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商談告白
客先から帰ってきた ある昼下がりのことだった。
「権田さぁ~ん、加藤さんのカイシャが人足りないそうですぅ~」
カナコが「お帰りなさ~い」も、そこそこに、用件を切り出してきた。
「加藤さん来てるんですけどぉ、今。出荷前検品してくれる作業員が足りないそうですぅ
誰か紹介出来ます??」
そして、引きずられるまま面談ブースへ連れ込まれるあたし。
なんなんかしら?この強引な流れは?一息くらいつかせてよ。強引すぎるんでないかい?
ってか!!
「加藤さんってドコの加藤さんよ!?」
●藤園の加藤課長? 本社営業管理部の加藤係長? あとは…えーっと…
困るあたしを、カナコは、どや顔で「加藤さん」へ突き出した。
「久しぶりだね、元気だった?」
正解の加藤さんが笑ってる。
「どちら様?」
噛み合わない会話が始まってるけど、勿論、冗談よ。だって…目の前のはスーツが似合いすぎる。私服を知ってるけど、いや 私服しか知らないけど、今のお姿は、爽やかイケメン度2割増。
ビックリしすぎて、なかなか次の言葉が出てこない。いやあ…ずるい。
「テンマの加藤です」
この前送別会してもらった現場に常駐出入りしていた業者さんの営業マン。取引停止寸前だった現場に、超S級の助っ人を連れてきてくれた…ウチの会社にとっては恩人。
緩いチノパンかカーゴを腰で履いていた足は、今までが勿体ないほど細くて長くて。
ラフすぎた今までのTシャツが思い出せないほど、パリッとしたワイシャツ姿が似合ってる。
「今までずっと、名刺を渡してなかったから。
イチオウ、手土産も持ってきたよ?」
加藤さんは、名刺を出した。
「ウチの人間が、オメデタで抜けちゃうんだ。一人紹介してくれないかな?」
その顔は、倉庫で会っていた頃とは全然ちがう一面…飄々と喰えない交渉上手な営業マンの姿。
「今、見積もり、出せる?」
その言葉に、背筋がビビッと伸びた。
「分からないことがあれば、今答えるよ?」
帰社して一息つきたいなんて気持ち、一気に吹っ飛んだわ。
「お話を、伺わせてください」
わたしは、応接テーブルに吸い寄せられるように座った。
「カナコ、ファインプレー!ありがとね」
デカしたぞ。あたしの帰社予定まで加藤さんを引き止めてくれるなんて
カナコにニコッと笑うと、加藤さんが釣られて笑った
「オチャ、貰える?ごめんね」
カナコが離席して、早速勝負…じゃなくて、商談が始まった。加藤さんはテンポ良く包み隠さず情報を教えてくれる一方で、人のアテがあるか、金額の目処が立つか、単刀直入に切り出してきてる。
ほうほう。そうくるなら、こっちも本腰入れて仕事しようじゃないの。自然と体は前のめりになり、内容を聞き出そうと気持ちも前のめりになっている自分がいる。
内容如何では、見積もりの額を高くしてみたいところだけど… むむ?そうなれば、向こうが出せるギリギリの予算とかって、どれぐらいなのかが…気になるところよね
まあ、少なくとも あちらから直接出向いてきたってことは、同業他社よりは スタートが有利と思ってもいいのかしら?顔は笑顔作りつつ、アタマはフル回転。いいねえ、この緊張感!アタシ仕事してるって感じ
一旦席に戻って、見積もりを作ってる途中のことだった。一心不乱で邪魔されたくなかったのに、庄内カナコがねっとり寄ってくる。
「加藤さん、かっこいいですね…彼女とかいるのかなあ?」
うるさいな、いいから 仕事してよ。登録スタッフにお仕事情報流してよ。
「権田さん、絶対、人、出してくださいねっ! ワタシ、遠くても点呼行きますっ!」
いや、ピンポイントそこで、やる気出さないで。
スタッフを提供出来なきゃ、点呼も引き合わせも発生しないわよ、やる気はそこから出してくらさいな
イラッとカナコをみたら、もうすでに後ろ姿。面談ブースからは「ホントは手伝いに行きたいくらいですぅ」とか、ゴマ摺ってる声が聞こえてきた。
まあいいさ、まあいいさ。
イライラを収めながら あたしは見積もりを印刷して上長印を押してもらう。
まあね、
折角のご来客、あたしなんかが 接客するよりカナコみたいな若いの可愛いのが相手した方が、そりゃ喜ばれるわよね。
「カワイイ」は、役職であり職種むたいなもん。カワイイにしか出来ない仕事もある。今はこの場を繋いでくれてると思って…
カナコ。
あんたのこと やっぱりまだ好きになりきれないけど… あたしは、あたしなりに、あんたに 歩み寄ってみるから、これ以上、あんたのこと嫌いになるような出来事…増やさないでね
「失礼しまーす」
見積もりを手に、カナコ、ありがとうねーと来客ソファーに戻ったとき、居るはずのカナコが居なかった。
「ウチの庄内は?」
何故か、加藤さんは平然と答えない。
あれ? アイツどうしたんだ?
それと、加藤さんには、お茶出しといて、あたしには、お茶くれないのかしら?まあ、自分でやるから、いいけど…
「ごんちゃん、ウソつけない子だよね~ ホント笑っちゃう」
加藤さんは、あたしをみて、アッハッハと笑った
「嫌いなんだ?」
にやっと、小さく笑われた。
「何も言ってないですよ」
なにも、いって、ません。言ってませんとも…
「よく。頑張ってる…すごく、偉いよ」
加藤さぁん…勘弁してよ…
仕切り直しとばかりに、ファイルを机の上に置いた。
「お見積り、お持ちしました」
声をハッキリ出し、簡易の製本をした見積もりと契約書のサンプルを差し出す。
「今、幾ら、足りないの?」
加藤さんは、見積を開きもせずあたしを見た。幾ら足りないって…月額ノルマの不足額のことでしょ?
「それ、援助交際みたいな言い方じゃないですか…」
「いいなあ、そういう直球。好きだよ、そういう『素』」
どこか、まぶしそうに見られるアタシがいる…珍獣扱い??
加藤さんは、ふっと笑った
「来たら醒めるかな、と思って来てみたけど。俺、逆だったな。」
はい?
「仕事抜きで付き合わない?」
「それって」
思うよりも早く言葉がでた
「まずは、友達のままでいいから。俺を彼氏にしない?」
「はい!?!??!」
あ、パーテーションの向こうに人がいたんだった…
つーか、こんなとこで告白しないでよ!! 人をからかいに来るな!!
「俺、案外使えるでしょ?」
頬杖の姿勢で アタシを見ながらクスクスわらう加藤さんは、そのまま続けた
「マジで後悔させない。ハイって言って」
加藤さんの人となりは、それなりに知ってるつもりだった。チャラいように見えて 実は、堅実な性格してて…仕事も人付き合いも丁寧にこなす。
あの、まさか…「からかいに来た」の逆よね? ホントにその目は、アタシを好きなの?
そーいう目でみられると、ますますハイって言いたくないんだな、これがまた。
でもねえ? アタシも、妙齢の女子だし。何かちょっとイイなって思ってた人から、好きだと言われて、グラッとは…来ないわけじゃない。勿論、思いっきり隠せてない照れ笑いが浮かんでいる。
「お近づきの印に、ケータイ番号教えてよ?俺も個人ケータイ、教えるから。」
「さーて どうしよっかなあ…?」
まぁ そういいながら、教えちまったんだがな!
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