米大統領選候補の指名受諾演説に臨んだクリントン氏は、純白の衣装で登場した。今の米国を暗黒のように語るトランプ氏との対比を狙ったのだろう。選挙は明と暗の対立構図が出来上がった。
クリントン氏は演説で「われわれは世界で最も活力にあふれ、多様性にも富む国民だ」と指摘した。
トランプ氏が不法移民対策に「壁」の建設を主張するのに対し、クリントン氏は「われわれは壁を築かない。米国経済に貢献している数百万の移民に市民権を付与する道を開く」と述べ、開かれた米国を堅持する姿勢を見せた。
トランプ氏は共和党大会での指名受諾演説で、米国の治安悪化と国際社会での地位低下を強調し、ことさらに暗い米国像を描いてみせた。
一方、クリントン氏は明るい展望を提示し、対立軸に据えた。民主党が採択した政策綱領は、日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)などとの同盟重視の方針を打ち出し、これもトランプ氏とは正反対だ。
その政策綱領は大統領選を「民主党か共和党かという選択を超えて、われわれはどんな国で、将来はどういう国になるのかを問う選挙だ」と意義付けた。
トランプ氏が目指す排他的で孤立する米国に変わるのか、それともクリントン氏が唱える多様で開放的な米国であり続けるのか−。民主党は国の在り方を選挙テーマに設定したようだ。実際、米国は岐路に立っている。
クリントン氏が選挙戦を勝ち抜くには、課題が多い。その一つが「信頼性」だ。最新のCNNテレビの世論調査では、クリントン氏を「信用できない」と見る人は68%に上った。
国務長官時代のメール問題に加え、ワシントン政治に精通した経歴が、有権者に「いかがわしさ」を感じさせる。
英国の欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票では、政治エリートへの反感があらわになった。トランプ氏もクリントン氏は既成政治家の象徴だと攻撃する。
女性の進出を阻む見えない障壁を指す「ガラスの天井」。クリントン氏が最も高い所にあるそれを打ち破り、初の女性大統領になるのか。逆に、トランプ氏の持つ破壊力の前に屈するのか−。
超大国の動向は国際社会に計り知れない影響を及ぼす。米国民もその点をよく認識して、国のありようを選択してほしい。
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