日本銀行が金融緩和の追加策を決めた。日銀が買い入れる上場投資信託(ETF)の額を年間6兆円に倍増する。

 安倍政権は近く事業規模28兆円の大型経済対策を発表する予定で、日銀に金融緩和で協力するよう求めていた。マイナス金利の拡大や国債買い入れの増額に弊害や限界が指摘されるなかで、政府に歩調を合わせるための苦肉の策と言えよう。

 金融政策の本来の目的は、日本経済を安定させ持続的な発展を確かなものにすることだ。今回の緩和策がそれにかなっているかと言えば、疑わしい。

 日銀は四半期に一度の「展望リポート」で日本の景気の現状を「緩やかな回復を続けている」とし、今後についても「緩やかに拡大していく」と見通した。有効求人倍率が全都道府県で初めて1倍を超えるなど多くの景気指標が改善を示し、景気はそれなりに安定している。

 欧州経済や新興国経済に不透明感があるとはいえ、いま大型の経済対策を打ち出そうという政府の発想そのものがおかしい。日銀はそれに物申すべきだが、追加緩和でむしろ側面支援してしまった。政権の意を受けて追従したと見られても仕方あるまい。

 金融政策を決める審議委員9人のうちETF購入増には2人が反対した。「市場の価格形成に悪影響を及ぼす」などもっともな理由からだが、こうした意見は出にくくなっている。委員の任期が来るたびに、政権がアベノミクス賛成論者に替えてきたからだ。反対の2人は第2次安倍政権の発足前から務める民間エコノミスト出身者である。

 政権の考えに近い委員ばかりになれば、黒田東彦総裁が旗を振る異次元緩和に対するチェック機能は失われてしまう。今後ますます政権にとって都合のよい金融政策に傾きかねない点も気がかりだ。

 ただ、金融機関の経営をますます圧迫しかねないマイナス金利政策の強化や、政府への財政ファイナンスと受け取られかねない国債買い入れの増額に手をつけなかった点は評価したい。市場では「実施しないと円高、株安になる」となかば脅しのように語られていたが、そのこと自体が金融政策と市場とのゆがんだ関係を表している。

 企業や家計にとって、行きすぎた金融緩和は今や有害だ。マイナス金利政策では、金融機関だけでなく運用計画が狂った年金基金も悲鳴をあげている。日銀は正常な金融政策に立ち戻るため、早く異次元緩和からの出口政策を検討し始めるべきだ。