先日の自動運転事故により、嫌な形で知名度が上がってしまったテスラだが、現状、テスラ車の魅力は自動運転機能にあるわけではない。自動運転機能がなくとも、テスラ車は素晴らしい車だ。このことを意外と知らない人が多いので、熱弁したい。
僕の友人に、テスラのモデルSに乗っている人がいる。何度か一緒にドライブに行き、自分で運転させてもらったこともある。テスラ車に初めて乗ったとき、その完成度の高さと先進感に心底驚いた。新しい形の車に、心が躍った。これほど乗る人の心を躍らせてくれる車を、ぼくは他に見たことがない。はじめてiPhoneを手にしたときと同じような、いやそれ以上の感動があった。
そして、何より、これほどの車を10年あまりで開発し、量販にまで漕ぎ着けたことは衝撃的だ。約80年の歴史があるトヨタと、たった10年で戦えるようになったのだ。スゴさでいえば、ラグビー日本代表が南アフリカ代表に勝利したことに並ぶ。いや、それ以上か。ワールドカップに初出場したインド代表が、気づいたら優勝してしまうようなものだ。
今回は、テスラ車のスゴさについてひたすら書きたい。
テスラ車のスゴさ
1. キーがオシャレ
テスラのキーは、ミニチュアカーのような形をしている。はじめて手に取ると少し戸惑うか、これには物凄く直感的で分かりやすい仕掛けがある。というのも、ミニチュアカーに仕込まれたスイッチの場所と、実際の車で開閉する部分が一致しているのだ。
トランクに荷物を入れたければ、ミニチュアカーのトランクに当たるリヤ部分を軽く押し込む。すると、バックドアが自動で開く(ちなみに、閉めるときにはバックドアについているスイッチを押す)。
同様に、ミニチュアカーのボンネットに当たる部分を軽く押し込めば、実際にボンネットのロックが解除される。テスラ車ではボンネットもラゲージスペースになっている。これは、EVのテスラ車には、ガソリン車と違いエンジンというバカデカイ機械がないためだ(巨大なリチウムイオンバッテリーはフロア下に薄く敷かれている)。
2. 車に近づくと自動でロック解除・ 離れれば自動でロックされる
とはいえ、大抵のシーンではキーを取り出す必要はない。カバンやポケットにキーを入れて車に近づけば、それを感知してロックは自動解除される。逆に、車から降りたときもキーを取り出す必要も、ドアノブをタッチする必要もない。車から離れれば、自動でロックされる。
3. ドアノブは必要なときだけ出てくる
ちなみに、ドアノブは乗り込むときを除き、ドアに収納されている。乗り込もうと車に近づいたときにだけ、ドアノブがスライドして出てくるのだ(下画像参照)。空気抵抗を下げるための仕様らしいが、何とも未来感がある。
4. エンジンをかける必要なし
車に乗り込めば、すでに走る準備は完了している。エンジンをかける必要はなく、シフトを「パーキング」から「ドライブ」に入れるだけだ。シフトレバーはコラム式でハンドルの裏にある。そのため、運転席と助手席の間の空間がかなり広い。
5. 17インチ・タッチスクリーン
テスラ車に最も先進感を与えている装備は、17インチのタッチスクリーンだ。このスクリーンで、ナビゲーションから、エアコンの設定、音楽の設定、サンルーフの開閉、サスペンションの高さの設定までできる。
テスラ車に乗ったことがある人は分かると思うが、この17インチタッチスクリーンは想像以上に大きい(iPad Proでさえ12.9インチなのだ)。操作性はスマートフォンやタブレットに似て直感的で使いやすい。地図はグーグルマップだ。某メーカーのナビよりよっぽど正確で使いやすい。そのあたりのカーナビのようにSDカードを抜き、PCに接続し、面倒な会員登録と支払い手続きをして、地図ソフトをアップデートをする必要はない。常に最新の地図にアクセスできる。その上、グーグルマップの精度は日々向上している。ステアリングスイッチ(ハンドルのボタン)を使えば目的地の音声入力もできる。
ではなぜグーグルマップを使い、音声認識までできるのか。それはテスラの車は常にインターネットに接続されているからだ。インターネットに接続できるということは、車の可能性を倍増させる。ファームアップデートにより自動運転機能を設定することもできるし、その精度を上げることもできる。ディスプレイに新しい機能を加えることもできるだろう。もちろん、インターネットへの接続料金はすべてテスラ持ち。顧客にとって、面倒なお金の取り方はしない。このあたりもクールなのである。
ちなみに、先日発表されたトヨタの新型プリウスPHVはこの大型ディスプレイを後追いしたようだ。
6. インフォメーションディスプレイも先進的
ステアリング奥にあるインフォメーションディスプレイも先進的だ。簡易なナビゲーションや、現在かかっている音楽の情報が映し出される。また、上写真の中央に表示されているのは、周辺の道路状況だ。カメラにより周囲の車との位置関係を読み取り「正面にはトラックが止まっていて、斜め前にはバイクが止まっている…」というようなことをディスプレイが教えてくれるのだ(前に止まっているのがトラックなら、トラックの形で映し出される)。
