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ソニーさえ撤退に追い込んだ電池事業の苦境

東洋経済オンライン 7月30日(土)6時0分配信

 世界で初めてソニーが実用化に成功してから四半世紀。リチウムイオン電池は軽くて高電圧・高容量という特長から、スマートフォンやノートパソコン、デジタルカメラなど幅広い機器に使われてきた。今後も電気自動車の普及に伴い拡大が期待されている。

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 しかし、その生みの親は市場からの撤退を選んだ。7月28日、ソニーは電池事業の譲渡に関し、電子部品大手の村田製作所と協議中であると発表したのだ。譲渡価格など条件交渉を経て、2017年3月末の取引完了を目指すという。

■ 6期連続の赤字を計上

 譲渡の対象となるのは福島や栃木、シンガポール、中国などの拠点とそこで働く計8500人の従業員。ソニーの電池事業の売上高は約1600億円(2015年度)だが、家庭用アルカリ電池などのBtoCビジネスは続けるため、うち1300億円弱が切り離される見込みだ。

 近年は主力のスマートフォン向け電池が米アップルなど大手メーカーからの受注を得られず苦戦したことに加え、自社スマホ「Xperia」やウォークマン向けも販売台数の減少に伴い出荷が減ったことが、同事業の業績悪化に拍車をかけた。2015年度は170億円の営業損失を計上し、6期連続の赤字となった。

 7月29日に行われたソニーの2016年度第1四半期決算会見で吉田憲一郎CFOは「電池の容量や充電速度といった機能面で課題があり、(大手スマホメーカーからの)採用に至らなかった。課題解決には技術のある村田製作所に譲渡するのが最善だと判断した」と譲渡の理由を説明した。

 一方の村田製作所は、これまでリチウムイオン電池の開発を行っており、「製品の評価は高かったが、実績がない点が厳しかった」(竹村善人上席執行役)という。そのため、ソニーの電池事業を足掛かりに事業を拡大したい考えだ。

 今後は世界シェア首位を誇るコンデンサー(蓄電や放電をする電子部品)や高周波フィルターの販路を活用し、スマホ向け電池のテコ入れを図るほか、産業用ロボットなど工場向けや家庭用蓄電池を強化する。

 市場を切り開いたソニーが去るリチウム電池市場だが、残るプレイヤーも厳しい戦いを強いられている。

■ 体力勝負のタフな市場

 リチウムイオン市場は、首位サムスンSDI、2位パナソニック、3位LG化学の3強が世界シェア6割を占める。ただ、2015年度の各社の電池事業の業績は、サムスンSDIが赤字、パナソニック、LG化学も営業利益率0.1%以下という惨憺たる状況だ。

 背景には、ノートPCやスマホ向け電池の需要が鈍化する中、成長が見込める車載用電池での生き残りをかけ、各社とも研究開発費がかさんでいることがある。

 車載用リチウムイオン電池市場では、米西海岸の電気自動車ベンチャーであるテスラ・モーターズに独占供給を行うパナソニックが一歩リードしているものの、韓国勢もテスラへの供給に関心を示しており、その地位がいつまで続くかは不透明だ。また、事業を買収する村田製作所も長期的には車載用電池の開発を狙っており、熾烈な戦いが予想される。

 主戦場がスマホから電気自動車へとシフトし、新たなステージに入ったリチウムイオン市場。日本勢は今度こそ世界をリードする存在になれるのか。投資がかさむビジネスだけに、待ち受けているのは体力勝負のタフな戦いだ。

田嶌 ななみ/渡辺 拓未

最終更新:7月30日(土)12時50分

東洋経済オンライン