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ブサイクの逆襲 作者:黒田容子

本編

21/31

天井が見慣れてきた今日この頃

 加藤さんから貰った案件は、候補スタッフもほぼ決まり… 最終選定をやっていたときだった。

「西東京から電話です~!」
 カナコが取り次いでくれた電話を半信半疑で取り次いだ。珍しいな、西東京事業所といえば、東京圏最果ての事業所。あんまり絡みが無…あ、この前、ピンチ打開のために こっそり忍び込んだ以来だわ。
 なんの連絡だろ??

「ハイ、権田でーす」
 電話にでると、相手はなんと
「久しぶりね、元気?」
 西東京事業所の超ベテランお局様 牧瀬お姉様だった。あの一発逆転 超S級OBを引っ張り出す手伝いをしてくれた…恩人の一人。そもそも、ここに忍び込んだのも、この人に会いたかったから。

「きゃー!お久しぶりですぅ~」
 この前、お礼のメールは打ったんだけど、直接話すのは、勿論、忍び込んだ時以来!
「元気なのね。」
 牧瀬さんは、電話の向こうで苦笑いしてる気がした。
「あの、帰ってきて早々申し訳ないんだけど…」
 急に牧瀬さんの歯切れが悪くなる

「ウチ、大林さんのトコが繁忙期来ちゃって…」
 あー、助けてってことね?やっぱりその件か…
 薄々知ってたけど、手に負えそうもなかったから、静観してたのよね。電話きたか。
へいたいが足りませんか?それとも車両あし?」
 聞くだけ聞くけど、こっちは… 視界の端で所長が「断れ!断れ!」サインを送ってる。

「ふふ、聞こえたわ。…困らせちゃったわね」
 牧瀬さんがまた、静かに笑った。

「スミマセン…いま、首都圏近郊営業所は、例の新案件でバタバタしてるんですよ…」

 牧瀬さんには言いづらかったことがある。
 実は今、本社が取ってきた新案件が 手元にまだくすぶってるのだ。そこが片づかないと 営業所として、牧瀬さんの頼みを聞けない。

「本社案件じゃ勝てないわね、仕方ないか」
 そう、恩人に呟かせてしまう自分が歯がゆい。
 なんとか…してあげたいけど…

 手許には、会話の終わりを催促するかのように、カナコが取った電話のメモが回ってきた
「折り返しにしておきましたあ」
 ちらっとあたしを見るカナコ。

…流石のアンタでも、分かるんだ…

 いきなり降り注いだ本社案件。実はこれ、実務の責任者はカナコ彼氏。成功すれば、カナコ彼氏の手柄に勿論なる。
 仕事に興味のないカナコといえど、親愛なるダーリンの仕事は、優先して片づけて欲しいらしい

 いや、だな。この力関係。
 あたし個人なら、牧瀬さんを取る。だって恩人だもん

 でも、会社の売上とコネクションを考えれば…カナコ彼氏案件なんだと思う。

 苦しい。苦しい。何とかしたい。なのに、言葉が…出てこない!!

 そんなことになっても、牧瀬さんはまた笑った。
「一旦、大林さんたちに相談するわ。悩ませてごめんなさいね」
 そうやって颯爽と電話を切るんだこの人は。牧瀬さんの強さと優しさに甘えてしまったんだ、あたしは。

 受話器を置くなり、身体が椅子へ溶けてしまいそうなくらい…動かなくなった気がした。

 なんか… 一気に疲れたな… 
 こんな力関係で 仕事が決まっていくなんて…グッタリする

 牧瀬さん、楽にしてあげたいな…
 どうすればいいんだろう

 机をみると、現場の最終日に皆で撮った写真たちがある
 この前の飲み会のメンバーとか、登録作業員の皆とか、加藤さんほか出入りの協力会社ぎょうしゃとか…あっ!!
 武藤さん!!武藤さんがいるじゃん!

 そうだ。
 武藤さんなら、大林さんの上の上とかにいた人だ。もし、ゴメンナサイ沙汰になっても、口添えしてくれるかもしれない

 あたしは、思うよりも早くケータイに手を伸ばし…武藤さんのケータイに「(武藤さん、助けてっ!!)」念じながら着信を残した。


 本当は、加藤さんにも電話しようとは思ってた。でも、気恥ずかしくて、電話しづらくて…勿論、逃げてるのは分かってる。
 仕事なら、なりふり構わず突き進めるのに、恋とかオトコとかになると、意気地なしになる。

 ダメだなあ、あたし。

 協力会社 兼 客先としての接し方なら、バッチリ自信あるのに、好きになっちゃった人に「女」として見てもらえる…自信がない。

 せめて、牧瀬さんみたいな…理性的な人格形成があたしに出来てりゃ…悩む事もなかったのに。

 ダメだなあ、あたし。

 最近、悩んでばっかりだ…あたしは、天井がなんだか見慣れてきたなと、ぼんやり溜め息をついた
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