2016-07-31
2016年上半期ラノベ周辺まとめ
キャラノベの整理問題
キャラノベレーベルが数多くでる一方、乱発してしまったがために混乱している状況にあるレーベルも少なくありません。
集英社オレンジ文庫はコバルト文庫からの派生ではありますが、その一方で集英社文庫もコバルト作家を起用した文庫書き下ろし作品を出しており、結局2レーベルでコバルト系のキャラノベが出されている状態にあります。
講談社タイガは兄弟レーベルの講談社ノベルスや実質廃刊になった講談社BOXからのシリーズ移籍を行うも、「書き下ろしオンリー」というタイガの制約のせいで既刊の移籍ができずにシリーズがタイガ・ノベルス・BOXの3レーベルをまたいで刊行されてしまっているという事態にあります。
これまで星海社文庫がメインだった星海社FICTONSの文庫落ちが講談社文庫と角川文庫でも行われるようになりました。角川文庫の『ビアンカ・オーバースタディ』ではあとがき以外完全収録でしたが、講談社文庫の『大坂将星伝』はイラスト全削除となっており、出版社によって仕様が異なっています。
昨年から本格始動した講談社BOXの文庫落ちも着々と進んでいます。BASARAノベライズと『霊感検定』が講談社文庫から刊行されました。『化物語』がどこから落ちるのかが台風の目ですが、電子化スタートと戯言シリーズの件から見ても講談社文庫が最有力でしょう。
現在流行っているソフトカバーでのネット小説刊行は、文庫落ちするのか・その受け皿が不透明なレーベルも多いです。宝島社の人気タイトル『異世界居酒屋「のぶ」』はこのラノ文庫ではなく、宝島社文庫に落ちることが決定し、宝島社文庫がネットラノベとキャラノベ・一般文芸が相互乗り入れを果たすレーベルとなりました。
今年のキャラノベの流れの一つに、キャラノベ出身作家の躍進があげられます。これまでキャラノベは一般文芸出身作家とライトノベル出身作家が多くを占めていましたが、MWやL文庫のキャラノベ出身作家の存在感が増しています。
MW出身からは、SF界隈で高い人気を誇る野崎まどのほか、講談社タイガでも人気を博している綾崎隼、『東京すみっこごはん』『ベンチウォーマーズ』が絶賛された成田名璃子、キャライラストのない表紙ながら40万部を超すベストセラーとなり特撮俳優の福士蒼汰主演の映画化が決定した『ちょっと今から仕事やめてくる』の北川恵海が活躍しています。
L文庫ではラノベ文芸賞受賞作の雪村花菜『紅霞後宮物語』が看板タイトルに落ち着きました。
この他、『天盆』でマニア人気を博した王城夕紀、小説デビュー作『パンツァークラウン』が劣化冲方と酷評されるもサイコパスノベライズやオリジナル2作で再評価された吉上亮が活躍中。
新人賞では新潮社のファンタジーノベル大賞の復活、ラノベ的作品が多くを占める創元ファンタジー賞などキャラノベ周辺を拾い上げる賞が増加。また、一迅社ラノベ大賞ではライト文芸が賞を受賞し物議を醸しました。(刊行はソフトカバー)一迅社はキャラノベ単行本『ボタニカル』をノベル編集部から出しており、ライト文芸参入への準備は前々から進行していたようです。
本年のラノベミステリは、昨年の『ウィッチハント・カーテンコール』『月見島に星は流れた』のようなビッグタイトルはないものの、小〜中規模の良作が数多く出そろいました。
本格越境を開始した紅玉いづきの『現代詩人探偵』『大正箱娘』、怪物が登場するファンタジー・ミステリからは『怪物率』『アンデッドガール・マーダーファルス』、「何故これがメディアワークス文庫ではなく電撃文庫から出されたのか」という議論を呼んだスクールカーストミステリ『ただ、それだけでよかったんです。』、古野まほろのキャラノベ2作『臨床真実士ユイカの論理』『おんみょう紅茶屋らぷさん』、カルチャーセンターを舞台とした円居挽の美少女ミステリ『日曜日は憧れの国』、レーベル創廃刊のゴタゴタに巻き込まれた三途川シリーズ最新作『ワスレロモノ』、『虚構推理』以降となる城平京の完全新作『雨の日は神様と相撲を』、綾崎隼初の講談社作品であるタイムループミステリ『君と時計シリーズ』、竹宮ゆゆこ×浅野いにおのタッグで挑む青春ミステリ『砕け散るところを見せてあげる』、九州限定版が発売された『道然寺さんの双子探偵』、『我がヒーローのための絶対悪』の作者による映画古書ほっこりミステリ『古書街キネマの案内人』、『代償のギルタオン』コンビが送るラノベミステリ『殺人探偵・天刀狼真』、一迅社文庫のアユミス『小和田くんに隙はない? 飯田さんの学園事件簿』、角川キャラ文芸のアユミス『鉢町あかねは壁がある』などが刊行。
