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ブサイクの逆襲 作者:黒田容子

本編

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いつも通りって、何だっけ??

「ちょうど良かった。電話しようと思ったところだよ」
 加藤さんが、開口一番向こうから話し始めた。

 あの時の勢いはどこへやら。もう早くも心臓がドキドキ言ってる。…仕事なら離れしてるのに、恋とか男とか絡むと弱いんだよね…

「さて、俺の要件から先でいいかな?それとも、そちらからにする?」
 加藤さんがおどけながら話す。
「どちらでも、イイデスヨ」
 うるさい、心臓!これは仕事絡みの電話なんだから、心配しなくていいの、貴方は!
 あたしがそんなドジ踏むわけないでしょ?
 必死に自分の心臓に言い聞かせるアタシがいる。
「電話くれたってことは、候補の派遣さんが決まったってことだよね?それはいつでもいいよ。日時指定してくれれば、あとは準備しておくから。」
 あっ…
 心臓に構ってたら、先回りで要件が片付けられた。
 どうしよう、次の話題、仕事の話だよね?からかわれるような話題だったら、あたし…耐えられないかも。

「…ちょっと、教えておいてあげようと思ってたんだ。…柏木アシスタントマネージャーがキレた。」
 ん?んん?
 柏木、柏木さんって…誰だっけ?あれ、どっかで名前聞いた… あ!!
「大林さんの上司で、この人怒らせたら受注が吹っ飛ぶっていう、超エラい女の人?」
 たしかそうだ。現場叩き上げで女だてら管理職に上ったっていう…
「そう、その超エラい女の人」
 加藤さんは、笑いながら続ける。
「俺としても、出入り先が1つ吹っ飛ばされるのは勘弁して欲しくてね。まぁそれは冗談なんだけど、さっき…そっちの西東京事業部に直接乗り込んだみたいだよ?」

 はい?
 直接乗り込んだってナニ?

「繁忙期、助けてくれるって口約束してたのに 何で突然『出来ません』になったのか、説明が欲しいって。」
「だ、だって…」
 さっき、武藤さんが言ってた。
「大林さんと大林さんの上は、ウチの会社ビイキって…」
「俺も、イマイチ信じられなかったんだよね。俺、柏木さんは結構前から知ってるんだけど、ヒステリックな人ではないんだ」

 なんだろ、怖いよ。それ、相当 怒ってない?? まるで嫌な展開しか浮かばない。だって…客が業者のところに乗り込んで苦情言うなんて、よっぽどだよ??

 普通、「ちょっと来てくんない?」で業者を呼び出すんだろうに…客から乗り込むって、尋常な対応じゃない。

「じゃあ、あたし、牧瀬さんとウチの会社の指示がどう出るか聞いてみますね。なかしら動きがあると思いますから、決定が出たら連絡します。」
 加藤さん、それでいいんだよね?すると加藤さんは、
「なんか、面白くなってきた」
 ワクワクしてるふうな声で笑った。

 この人、そこで笑うんだ…全然ビビってない… だって、ウチが撤退沙汰になったら、保守契約先が無くなっちゃうんだよ? ドキドキしないのかな。
 それとも、武藤さん譲りなのかな、この不思議な頼もしさは…?

 加藤さんのことが、イマイチ掴めないでいると、電話口ではまた 次の話題へと切り替わっていた。

「そうそう。」

 ドキーン!!
 今度はナンデスカー?!

「候補の人を連れてきてくれるときは、午後遅めでいい?」
 …嗚呼、仕事デスカ。良かったあ

 あたし、どんだけ、この人にドキドキさせられてるんだろう?いや、あたしが慣れて無さ過ぎ何だと思うけど。

「そのまま、直帰出来るでしょ?藍ちゃんも」
 キャーッ!またデター!必殺『藍ちゃん』コール
 甘くなくても、甘く聞こえる!!
…やばい、やばい、やばい…帰ってこい、平常心!働きすぎた、心臓よ!

「わかりました。その件は、また日時分かったら連絡しますね」
 それだけは言い切ると、加藤さんは、「よろしくね」軽い形式的な会話だけ済ませて、早々に電話を切った。

 はあ。どんな客先よりも身が持たない。
 こんなんだったら、●●園のツルッパゲ課長からの無理難題電話の方がまだ耐えられるわ…

 机に伏っ潰れていると、庄内カナコが何か言いたげな表情でこっちを見ている

 …あの子、未練があるのかしら。聞き耳を立てていた雰囲気だった。

「株式会社アマノの加藤さんよ? 今度、引合せに行ってくるわ。」
 会話の内容を、なぜか気まずい思いで教えてるあたしがいる。「西東京事業部にお客さんが…」と言おうと思ったけど、何故かその先を言えなかった。

 理由は分かってる。
 カナコへの気まずさが、今のあたしにはある。

 カナコにとって、株式会社アマノの加藤さんは、不純とはいえフラれた相手。 そこに先輩が電話していれば、それは確かに気になっちゃうだろうなとはおもう。

 一応言うわね、今更、この件に関しては、カナコのフォローはしないと決めてるの。
 けどね…
 業者なのか客先なのかビミョーな立ち位置にいる株式会社アマノの加藤さんとの距離が、あたし自身、手に余っているだけに… この件が絡むと、普段と同じ態度で話せない。

 悔しいけど、恋愛の場馴れなら カナコの方が上手く立ち回るんだろうな。今まで散々、カナコの事をバカにしてきたけど、あたしって、どんだけ色恋に疎いんだろ。あたしの自然体ってなんだっけってくらい、緊張してる。

 まずいよね…人間の根幹…コミュニケーション能力にも関わってくることでしょ? カナコより優れてるつもりでいたけど、ちょっと自分奢り高ぶっていたが分かって… 軽くショック。

「牧瀬さんから電話がくると思う。忙しくなると思うから、準備しようか?」
 誤魔化すように話を続けた。
 なんの準備かは、全く考えてなかったけど…

 全て何も出来ない子って、居ないんだなって、改めて思った。
 そして 何でも出来る子ってのも 居ないんだなって、同じく改めて思った。

 今だけは、今だけは、妙にカナコが羨ましかった
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