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【社説】

日銀追加緩和 通貨の番人はどこへ

 日銀は上場投資信託(ETF)の購入額拡大という小粒な追加緩和を決めた。政府の期待には応えたが、金融政策の手詰まり感を露呈し、中央銀行としての信認も一段と失うことにはならないか。

 政府がまとめた経済対策に合わせるよう、あからさまな緩和圧力が強まり、市場からは緩和しなければ失望売りを浴びせる「催促相場」の圧力。かといって緩和手段は限界論も出るほど乏しい−。

 追い込まれた日銀が「ギリギリ最低限の緩和」を決めたのは、こんな事情だろう。しかし、今回の決定は重い問題をはらんでいる。

 政府は参院選を受け「アベノミクスのエンジンを最大限ふかす」と宣言し、二十八兆円規模の経済対策を近く発表する。だが経済界には追加の金融緩和も含め、一時的な景気浮揚のための対策が今、必要なのか疑問視する声が強い。

 英国の欧州連合(EU)離脱の影響が大きな理由とされるが、震源の英国のイングランド銀行や欧州中央銀行(ECB)は金融政策を現状維持とし、米国も同様だ。動いたのは日銀だけなのである。

 国債を年間八十兆円と大量に買い入れる緩和策は事実上、政府へ直接資金を供与する財政ファイナンスとの批判が根強い。この「政府への従属化」は、黒田東彦総裁以下、政策決定会合の出席者が政府の意向に沿った人事で固められていることからも顕著であり、中央銀行の使命である「通貨の番人」として最も重要な政府からの独立性は無きに等しい。

 今回決めた株価指数に連動する上場投資信託の買い入れ額を年間六兆円に倍増する緩和策については、日銀がリスク資産を一段と買い進めることの是非に加え、市場の価格形成を左右する恐れもある。中央銀行の健全性を損ないかねない手段を取らざるを得なかったのは、裏を返せば金融緩和策の限界論を証明するのである。

 この日発表された六月の消費者物価指数は、前年同月比で0・5%下落と、「黒田緩和」が始まる前の二〇一三年三月以来のマイナス幅になった。つまり、この三年間強、異次元緩和を続けても物価目標が達成できないどころか達成時期も見通せないままだ。やるべきは「ふかす」ことではなく、異次元緩和がなぜ効かなかったのかを分析し、見直すことだ。

 黒田総裁も九月の次回会合で物価動向や政策効果の総括的な検証を行うとしたが、大事なのはアベノミクスと決別することである。

 

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