腹くう鏡手術で死亡 適切な対応取れば続発防げた可能性

腹くう鏡手術で死亡 適切な対応取れば続発防げた可能性
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群馬大学附属病院で男性医師による腹くう鏡などの手術を受けた患者18人が、術後、相次いで死亡した問題で、大学の調査委員会が会見し、男性医師による手術で患者の死亡が集中した時期に適切な対応を取っていれば、その後の死亡例の続発を防げた可能性があったと述べたうえで「先進的な医療を実施するための仕組みや機能が不十分だったにもかかわらず、手術数を拡大させた結果、死亡例の続発に対応できなかった」などと指摘しました。
群馬大学附属病院では、平成22年度からの4年間に男性医師による腹くう鏡を使った手術で患者8人が、また開腹手術で患者10人の合わせて18人が、術後、相次いで死亡したことを受け、大学の調査委員会が詳しい調査を進めてきました。
30日、会見した大学の調査委員会は、腹くう鏡の手術を始める1年前にこの男性医師の手術を受けた患者が相次いで死亡しており、この時期に適切な対応を取っていれば、開腹や腹くう鏡の手術でのその後の死亡例の続発は防げた可能性があったと指摘しました。
また、腹くう鏡を使う新たな手術を導入する際に、技術認定を受けた医師がサポート役として手術に深く関わったのは最初の2例のみだったということで、調査委員会は指導体制などが十分であれば、初期の死亡例を避ける事が出来た可能性があったとも指摘しました。
さらに、病院内には当時、第一外科と第二外科の2つの外科が存在していて、かぎられた医療資源が分散して患者の安全が損なわれやすくなったり、診療の質が低下したりするなどの弊害が起きやすかったのに長年改善されず、それが18人の患者の死亡と発覚の遅れにつながった背景になっていると指摘しました。そのうえで、「重大な事故の報告体制に課題があるなど、先進的な医療を実施するための仕組みや機能が不十分だったにもかかわらず、手術数を拡大させた結果、死亡例の続発に対応できなかった」と指摘し、1つの病院の中に専門性が同じ2つの外科が存在したり、手術に参加していない教授が参加したことになっていたりするなど、問題の背景には患者中心の医療とは大きくかい離した、診療のしきたりがあったと述べました。また今後、事故の教訓を風化させないための取り組みを少なくとも10年間は続ける必要があるとしたうえで、改革の進捗(しんちょく)状況を遺族に報告することなどを提言しました。

遺族「真実を説明してほしい」

調査委員会の報告を受け、遺族らも会見し、男性医師に「真実を説明してほしい」と改めて訴えました。
このうち、肝臓の腹くう鏡手術で80代の父親を亡くした男性は「信用して手術を受けたので裏切られた気持ちだ。病院に対する怒りもあるが、このような事が2度と起きないような体制を作ってほしい」と述べました。
また、すい臓の開腹手術で20代の妹を亡くした男性は「男性医師には本当の真実を説明してほしい」と訴えました。
一方、弁護団の梶浦明裕弁護士は、男性医師個人の責任が明確にされていないなどと指摘したうえで、男性医師とその上司に対し、遺族に直接説明するよう改めて求めていく考えを示しました。

弁護団 刑事告訴を検討

群馬大学の調査委員会の会見を受け30日、遺族の弁護団は午後5時半から会見しました。この中で弁護団は今後の対応について、遺族への直接の説明や、組織や医師個人などの責任を明確化することなどを求めるとしたうえで、刑事告訴も検討する考えを示しました。
また、大学の調査委員会が報告書の中で提言した、再発防止策についていつごろまでに行うのかロードマップを作成するよう求めました。

防ぐ機会は2度あったと指摘

死亡例が続くのをどこかで止めることはできなかったのでしょうか。大学の医療事故調査委員会はその機会が2度あったと指摘しています。

1度目は、腹くう鏡を使った手術を導入する前の平成21年度ごろです。この時期、8人の患者が男性医師の手術を受け術後、死亡していました。
担当教授のアドバイスによって一定期間、手術が休止されたものの、その後、手術や指導の体制が特別改善されないまま、手術は再開されたということです。
調査委員会は、この時期に適切な報告や対応を取っていれば、その後の開腹手術や腹くう鏡の手術で死亡例の続発を防ぐことができた可能性があるとしました。

そして2度目は、腹くう鏡による手術を導入した平成22年度ごろです。調査委員会が腹くう鏡手術の死亡率の推移を分析した結果、1例目から3例目までは66.7%、10例目までは30%、40例目までは15%などと手術を重ねるごとに死亡率が下がっていることが分かりました。
これは、”ラーニングカーブ”と呼ばれる現象で、指導体制や管理体制が不十分な状態で新規の手術を導入すると起きるとされています。
腹くう鏡の手術を始めるにあたって、技術認定を受けた医師がサポート役として手術に深く関わったのは最初の2例のみで、調査委員会は指導体制などが十分であれば初期の死亡例を避ける事ができた可能性があると指摘しました。
病院のほかの医師からは、男性医師の上司に当たる教授に対し、「死亡例も出ており、危険なので中止させたほうがよい」と指摘する声もあったということですが、その後も手術は継続されていて、調査委員会では教授が指摘を受け入れず、真摯(しんし)に検討しなかったことは問題だったとしています。