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かわいそうなライオン

夏休みに入り、各地の動物園は連日、多くの子どもたちでにぎわっています。こうした中、戦前の上野動物園を撮影した貴重な映像が見つかりました。そこからは、戦争をめぐる「悲劇」の知られざる一面が見えてきました。(函館放送局 北井元気記者)

戦前の貴重なフィルム発見

取材のきっかけはNHKに届けられた1本のフィルムでした。東京の会社員の男性が品川の古道具店で見つけました。

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記録されていたのは昭和初期に撮影されたとみられる上野動物園の様子でした。5年前まで園長を務めていた小宮輝之さんに映像を見てもらうと、「写真が主流だった昭和初期の映像はほとんど残っておらず、非常に貴重な資料だ」と話しました。
小宮さんはさらに映像に映っていた2頭のライオンに注目しました。飼育記録や来園者の服装などから年代を特定、雄のアリと雌のカテリーナと突き止めました。

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2頭は昭和6年に日本と友好関係を結ぼうとしていたアフリカ・エチオピアの皇帝から贈られたライオンです。それまで上野動物園にいたどのライオンよりも野性的で、猛々しいその姿をひと目見ようと、多くの人が訪れたといいます。

物語のゾウとともに

今も読み継がれている絵本、「かわいそうなぞう」。太平洋戦争中、空襲で動物園のおりが壊れ、猛獣たちが町に逃げ出すと危険だとして、飼育員たちの手で殺された3頭のゾウの実話をもとにした物語です。取材を進めると映像に映っていたライオンは、この絵本でゾウとともに殺されたライオンであることがわかりました。

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愛情を注いだ飼育員

当時、動物たちの処分を指揮したのが、園長代理を務めていた福田三郎さんです。動物が処分された当時、16歳の女学生だった長女の泰子さん(89)は、父親の三郎さんが雌ライオンのカテリーナにひときわ愛情を注いでいた姿を覚えていました。泰子さんは「仕事がうれしいという感じが、子ども心にも私にも伝わってくる父でした」と話していました。

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記録されていた悲劇の実像

しかし、次第に戦況が悪化。動物園も戦争の荒波に飲み込まれていきます。この頃、福田さんがつけていた日記を家族が大切に保管していました。

昭和18年8月16日。東京都から、福田さんにある命令が下されます。「猛獣類を射殺せよとのことなり」。1か月以内にすべての猛獣を処分するよう命じられたのです。

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日記のページの間には、仙台と名古屋の動物園に送った手紙の原案が挟まっていました。
安全なる貴園に於て収容の御希望有
福田さんは、ライオンたちの命を助けるため、ほかの動物園に疎開できないか模索しました。

しかし、都の反対で願いは届かず、命令から6日後、アリとカテリーナは処分されることになりました。その時の様子が、当時の記録に詳細に残されていました。

「午後6時5分。毒薬3グラムをウマの肉に入れて与える。苦いのかすぐ吐き出す」
「午後6時58分。呼吸が荒く、筋肉のけいれんが始まる。苦悶はなはだしい」

苦しみ続けるカテリーナを見かねた飼育員がとどめを刺します。

「7時33分。心臓部をヤリで刺す」
「7時42分。呼吸停止、絶命する。所要時間1時間37分」

愛する動物をあやめる苦しみ

すべての動物の処分が終わったころ、福田さんの体重は1か月たらずで8キロも減っていました。福田さんは、当時の心情を著書、「動物園物語」の中で振り返っています。
夜床に入っても、眠れない日が幾日も続きました。眠られぬ夜は、なかなか死ねなかったライオンの雌を思い出してなりませんでした

娘の泰子さんがこうした事実を知らされたのは戦後しばらくたってからのことでした。

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泰子さんは、「その時、父が何をして帰ってきたかということは想像もできなかった。動物を処分する役目をやりたくないとどんなに思っても、口に出せる社会じゃなかった。それぐらい戦争というのは厳しいものだった。父はどんなに辛かっただろうと思います」と話していました。

悲劇を今に伝える剥製

戦後、動物園は活気を取りもどしました。その園内の一角にアリとカテリーナが剥製となって今も残されていることがわかりました。あの日の悲劇を伝えようと保管されてきましたが、その存在はほとんど知られていません。
今回、特別に倉庫から出し、撮影が許されました。カテリーナの胸を見てみるとヤリでとどめを刺された跡が確かに残されていました。

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戦争の悲劇を忘れない

絵本「かわいそうなぞう」の3頭のゾウの話は多くの人たちの間で語られ、記憶されてきました。しかし、他の動物たちにもこうした悲しい物語があったことはあまり知られていません。
実は上野動物園のゾウやライオンのように、空襲でおりが壊れて逃げ出す危険があるとして戦時中に処分された動物は、全国で合わせて160頭以上に上ると言われています。しかし、戦後70年がすぎ、当時を知る関係者はほとんどいなくなっています。さらにアリとカトリーナの剥製のように戦争の記憶を伝える貴重な遺産でさえ保管もままならず、人の目に触れる機会は年を経るごとに少なくなってきています。

今回、見つかったフィルムに偶然映っていた2頭のライオンは、忘れられていく戦争の悲劇を私たちに訴えかけているように感じました。

早川俊太郎
函館放送局
北井 元気 記者