細胞から肉を作る?!バイオの技術はここまで進んだ!しかしなぜ人工的に肉を作る必要があるのでしょうか?
食肉と健康
世界中で日々大量に食されている肉。
日本でも牛、豚、鳥が一般的に食されているが、世界ではさらにうさぎ、羊、山羊など実に多種類の動物が家畜化されて、食卓へ乗るようになった。
もちろん地域的背景や文化的背景から肉を食さない人もいるが、だいたいの地域において経済が発展するにおいて、その食肉消費量が増加する傾向にある。
近年では健康志向が高まり、野菜や魚介類が注目を浴びている反面、肉は健康に良くないと考える風潮もあるが、実はそうではない。
肉自体はは人間の身体を構成する主要成分であるタンパク質を豊富に含んでおり、また鉄などの無機質やビタミンなどを摂取するのに優れた食品である。
ただ問題点は食肉に含まれる脂肪だ。
脂肪は一種のおいしさを提供することから、家畜をより太らせ、脂肪を多く含んだ霜降りなどの肉が好まれ、肥満などの生活習慣病を引き起こすことがある。
家畜生産のコストと環境問題
食肉を生産するには、もちろん動物を育てるためのコストがかかる。
よく食糧問題で取り上げられるのは、牛肉1 kgを生産するのに11 kgの餌を、豚では7 kg、鳥では3 kg必要となり、肉食を止める、もしくは減らせば、その穀物で多くの人を食糧状態を改善できるという論述だ。
さらには水の問題。
家畜を育てるための水とその餌となる穀物の水を合わせると、およそ1000トンの水が必要となるという。
日本では水は簡単に手に入るが、そうではない地域も世界中にはたくさんある。
水は命の根源であり、たった3日で死んでしまうということを考えると、いかに重要かわかるだろう。
もう一つ、食肉生産は環境問題にも関与している。
温室効果ガスの一種であるメタンの37%は家畜から排出されているという報告もあり、地球温暖化を促進しているというのだ。
問題解決の次の一手!人工肉!
こういう状況は世界中で語られているが、では多くの人の命を救うため、地球を守るために肉食を止めろと言われて、どれくらいの人が実行に移すだろう。
現実的に世界中でこのようなことが叫ばれているが、依然として食肉の消費量は減っていない。むしろ増えているのだ。
最初に述べたように、肉というのはヒトにとって有用な食物であり、太古の昔から食されてきた歴史がる。
そう簡単に食卓から肉を全て取り除くことは不可能だろう。
だが、そんな状況を顧みて、何人もの研究者が立ち上がり、全ての問題を解決する方法として、人工肉のプロジェクトが世界中で立ち上がっている。
その中の一つで日本で行なわれているプロジェクトがShojinmeat Projectだ。
人工肉とは?
ヒトに限らず動物はたくさんの細胞からできている。
組織それぞれにおいて、異なる細胞が集まり、互いに協調しあって、その機能を発揮している。
食肉となる筋肉も例外ではない。
筋肉細胞が集まり、電気刺激によって伸び縮みする機能がある細胞の塊、それが筋肉だ。
バイオテクノロジーの発達により、組織から採取した細胞一つから、大量の細胞へ増やす培養技術が確立され、医療や研究で用いられている。
この培養技術により筋肉細胞を培養し、食肉として提供されるのが人工肉である。
現状と課題
組織を培養する際、その組織の細胞にあった条件で培養する必要がある。
現在のところ全ての細胞が培養できるわけではないが、筋肉細胞においてはその培養技術は確立されている。
だがあくまでも研究でも用いるごく少量の細胞においてのみである。
通常の細胞培養では、シャーレを用いるが、細胞はシャーレの底に一層のみ増殖し、高さ方向に増えることはない。
いくら培養技術が確立されていると言っても、それは「食肉用」の培養技術ではないのだ。
またその筋肉細胞を育てるための環境である培養液も、工業レベルでは高価すぎて、コストの採算が合わない。
現在の技術では、200 gの食肉を作るのに、1000万円以上かかってしまう。
”コスト”それが一番の課題なのだ。
Shojinmeat Project
そこで日本の人工肉プロジェクトであるShojinmeat Projectでは、この人工肉のコストを下げ、食肉として提供出来るレベルまでしたいと考えている。
その一つの方法が、培養液のコストダウンである。
現在では高価な試薬を使わなければいけない培養液を低価格なものに置き換えることでコストダウンを図る。
もう一つが三次元で培養することだ。
現在、シャーレで一層でしか培養できない筋肉細胞が高さ方向にも培養できれば、高効率な培養をすることができる。
どちらの技術にも目処は立っており、特許化へと動いていることから、人工肉は夢の技術ではなく、現実の技術へと着実に進んでいる。
人工肉が切り開く未来
筋肉細胞の”食用”への培養技術が確立され、みなさんの食卓に並んだら、どんな未来が待っているだろうか?
もちろん先に述べた食糧問題、水問題、環境問題に対して、大きな貢献をすることだろう。
だが食べるからには、やはり美味しい方がいいに決まっている。
肉のおいしさは筋肉と脂肪の割合で決まり、人工肉であればこの比率は自由自在だ。
個人個人の好みにあった肉を作り出すことも可能であろう。
さらには脂肪の割合を変えれるということであれば、おいしさを追求した肉と低脂肪分肉なんて分類までされるかもしれない。
そして培養できるとなれば、宇宙開発にも役立つ。
例えば火星に移住できる宇宙船が開発された際、牛2頭を連れていかなくとも、培養液とシャーレ、そしてたった一つの筋肉細胞を持っていけば、稼いでバーベキューを楽しむことができるかもしれない。
協力者を募集中!
そんな未来を作り出そうとしているShojinmeat Projectでは、協力者を募っている。
バイオ研究者として人工肉培養の技術に興味がある人だけでなく、知的財産やビジネスとして協力できる人、イラストレーターやアーティストとして、この人工肉プロジェクトを広めたい人、さらには情報収集や海外の情報の翻訳で少しだけお手伝いするなんて人も参加可能なようだ。
本拠地は東京都文京区本郷の東京大学本郷キャンパス近くにあるとのことだ。
もし興味がある人は是非ともコンタクトを取ってみてはいかがだろうか?
人工肉の薄い本がコミケに現る?!
世界に人工肉を広めるため、宣伝も欠かせない。
一体どういうものなのか?本当に食べられるのか?興味がある人もいるだろう。
実際にこのShojinmeat Projectに関与している人が個人活動として、2016年8月12日〜14日に東京ビッグサイトで行われるコミックマーケット90で人工肉の薄い本で宣伝を行うとのことだ。
タイトルは「人工肉を作って食べてみた本」。
まだ世界でも人工肉を食べた人はごくわずかなので、貴重な意見が得られることだろう。
この本が購入できるのは、コミケ3日目、場所は「e08b」でハニュー氏の「VRミク」のサークルで同時に販売される。
詳細は「Cプログラミングを落とした理系がScience CG制作してみた!」のサイトで確認することが可能だ。
是非ブースに行って、人工肉とはいかなるものかを感じてきてもらいたい。
前々から興味があった人工肉。TwitterでShojinmeat Projectに関わり合いのある人と巡り合えたので、記事にしてみました。バイオの研究がこうやって広まり、みなさんの日々の生活を豊かにする、そんなプロジェクトをこうやって紹介して少しでも力になれれば、SIGを運営している私としても本望だなぁと思います。大きな可能性を秘めている人工肉。さらなる研究の発展と産業化に向けて加速し、1日も早く実現することを願っております!