自分の目で見れば良いじゃないかって?それを言ってはいけない。未来感があるじゃないか。
7. 加速力が異常
テスラが他の電気自動車と決定的に異なる点は、モーターの性能である。それはもう恐ろしいほどの加速力がある。その加速力たるや、スーパーカー並である。とくに0→100km/hの加速は常軌を逸している。これについては説明するより、動画を見たほうが手っ取り早いかもしれない。「電気自動車=走りは大人しい」というイメージを覆し、車好きまでをも満足させる性能を実現したことは、すでにテスラが成し遂げた大きな功績だろう。
(ポルシェの最高峰モデル911との比較。加速が早いほうがテスラModel S)
8. スマホアプリは便利な機能のみ
歴史の長い大手自動車メーカーが「車と連携するスマホアプリ」を開発したと聞けば、きっと無駄な機能ばかりついて使いものにならないんだろうと想像できる。デザインもユーザービリティーもイマイチで、AppStoreでは☆1〜2.2くらいの酷評をされている画がはっきりと思い浮かぶのだ。自動車メーカーとも言い切れない柔軟性のあるテスラのアプリは、やはりクオリティーが高い。ユーザーのニーズを捉えており、本当に使える機能に限定されている。
①充電状況確認
たとえばショッピングモールで充電をしているとして、駐車場で充電完了を無駄に待ちたくない。ショッピングや食事をして、満足に充電された頃に駐車場に戻りたい。長い充電時間が必要なEVにとって、この機能は必須だ。
②GPSロケーション機能
広い駐車場に止めれば車をどこに停めたか忘れてしまうことはある。街中のコインパーキングに停めても同様だ。普段は使わないかもしれないが、ときに物凄く有難い機能だろう。
③リモート空調スタート
夏の日、炎天下で車に乗り込む苦痛は言うまでもない。逆に冬の日はいち早く車の暖房で温まりたい。車に乗り込む5分前にクーラーやヒーターを付けるリモート空調スタートは、一度でも使うと手放せない機能だ。
④Summon(召喚)機能
駐車場から自動出庫し、自分の元まで呼び寄せる機能。普段あまり使うことはないかもしれないが、自慢にはなる。
8. 先進装備が多数
先進装備も充実している。
- 正面および側面衝突回避システム ⇨ 自動ブレーキ
- 死角警報 ⇨ 斜め後方の死角エリアに車が入ったとき、画面上で教えてくれる
- 車線逸脱警報 ⇨ 車線をはみ出したとき音声で知らせる
- パーキング センサー ⇨ 障害物に近づくと警報を出す
- 雨滴感知式オートワイパー ⇨ 雨が降り出すと、自動でワイパーONになる
- HDバックアップカメラ ⇨ 高画質のバックカメラ
- シートヒーター ⇨ 冬に重宝する
- 音声コントロール ⇨ 運転しながら声で様々な操作ができる。
- サンルーフ⇨大きい!
中でもパノラミックサンルーフは大きく、開放感を感じさせてくれる。開けたときはもちろん、閉じている状態でも光を通すため日中だと室内は非常に明るい。
9. 自動運転機能
テスラ車は、システムのファームアップデートにより自動運転(オートパイロット)が利用できる。ただし、テスラの自動運転はまだレベル2で、ドライバーは常に運転状況を監視操作しなければならない。テスラの自動運転により死亡事故が起きたのは記憶に新しい。まだ、自動運転で高速走行するには早かったことはテスラも認めざるを得ないだろう。完全にドライバーが不要となる自動運転にはもう少し待つ必要がある。ただし、現状の自動運転機能でも、高速道路での渋滞時なんかには十分使える。
10. 廉価モデル Model3が2017年〜発売される
ラグジュアリー商品として少数台数で大きな収益を上げ、徐々にターゲットを大衆向けボリュームゾーンに移行していくのがテスラの戦略だ。現在発売されているセダンタイプのモデルSの価格レンジは850万円〜、モデルXは1,000万円を優に超える。
多くの人にとっては「手の届かない車」だったのが現実だ。そして、ついに2017年より廉価モデル「Model 3」が発売させる。価格レンジは350万円〜。随分と手が届きやすくなる。そして廉価モデルと言ってもそれなりの装備をつけて、それなりのクオリティーで仕上げてくるに違いない。
繰り返しになるが、テスラの何よりの凄さは、これほどクオリティーの高い車をたった10年で作り上げたことだ(3〜4年前から次の車を企画するような息が長い車づくりにおいて、10年というのは驚くべき数字だ)。そして、数十年間新規参入を許さなかった自動車業界に、テスラは間違いなく新しい風を吹き込んだ。ここから自動車業界は変わる。EVの時代が来て、価格破壊が起こる。その立役者はテスラだったと振り返る日が来るだろう。