本年の特徴として、円居挽、紅玉いづきをはじめとして東京創元社のラノベ・キャラノベ作家起用が目立ち、いわゆる「あやかしカフェのほっこり事件簿」以外にもバラエティ豊かな作品が多くキャラノベとして出るようになりました。
今年のライトミステリのトレンドとしては、「あやかしカフェのほっこり事件簿」のほか、『鉢町あかねは壁がある』『日曜日は憧れの国』のような学園もの日常の謎(いわゆるアユミス)、『アンデッドガール・マーダーファルス』『雨の日は神様と相撲を』など特殊能力を絡めたファンタジーミステリも流行の兆しを見せています。
創元・ハヤカワのキャラノベ化
今年、ライト文芸に特に力を入れているのは創元と早川です。
両方とも黎明期からミステリフロンティアやJコレクションで米澤穂信や桜庭一樹らの発掘をしてきた功績がありますが、昨年〜今年にかけて、江波光則・紅玉いづき・久住四季・円居挽・多崎礼・乙野四方字などマニア人気の高いラノベ作家の作品を数多く出すようになっています。
東京創元社は「市立高校シリーズ」のリニューアルのほか、ラノベ作家出世の名門ミスフロから紅玉いづき『現代詩人探偵』、文庫書き下ろしで円居挽『日曜は憧れの国』、新野剛志『僕の探偵』、吉野泉『放課後スプリングトレイン』などのキャラノベを毎月ペースで刊行。加えて、創元ファンタジー新人賞が始動し、第1回受賞作の『玉妖綺譚』、ラノベ的な設定が論争を呼んだ『魔導の系譜』が登場。
ハヤカワ文庫からは、百合終末SFとして話題になったツカサ『ノノノ・ワールドエンド』、キャラノベシリーズとして人気を博している多崎礼『血と霧』と乙野四方字『君を愛したひとりの僕へ』、地本草子の近未来歴史ifもの『子どもたちは狼のように吠える』など、こちらもハヤカワラノベ枠としてコンスタントな刊行が確立されました。
特徴すべきは文庫書き下ろしの急増で、ラノベ作家の受け皿がこれまでのミスフロ・Jコレから文庫に移動していることを実感できるでしょう。
米澤穂信・桜庭一樹・冲方丁らを育成した実績のある2社は、キャラノベ黎明期から携わっているいわば古参で、パワーのある作品が期待できます。今後は、カミツキレイニー(早川)、河野裕・有間カオル(創元)の登場が予定されています。
第二のハヤカワ文庫
『ハムレット・シンドローム』『筺底のエルピス』などSF作家を起用した新作や、『王子降臨』『密葬』『人類は衰退しました』『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』などSFマニアからも評価されたラノベSFが数多く出ていましたが、今年はエルピスの好評や、ハンティングサバイバルSF『偽る神のスナイパー』、カゲプロのしづをイラストに起用した『ふあゆ』、そして長谷敏司ラノベ凱旋作となったロボ×スポ根×タッチの『ストライクフォール』が登場。「第2のハヤカワJA」と呼ばれるくらいの充実を見せています。
SFが弱いとされるキャラノベレーベルからは、歴史改変SFの『刑事と怪物 ―ヴィクトリア朝臓器奇譚―』、入間人間のタイムリープ剣豪もの『デッドエンド 死に戻りの剣客』、『帝都物語』伊藤計劃版というべき『磁極告解録』、現代化されたファンタジー世界での移民問題を取り上げたポリティカルサスペンス『個人と国家 人魔調停局捜査File.02』、ネット炎上を取り上げた秋田禎信最大の賛否両論作『ハルコナ』など意欲的な作品が登場。
毎月ライトノベル作家を起用した新作を出すハヤカワ文庫JAからは、百合SFとして話題となった『ノノノ・ワールドエンド』、多崎礼のハヤカワ行き第一作『血と霧』、『路地裏テアトロ』の作者による青春ノワール『子どもたちは狼のように吠える』、『ラテラル』の作者の初越境作『君を愛したひとりの僕へ』が刊行され、毎月コンスタントに刊行されるハヤカワラノベ枠が確立されました。
今年最大のトピックとなりそうなのは、『横浜駅SF』の書籍化です。
「日本全土が横浜駅に覆いつくされる」という衝撃的な内容と作りこまれた世界観が話題を呼び、ニンジャスレイヤーと同じようなバズり方をして注目されましたが、このたび満を持しての書籍化。書籍化決定時にはtwitterのトレンドにもあがるなど注目度の高い作品です。
マニア向けラノベ
なろう・キャラノベ以外の大人向けのライトノベルは手薄な状態が続いています。
