『Number』7/14号 連載
『1984年のUWF』柳澤 健 第14回
タイトルは「フォロースルー」
清宮君とは関係ありません。
Number(ナンバー)905号 地方大会開幕特集 甲子園を夢見る夏。 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 雑誌
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今回はUWF浦田社長の恐喝事件が半分ほどを占める構成で、前半はあまり面白くありません。
興行の世界の常で、プロレス界はどうしても暴力団関係者が絡んだトラブルが絶えないですね。格闘技界は概してそういった風潮があるようで。ボクシングしかり、往時のK-1しかりですが。
推測でものを言うのは良くありませんが、梶原一騎兄弟とか表に出ていないだけで、叩けばホワイトアウトレベルの埃が出そう。
つのだじろう氏監禁事件など、今振り返ればむしろ微笑ましいぐらいのものです。当人はたまったもんじゃなかったとは思いますが。100日は命が縮んだことでしょう。
要は佐山がUWF入りする直前に、「ザ・タイガーと佐山についての一切の権利」を放棄するように佐山のマネージャー兼ビジネスパートナーに浦田社長が暴力団幹部と共に迫り、念書を書かせたというよくある話です。
金の成る木、金の卵を産むニワトリだった佐山には様々な人間が群がって当然ですからねえ。
この事件によって、ほぼ確定的だったTBSのTV放映はおジャンに。
UWFファイター達の人生が、それによってどれだけ変わったのかは興味がありますが。
仮にTVが付いたとしても、案外同じ結果に終わったのかもしれないな、などと夢想するのでした。違った道を辿りつつ、最後には同じ地点に着地するパラレルワールドの不思議。
今回面白いのはタイトルどおり終盤の
「フォロースルー」
てっきりUWFの方向性の比喩だと思ったら、そのものズバリ。物理的なフォロースルーでした。
1984年12月5日、後楽園ホールのメインイベントは「スーパー・タイガー対藤原喜明」
当時のUWFでは最高のカードで勝負。
佐山が語り手となり、山本が聞き手となった『週刊プロレス』の連載「佐山聡、21世紀へのニュープロレス宣言」の中で、佐山は破天荒なアイデアを発表した。
「ワン・ツー・スリーによるフォール勝ちは私の辞書にはない。試合はKOかギブアップでのみ決着するべきだ」
うーん。ギブアップまで待てない! すいません。関係ないです。
この試合は ”ノーフォールデスマッチ ” と命名された。
フォールはなく、KOかギブアップのみで勝負を決める試合が実現したのだ。
試合終盤、スーパー・タイガーは藤原の頭部と顔面を計55発も蹴りまくり、見る者を震撼させた。
試合は藤原が動かなくなり、佐山のKO勝ちで決着。
キックの佐山、関節の藤原 の旗幟(きし)が鮮明となったUWF史に残る試合の一つですが、ここで待てよ?と思いませんか。
頭部と顔面、首から上を55発も蹴られて藤原は大丈夫だったのか?
膝下を覆うレガースを付けてはいるものの、プロの蹴りがそんなに甘いものなのか?
当の藤原喜明は、この試合の3日後の早稲田大学プロレス研究会でのトークイベントに、缶ビール片手に登壇したとあります。顔の腫れもわずかなものだったと。
脳震盪の心配は?アルコールは厳禁なのでは?
疑問は尽きないのですが、今回はそのカラクリを明かにしてくれます。
つまり、佐山聡のスーパー・タイガーは相手に大きなダメージを与えることなく蹴ることができるのだ。
そのとおりなんだけど、身も蓋もない言い方だなあ。
スーパー・タイガーの蹴りは、空手家やK-1ファイターの蹴りと何が違うのだろうか?
正道会館宗師、石井和義氏が答えてくれます。そう言えば、この人もお金関係でナニがナニの人でしたね。
UWFがプロレスであることは最初から100%わかっていました。
蹴りひとつ、突きひとつ見ればすぐにわかります。
空手では相手を倒すことだけを考える。そのためには中心部にインパクトを与え、フォロースルーを加えることが必要になる。フォロースルーがあるからこそ、相手にダメージを与えることができるんです。
プロレスのキックは、インパクトまでを速く見せておいて、そこで止める。
フォロースルーがないからこそ、レガースがパーンといういい音を立てる。観客は音に驚くけれど、僕ら専門家から見ると『相手にダメージを与えないようにうまく蹴ってるな』という印象です。
なるほどですねえ(これ博多特有の相づちらしいです。最近知りました)
レガースでパーンと叩いて、素早く引く。
相手の体に触れた瞬間には、蹴り足を引く動作に入っている。
天下の石井(元)館長のお言葉に対し恐縮ですが、こうした表現のほうが適確ではないかと思います。
ズボッと相手の体に蹴り足が埋まったり、足を振り抜くような蹴り方のほうが危険ということでしょう。格闘技経験がないので断定はできませんが。
佐山自身も翌年1月22日号の「週刊プロレス」でこの試合を振り返ってこう述べています。
何か誤解している人が多いので言っちゃいますけど、アレは単なるプロレスですよ。(中略)アレはプロレスから3カウント(のルール)をとっただけのことですよ。
かなり危険な発言をしているのが、今だから分かりますが当時は誰も気付かなかった。
UWFはリアルファイトである というプロレスファンの幻想に乗って、佐山も藤原もより激しい運命の濁流に呑み込まれていくのでした。
運命に従って。
誰もフォローすることが出来ないままに(言うと思いましたよね?)
以上 ふにやんま