2016年7月30日、中国を訪問中の日中交流団体の幹部が中国当局によって拘束されたことが分かった。日本人の拘束は昨年5月以降、5人目。いずれも「スパイ容疑」とされるが、中国当局は拘束などの詳細な理由は一切明らかにしないまま。政治的背景の有無などを含め、真相はベールに包まれている。
日本メディアによると、新たに拘束されたのは50代の男性。東京に本部がある日中交流団体の理事長を務めている。男性は7月11日から15日までの予定で北京を訪れていたが、帰国せず、携帯電話もつながらないという。
菅義偉官房長官は28日の記者会見で、日本人男性1人が渡航先の北京で中国当局に拘束され、中国側から連絡を受けたと言明。スパイ行為に関与した可能性については「わが国政府はいかなる国に対しても、そうした活動には従事していない」と否定した。
在日中国大使館の薛剣公使参事も同日の記者会見で、「中国側は外交ルートを通じて、日本側に通報した」と述べ、拘束を事実上認めた。しかし、「どの国でも外国に行ったら、現地の法律を守ることが一般的、自然なルールだ」などとするだけで、具体的な言及は避けた。
団体のホームページなどで男性は1980年代から交流事業に従事し、中国の大学で教壇にも立ったなどと説明。交友を深めた人物として中国要人の名前も挙げている。日本では「親中派」とされる男性の拘束は関係者間に少なからず波紋を広げている。
中国は昨年5月、愛知県稲沢市の男性会社員を浙江省で、神奈川県大和市のNGO関係者を遼寧省で「スパイ行為に関わった」などとして拘束。翌6月には札幌在住の団体役員の男性が北京で、東京在住の日本語学校経営者の女性が上海で、それぞれ中国の国家安全警察に拘束されたことも明らかになった。4人は刑事拘留や施設などに留め置かれ調べを受ける「居住監視」措置を経て、今年1月までに正式に逮捕された。
4人のうち、愛知県の男性は今年5月になって起訴されたことが判明。この男性は軍事施設周辺で拘束されたとみられるが、起訴を認めた中国外交部報道官は「日本が自国民に対する管理と教育を強化して、同じような事件の再発を防止するように望む」と述べるにとどまり、詳細には触れなかった。
札幌市の男性は元航空会社社員で定年後、やはり日中交流事業に関与。神奈川県の男性は母親が日本人の脱北者で中朝国境付近を頻繁に訪れていたことから、中国の公安当局にマークされていたとみられる。東京在住の女性は日本に帰化した元中国人。女性も起訴済みとされる。
今回の日中交流団体幹部の拘束について、中国共産党系の環球時報は日本メディアを引用する形で報道。その上で中国社会科学院の日中関係研究センター研究員の「外国の諜報員を見逃す国はない。ただ、(今回の一件で)日中の正常な交流に影響が出ることはない」との見方を紹介している。(編集/日向)