マニア向け作品は「マニアは自力で検索して発掘するため専用レーベルを作ってもあまり意味がない」「そもそも市場として脆弱」であるというような理由から、あちこちのレーベルに散在しているような状況になっています。
クラシックなノベルスへの復古をうたったミューノベルスは『ザ・サード』『ダンシィング・ウィズ・ザ・デビルス』、『昭和な街角 火浦功作品集』などnex同様復刊地獄に陥っており、新作はなかなか出ていません。
大人向けラノベをかかげるKADOKAWAのノベルゼロはMF文庫作家の大量起用、『MONSTERDAYS』の移籍などMFアペンドラインの派生レーベルです。法廷ものの『無法の弁護人』が看板タイトルに落ち着いた模様で、この他にも『モーテ』作者の新作『食せよ我が心と異形は言う』、ファミ通文庫との連動企画が打たれた『魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録』など新作が登場。
ここに来てマニアックな作品を多数発表するようになったガガガ文庫は、バニーガールVS巫女VSチャイナVSカウガールという凄まじいファイトを描いて夢枕獏が帯文を寄せた『ボーパルバニー』、マニア向けといわれながらも順調にシリーズを重ねる『函底のエルピス』、なぜガガガ文庫から出たのかわからない『初恋芸人』、SF×ロボット×ガルパン×タッチの『ストライクフォール』、中世ファンタジー版甲賀忍法帖と呼ばれる 『魔法医師の診療記録』 などを刊行。
この他通好みのライトノベルは、新刊が「マッドマックスFR」「シン・ゴジラ」並みに大絶賛され賞レース参戦が確実視される『りゅうおうのおしごと』、「最近のラノベの横っ面を張り倒す」という2巻のキャッチコピーが論争を呼んだ『血翼王亡命譚』、打ち切りが決定しマニアに衝撃を与えた『この恋と、その未来。』、なろう書籍化ながら紅玉いづきのような作風でマニアから支持された『図書館ドラゴンは火を吹かない』など。
今年の新たな潮流になりそうなのが、マニアの間でカルト的人気を誇るカルトラノベのアニメ化です。
衝撃的な展開から一気に火が付いた『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』とマニアの支持で打ち切りが回避された『終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?』のカルトラノベのアニメ化が決定しました。マニア向けライトノベルのアニメ化が定着するか否かはこの2作の成否にかかっているでしょう。
廃刊レーベル
キャラノベ華やかなりし陰で今年廃刊されたレーベルもあります。
シリーズ移籍や編集部消滅から廃刊の噂が流れていた講談社BOXは、ゆずはらとしゆき氏が「実質的に廃刊した」と宣言。文庫落ちがスタートしており、解体が始まっているものとみられます。
キャラノベレーベルとして新設された朝日エアロ文庫は2月の『神神神は罪に三度愛される』から音沙汰なく、その後キャラノベ系作品が朝日文庫から出ているため統廃合されたものだと思われます。
このラノ文庫も音沙汰ない状態が続いており、自社ライト文芸がこのラノ文庫ではなく宝島社文庫から落ちるため、ライト文芸単行本と宝島社文庫に分散されたものと推定されます。
下半期は……
・電撃文庫とメディアワークス文庫の境界があいまいに
『ただそれ』『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』などメディアワークス文庫的作品が電撃文庫から出るようになった。ライトミステリ・イケメンスポ根といったキャラノベの主流ジャンルがライトノベルへと入りこむ流れ。
・注目作
『サクラダリセット』のリバイバル
ハルチカ・オーフェンとのクロスオーバータイトルが収録される『VSこち亀』
朝日エアロ文庫、このラノ文庫などキャラノベレーベルの統廃合によってこれまで増殖してきたレーベルが整理されるのではないか。
講談社(BOX・ノベルス・タイガ)・集英社(オレンジ文庫・集英社文庫)はキャラノベを複数ラインで出しておりレーベル移動など混乱しているので何らかの統合はある可能性が高い。
一迅社大賞のキャラノベ受賞は勢いでのものではないはず。新潮社がnex創設前に『悠木まどか』を出したように、先行試験的な意味合いがある。
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