15/31
大いなる保護者さま 御登場
空高く、あたし肥えるナントカ。
…んー、いい天気だなあ。屋上でランチするには最高じゃん♪と思っていたのに、面倒くさい電話掛かってきた
ハーイ、横浜事業部名物 カナコ彼氏殿の逆ギレ電でござい!
やれやれ。あたしは、面倒くさい気持ちいっぱいで、「はい権田です。」電話に出た。
「少し時間とらせるけど、今、いいよな?」
あ、断定系なんだ?
チラッとツッコミは入れたくなったものの、イライラしていたあたしは、すぐに好戦モードに入った。
はいはい、お付き合いしますよー
「お前、カナコに『いらない』って言ったらしいな。」
あー、いきなり本題ですか。単刀直入ですな。本当にこの人たち、付き会ってることを隠すつもり、無いんだなあ…
社内恋愛、するなとはいわないけど、こういう露骨なエコヒイキは、ホント止めて欲しい。
さて、よしっ!
あたしの中で、盛大に戦いのゴングが鳴ったのであった。
「庄内さんにですよね、んー 言っちゃいましたね。未だに基礎的なこと理解出来てないんだもん。」
彼氏殿は、「そこは聞いていない」と言いたげにため息を吐く。
「権田、後輩育てるのがお前の仕事の一つだろう?」
いやいやいやいや。
世の中 出来ることと出来ないことが有りますからね?
「新人研修のおさらいを、2年目の今更で?」
「人には人の習熟度がある」
おっと、そう来たか。
「去年やったのに、本人の不注意で忘れてたことを?」
「後輩の失敗は、先輩の責任だ。」
ふふーん、そんな事言っちゃって良い訳かしらーん?
「あたしが現場へ出ていた間ですよ?あたしの失敗なら、当然、あたしの上の人達にも非があるって事になりますよね」
どうだっ!言い返してやったぜ!
「それは、そもそも お前のヘルプ期間中での引き継ぎとコミュニケーションに問題があったんだろ?」
あっそう。
本当に、どこまでも あたしだけが悪者扱いされるのね。
あたしには、チラッと過ぎる会話があった。
ヘルプ期間中の時さ、彼氏殿から電話あったと思うの。
「お前、いつヘルプから戻るんだよ? あの量、カナコに出来る訳無いだろう?」
あん時も 思ったんだよね。
何故、あたしが責められなきゃいけなかったんだろう。って。
「それとお前、パワハラで今、訴えられたら負けるからな」
え。どうしてソコまでそんな話になるの?
誰が?あたしを?どうやって?
もはや、あたしは、呆れて笑ってしまった。
「お前は人事権もないのに、後輩を脅迫したんだ。お前の感情的な一言は、不用意な言葉でしかない。パワハラは、基本的には受け手が感じた結果論で判断されるからな、お前がどうであれ。」
あっそう…さよでっか。
…あたしは、怒りというか、呆れを通り越して、別な感情が込み上げてきた。
「良くて相打ち、地味に訓戒ってとこですかね」
もはや、開き直ったという感覚とも違う。ここまでくると、悟りきった大らかな気持ちだった。
…可哀相に。この人たち、本当に法律知らないんだ…
彼氏殿の電話の向こうから、トラックが走り抜ける音がした。
「余裕だな」
彼氏殿が言った。
「慌てなくていいんですか?」
わたしも言葉を返した。
「それはお前だろう」
「えー?そうかなあ?」
あたしに、パワハラで訴える可能性を告知するのは、パワハラに当たらないのかな
どうにせよ、まずは。
「…従業員規則、良く読んでからの方がいいと思いますよ?」
予想外の切り返しだったのだろう、するとというか、やはりというか。彼氏殿は唸るような空気を漂わせた。
…「従業員規則」っていうヒントで 検討、ついたのかな。いや、知らないだろうな。
「勤怠が、一番の処分対象かな。」
あたしは、話し始めた。
「勤怠はね。雇用側から一番処分を出せる理由なんですよ。」
結構知られてないけど、リストラを合法的に出来る手段の一つに、勤怠実績がある。
「だってあれは、電車遅延」
「ふふふ、毎日15分早く家を出れば解決する問題ですよね?
登録作業員たちにも、私たちは毎日言ってることです。社員が出来ないってのは、おかしいでしょ?」
また法律的な細かい話しをするとね?
会社側は、従業員と労働条件を個別に定めてあるはずなのよ。
「いつ、どこで、何時から何時までで、出勤日と休みがいくらで…等々」雇用に関する条件をね。
だから、遅刻ってのは
就労場所へ就業開始時間までに、出社が出来てない
=会社側との契約を守れていないっていう扱いになっちゃうのよ。
まあ、本社はそこまで社員に厳しくないけど、さ。
彼氏殿が、あたしを脅したいんだったら、受けて立とうじゃないの。
「それと、出社早々トイレに籠もるのも問題かな?
本人が
実際に出勤してきた時間と
実際に提出している勤怠表の時間と
実際にパソコンの電源を入れた時間と
実際に関連した業務システムへログインした時間
ログは全部、本社に残ってます。
関係性調べたら、どう判断するか。
第三者の目撃証言も、いくらでも取れますから、ご心配なく。」
簡単に言っちゃえば、あんたの彼女の遅刻は、調べればバレますよ。今はまだ、懲罰委員会が動かないだけ、有り難いと思いなさいって話。
「ウチの従業員規則に書いてありますよ。
間違いあったら、返金請求するとか、書いてあったから…」
ま、初犯は警告で済むでしょ。直んなかったら、訓戒や出勤停止などの処分に段階が進むと思う。
ああそう。
「前に、勤怠の悪い登録作業員を解雇した《きった》時、労働基準監督署へ相談したので、有る程度資料もお送りできますよ?」
…要ります?
無言の空気で伝えたら、無言の沈黙があった。あたしは、要らない と判断して、話を続けさせてもらった。
「まっ そんなとこですかね?」
これで懲りずにまだ騒いでごらん?
遙か昔、あんたの指示で偽造した基本契約書と請求書…細工したときの加工資料ごと 本社に送っちゃうから。
ブサイクだからって、ある程度いい加減に接してきたんですよね、アナタは。ですが、ブサイクは、ブサイクなりに仕事して知恵もいっぱい稼いできたの。
ブサイクだから、軽んじるとね、こういう事になる…こともあるのよ
呻いたまま返事をしない彼氏殿へ 悲しさと寂しさが混じった笑顔で あたしは、電話を切った。
ブサイクは、ブサイクなりに頑張ってきた。ブサイクだからこそ、自衛出来るよう、神様はお知恵を授けて下さったんだと思う。
負けるな、あたし。
ブサイクには、ブサイクの神様がついてるハズ
ついてるはずなんだ。
そろそろ胡散臭くなってきた黒田の労務知識ですが…
勤怠が一番処分しやすい という話は、有る程度の条件が重なって 可能となります。
基本的には、そこの企業で定められている従業員規則がベースであり、そこから個別の就業と労働の条件を明示した契約に基づいて なにがどうこうが始まります。
あたしが実際に知ってる事例ですが、常軌を逸したセクハラ発言と1年半の間 無遅刻無欠勤だった月が全くなかった従業員へ 訓戒を出すまで3ヶ月かかっていました。
ちなみに、労働基準監督署に問い合わせると、各拠点でも担当者毎に法解釈が異なってきたりしますが、御国も御国で統率がとり切れてないなあ、というのが 業界の認識のようです。
…違ってたらスミマセン
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。