝臓切除手術の死亡事例を合わせると、この5年間で、なんと18人が亡くなっているのです」(全国紙記者)
 すべての死亡事例で執刀医としてメスを握ったのが須納瀬氏だ。年齢は40代後半で、その経歴は一見、華々しい。
 鹿児島県生まれで千葉県の名門、千葉高校から群馬大に進み、'93年に医師免許を取得。'04年にはアメリカ移植学会若手研究者賞や北関東医学会奨励賞を受賞している。肝臓、胆道、膵臓の分野で治療を続け、消化器内視鏡学会専門医、肝胆膵外科学会高度技能指導医の肩書も持つ。だが、同じ肩書を持つ東京の大学病院消化器外科医は、
「どちらも筆記試験にパスすればもらえるもの。技能を測る試験ではない」
 と切って捨てるのだ。須納瀬氏の群大医学部の同級生が語る。
「彼は水泳サークルに所属していて、ムードメーカー的存在で友人も多かった。酒好きで、周囲に勧められるままよく一気飲みをさせられていた姿を覚えています。8年ほど前、教授の引きで助教に出世したと聞きましたが、たしかに先輩の指示にはよく従うタイプだった。功名心があるふうでもなかったから、上司の命令で大それたことをしてしまったんじゃないかと思います」
 だが、周囲を取材してみると、彼の医師としての評判は最悪だ。
「須納瀬は助教の立場でありながら、手術記録さえまともに書いていなかった。外科医なら、どんなに眠くても手術当日に完成させなければなりません。ひどい場合には、病名すら書いていないカルテもあったそうです。当然医学部内で問題視され、会議で『カルテぐらいきちんと書け』と指摘されたこともあったそうですが、須納瀬の直属上司、第二外科の竹吉泉教授はまるで聞く耳を持たなかった。須納瀬の技術不足とモラル欠如は言うまでもないことですが、それをかばって一連の手術ミスを生んだのは、群大医学部の構造的な問題なんです。須納瀬は週に2〜3回、近辺の病院でアルバイトをしていたそうですが、そのため、大きな手術の翌日に、術後の患者を診られないこともあったと聞きました。バイトをするなとは言いませんが、完全に本末転倒ですよ」(群大医学部OB)
上層部はパニックに
 このOBが指摘する「構造的な問題」とは、全国の大学病院でも珍しい、同一病院に異なる外科が存在するシステムだ。群大医学部は'43年、その前身の前橋医学専門学校として開学した。'54年、第一外科から分派する形で第二外科(臓器病態外科学分野)を開設。以降、2つの外科は同じ病院内で対立してきた。前出のOBが憂う。
「手術数や珍しい症例での競い合いは日常茶飯事です。歴史のある第一に比べ、第二はベンチャー企業というイメージ。それだけに、第二の医師には『一発当てて大出世を狙う』と言う者もいた。『群大は最先端』と誇っていた腹腔鏡手術なども、そんな空気の中で乱発されたように感じられます。会見で陳謝していた野島美久(よしひさ)病院長はじめ上層部も、第一と第二の患者不在の張り合いは承知していましたが、一部の有志が改善を訴えても、黙殺されるばかりだったそうです」
 現在、須納瀬氏は診療科長業務停止処分中で、竹吉泉教授も3月2日から出勤停止処分となっている。部下の失敗を見逃し続けてきた竹吉教授に対し、「教授の器ではなかった」と語る関係者は少なくない。
「この期に及んで、『私はもともと消化管外科が専門で、肝臓には詳しくなかった』と言い訳をしています。自分の実績作りのために、ヘタな須納瀬に腹腔鏡手術をさせ続けていた罪は重い。竹吉教授は胃がんの執刀例が100件に満たないといわれている。部下のオペを検証できるスキルも怪しかった」(第二外科スタッフ)
 第一外科に勤務する医師は、絶対匿名を条件に本誌にこう語る。
「上層部はパニックで、昨年末に決まるハズだった医学部の人事異動も止まったまま。現場のドクターは疲弊しています。第二のヤツらは、本当にどうしようもない。4月からは第一と第二が統合されます。気が重いですよ……」
 本誌は須納瀬氏に取材すべく、前橋市内の新興住宅地に建つ、敷地200坪の豪邸を訪れたが、妻と娘2人もいるハズの屋敷はずっと留守だった。
 開腹手術で亡くなった10名の患者のオペに関する群大の調査報告は、5月に出される予定だ。せめて自らの病巣には、きっちりメスを入れてほしいものだ。
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'04年、北関東医学会奨励賞を受賞した論文。'08年2月には、読売新聞の医療欄に写真つきで登場していた
PHOTO:會田 園
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