チン監督の名刺の裏には、海に潜っている潜水夫の写真が印刷されている。これは北朝鮮出身の潜水夫の記録映画「異邦人」という次作だ。「韓国には日本の新幹線のような高速列車ＫＴＸがあって、前の座席ポケットに『ＫＴＸマガジン』という雑誌が入っている。暇つぶしにパラパラとめくっていたら東海の海、日本で言う日本海の真っ青な海の写真があった。そこに船が浮かんでいて男性がハシゴを登っているんだ。真っ青の海に真っ黒のスエットスーツと真っ黄色の手袋。その色合いが強烈で頭から離れなかった」

　調べてみると、この男性は１０年前に脱北して韓国にやってきていた。「韓国は閉鎖的な国で、北から来た人間を差別している。彼は韓国において“異邦人”なのです。銅でできた潜水具を着けてホースから空気を送り込んで海中を歩いて海産物をとるのが仕事。日本語の『もぐり』と韓国で呼ばれている。もともとドイツから日本に戦前伝わった技術で、日本から植民地時代の韓国に広まった。彼が潜っている場所は北朝鮮との領海域で、北から逃げてきた男が北とすれすれの所を潜っていることにまずひかれたのです」

　さらに男性の生き方に共感する部分が多いという。「死と隣り合わせの仕事で、彼は決して好きで潜っているわけではない。韓国で生きていくためには潜らなくてはならない。それは一般のサラリーマンも同じ。会社で屈辱的なことをされたり嫌なことを言われても生活のために出社する。そういう状況に置かれている私たちと彼の人生とが重なるんです。彼を通じて人が生きる喜びや悲しみが描ければ」。映画が完成すれば、今秋に開かれる海外映画祭でお披露目したいと意気込んでいる。

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