ローリングストーン日本版2016年8月号掲載/野間易通[編集者/活動家]
特集:ヘイトスピーチ対処法成立〜施行で何が変わるのか〜
6月3日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(通称、ヘイトスピーチ対策法)が施行された。同法は、成立自体を評価する声もある一方、禁止規定や罰則がない理念法であることから、その効果を疑問視する声も上がっている。では実際に何がどう変わるのだろうかーーー。在日コリアン問題に関わる5人が語る、その評価とは。
01.「在日特権」のウソとヘイトスピーチ
野間易通[編集者/活動家]ヘイトスピーチに対する対抗運動の急先鋒:CRAC(対レイシスト行動集団)のメンバーで『在日特権の虚構』の著者である野間易通が解説する、在日特権の嘘とヘイトが蔓延した背景。
―ヘイトスピーチが蔓延するようになったひとつのきっかけは、02年の日韓ワールドカップと言われていますが、野間さんはどうご覧になっていますか?
それ以前に、嫌韓に向かう下地はできていたと思っています。90年代の頭に冷戦が終了してパワーバランスが変化し、日本の仮想敵国が共産国から韓国・北朝鮮・中国の東アジア3国になっていった。その間バブル崩壊で経済が悪くなる一方なのに、韓国や中国は大きく経済発展したということも関係があるかもしれません。
―なるほど。
それと、90年代以降、サブカルチャーが変質したことも大きい。町山智浩さんも指摘していますが、彼が編集をやっていた頃の『宝島』はカウンターカルチャー誌だったのに、今は宝島社自体、ヘイト本を率先して出す会社になった。《在日特権》という言葉を最初にムックのタイトルにつけたのも別冊宝島です。現状、ヘイトはサブカルの一ジャンルでもある。2013年以降爆発的に広がった反レイシズム/反ヘイトスピーチの運動には中年の音楽関係者やクリエイターが多いですが、劣化したサブカルチャーへの対抗という側面もあったと思います。反レイシズム運動はカルチャーの立て直しでもある。CRACはそこを強く意識しています。
在日特権のウソ
【特別永住権】ヘイト側の主張:在日コリアンは一般的な外国人の永住資格とは違う『特別永住権』を持ち優遇されている。
野間の取材による実態:特別永住資格は、かつて日本が朝鮮半島や台湾などを大日本帝国に組み込んで支配していた時に日本に在住していた朝鮮人や台湾人とその子孫に与えられる在留資格。すなわち、かつて日本人であったが戦後外国人となった人たちが、安定して日本に居住できるようにするためのもので、一般永住資格と比較する意味はない。英国等は植民地が独立する際、法律を改正して植民地市民に選挙権なども含むフルの市民権を与えたが、日本の特別永住資格では権利は制限されている。
【国民年金優遇】
ヘイト側の主張:在日コリアンは保険料を払わずに国民年金を受給している。
野間の取材による実態:年金制度はその性質上、年齢等の理由で制度開始時に支給条件を満たさない人たちが生まれるため、必ず経過措置が設けられる。在日コリアンは長らく国籍によって年金制度から排除されていたが、1982年、難民条約に加入したことを契機に国民年金に加入できるようになった。その際の経過措置で全期間年金を納めていない人がいるが、これは日本人の経過措置と同じ。また、在日には経過措置からも漏れて未だに無年金状態の高齢者もいる。
【通名制度】
ヘイト側の主張:犯罪を犯しても本名が報道されない。通名を何度も切り替えて架空の銀行口座を作り悪用している。
野間の取材による実態:犯罪は捕まれば処罰されるので、「犯罪のしやすさ」を「特権」と表現すること自体が詭弁。その上で、本名(民族名)が報道されないというのは事実無根のデマである。通名での口座操作に関しては、日本人の場合にパスポートや保険証の名義を売り買いして詐欺を行なうもののバリエーションで、その数は日本人による犯罪よりも圧倒的に少ない。そもそも80年代以前は、ペットの名前でも口座が開設できた。
【生活保護受給】
ヘイト側の主張:在日コリアンであると優先的に生活保護が受けられると在特会は主張。
野間の取材による実態:この主張を厚労省は明確に否定しており、『在日コリアンのせいで日本人が生活保護を受けられない』の主張は間違いである。そもそも、生活保護受給者のうち外国人の割合は3%で、在日コリアンの割合はさらに少ない。ヘイト側がこのような主張する根拠は、在日コリアンの受給率が日本人の5倍という点だが、分母が極端に違うものを単純に比較することは統計的に無意味。また国籍別ではなく県別では北海道は富山県の10倍となるが、単に地域の経済格差が現れているにすぎない。
【住民税減免】
ヘイト側の主張:在日コリアンは住民税が安い
野間の取材による実態:在日コリアンに住民税優遇があるというのは、一般的には事実無根のデマ。ただし、60年代から70年代にかけて、貧困対策で住民税を減免した自治体がいくつか存在した。これは同和対策基本法によって被差別部落の貧困が救済される一方で同じく貧困状態にあった在日に何の対策も施されなかったために、自治体が独自に行なった措置。在日コミュニティが貧困から脱した現在は、すべて廃止されている。
後日、番外編として雑誌未掲載インタヴューをWEB版オリジナル記事として掲載予定。
YASUMICHI NOMA
1966年、兵庫県生まれ。フリー編集者。90年に大阪外国語大学を卒業後、『ミュージック・マガジン』編集部などを経てフリーに。2013年1月「レイシストをしばき隊」(現・CRAC)を結成。ヘイトデモへの対抗行動の一翼を担う。著書に『金曜官邸前抗議』『「在日特権」の虚構』(以上、河出書房新社)、『非常階段 AStory of The King of Noise』(K&Bパブリッシャーズ)など。
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