群馬大病院(前橋市)で同一医師の肝臓手術を受けた患者が相次いで死亡した問題で、同病院の医療事故調査委員会(上田裕一委員長)が30日、同大で記者会見した。この医師はほぼ一人で手術の実施判断や治療に携わり、複数の医師らが出席する症例検討会に参加しないこともあった。心臓外科医でもある上田委員長は「外科医一人の手術がうまくいけば全部がうまくいくわけではない。組織運営に問題があった」と総括した。
調査委は、問題の医師が関わった18例の死亡事例を検証。死亡原因を分析し、改善策を盛り込んだ報告書をまとめ、同大の平塚浩士学長に同日提出した。
報告書では、2009年度の1年間に、この医師が手術を担当した計8人が死亡していたことなどから、「体制を振り返って対応をとっていれば、その後の死亡を防げた可能性があった」と指摘。患者への説明も情報提供が不十分だったとし、改善策として、医師の説明を理解できたか患者がチェックする用紙の導入や、患者がカルテを閲覧できる仕組みの整備を提言した。
この医師は10年から腹腔(ふくくう)鏡を使った難易度の高い手術を始めたが、専門的な知識や技術を持つ内視鏡認定医がかかわったのは、最初の2例のみ。上司の教授は腹腔鏡手術の経験がなく、肝臓手術の経験も多くなかった。別の医師から手術中止の進言もあった中、8人が死亡した。
肝胆膵(すい)(肝臓、胆道、膵臓)手術が専門の具英成(ぐ・えいせい)神戸大教授は「高難度の手術を担える技量のない教授が、部下を適切に指導監督することは難しい。こうした人を責任者にしたことが問題の始まりとも言える」と指摘した。【野田武】