神々へ祈り唱え
85年ぶりに故郷の大地に横たえられた12のひつぎ。一つ一つにアイヌの衣装や料理が供えられ、土で覆われていく。唯一身元が分かる遺骨の主の親類で遺骨返還訴訟原告の小川隆吉さん(80)は「言葉にできない。やっと、やっと……」と声を詰まらせた。
北海道浦河町杵臼で行われた再埋葬。多くのアイヌをはじめ、遺骨返還に尽力した関係者や研究者らが集まった。
3日間にわたる儀式は、アイヌプリ(アイヌの民俗風習)で行われた。ただ再埋葬はアイヌの歴史上初めてのこと。アイヌプリの葬儀は、2002年に亡くなったアイヌ文化伝承者、葛野辰次郎エカシ(古老)が最後だ。今回は辰次郎エカシの次男次雄さん(62)が祭主を務め、アイヌ文化復興と継承に挑んだ。
次雄さんは「『再埋葬』を意味するアイヌ語はなく、カムイノミ(神々への祈り)で唱える祈り言葉に苦慮した」と話す。
浦河町立郷土博物館をはじめ道内各地から資料を取り寄せた。墓標の製作では、記録映像のフィルムを拡大して地域ごとに異なる形やひもの結び方を研究、旭川の森林で選んだエンジュを材料に使った。次雄さんの次男大喜さん(18)も儀式に参加し「アイヌ民族の権利を北海道大や日本に示し、引き継いでいくことが自分たちの義務だと思う」と表情を引き締めた。
終了後、次雄さんは「天界の神さんが受け取ってくれたかな」とつぶやいた。カムイが地上に降りる際に姿を変えるという雨が、ぱらぱらと降り注いでいた。【三股智子】