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ブサイクの逆襲 作者:黒田容子

本編

13/31

オンナの敵は、女だったりするのよ

「立ち上げ、大変だったでしょ?」
 いろんな人から言っては貰えるんだけど、周囲が心配するほど辛くはなかったんだよね。
「いやあ… 横浜事業部の方が心配でした。」
 元々のあたしの業務量をこなせる奴が居ない上に、あたしのシゴトの押しつけ合いなんだもん。



 面談の帰り道、あたしはある場所に電話をしていた。
 電話の相手は、数少ないあたしの社内の仲間。勿論、愚痴電。

 相手は、さっきから分かりやすい苦笑いをしていた。
「まあ、周りから聞いてる話だと ごんちゃんが居ない間は大変だったみたい…だよ。」

この人は、通称 朝倉の姐さん

 あたしねー
 朝倉姐さんのことは、密かに一目置いていたの。とにかく!専門知識が凄い。姐さんは、物流業界のことは、陸送から航空まで何でも専門知識を持ってる。

 しかも。面倒見もいいからさー
 その専門知識故に、いろんな人から頼られるから、いつも新しい情報も持っていて…
人事とか各店の内部事情にも相当詳しい。

 いうなれば、どこのカイシャにもいるであろう、望んでないのに噂話に詳しくなっちゃった人。

 朝倉姐さんが、ぼやくような口振りで言う。
「庄内カナコが一回、そっち行ったんだって?」
 うわ、何でそんな事まで知ってんの? 相変わらず耳が早い。

 加藤さんが、武藤さんを連れてきてくれた時、駅で分かりやすい迷子になっていた庄内カナコを拾って連れてきたっけ。

「あれさあ。」
 姐さんが、のったりと話し始めた。
「立ち上げて、安定したら カナと権ちゃんを入れ替えるかって話があったのさ。」
 へー
「立ち消えになったらしいけどね」
 残念。アイツが一番萎えそうな内容なのにね… そのまま押し込めちゃえば面白かったのに。

「そういや。」
 あたしは、一つ 悪ぅい知恵を思い付いた。
 良い子は真似しちゃだめよ?

「カナコ達って、まだ続いてんの?」
…いや、庄内カナコと元上司が続いてるのは知ってんだけどね?あたしは、敢えてスットボケて言った。
「え? なんかあんの?」
お?朝倉姐さん、食いついたね?
ここから、あたしは悪知恵トークが炸裂した
「あんさあ…」

 カナコが、株式会社テンマの加藤さんとチャッカリ名刺交換を済ませていたこと。
 電話番号とかも教えて、じーっと見とれていたこと。

「彼氏と…うまく行かなくなっちゃってるのかなあって、思ってさ?」
 口振りは、心配口調だけど、腹の中は 真逆も真逆。このままこじれちまえと思ってる。
「いや、考え過ぎでしょ?」
 朝倉姐さんは、笑う。

…んー、じゃあ もう一押ししますか。
「カナコ、合コン行ったって 本当?」
 いや、本当も何も、デマカセなんだけど。スンマセン。

 だってさー、彼氏居るのに 電話番号教えちゃうオンナだよ?
 横浜でも、ブリッコ全開でチヤホヤされ続けてるのが、オンナのクオリティだと勘違いしてんだからさー

 彼氏居ようが、合コンは 言わずもがなの大好物でしょう…?!

「…」
 案の定、姐さんが黙った。

 さーて、偽善者ぶりますかね。
「いや、ネタなのをあたしが勝手に本気マジにしてるだけなら別にいいんだけどさ。」
 ネタどころか、自作自演です。はい、スンマセン。でも、まだしゃべりますヨー
「株式会社テンマなら、ただの協力会社だし、西東京事業部の牧瀬さんなんかねえ?」
 この先は言いません。…お客さんと付き合って、同棲してる、なんて、言いませんとも。

「…」
 姐さんは、まだ動かない。
 あたしも、仕掛けるだけ仕掛けたので、後は黙ることにした…

 あとは、待ちだな。
 長い気がする短い沈黙…先に、姐さんが話し始めた。

「困ったもんだね~」
 おっと?
「この前、合コンやったんだって。 しのぶとマッキーが、カナコを手配したらしいんだけどさ」
 あ、ハッタリにひっかかった。 
「酔ったカナコが、『最近彼氏が構ってくれないの』しなだれかかって、 ナニを掴んだらしいよ」

 …なにその特ダネ!?
 そんな特ダネまでは、期待してなかった!!!

「それ、彼氏様は知ってんの?!」
「さあ?」

 アイツ、凄いな。 いや、酔ってたなら仕方ないけど、酔ってもやるか?
「どこまで本当か知らんけど…凄いね」
 すっげー誘い方。いろんな意味で、あたし、真似できない。

 朝倉姐さんは、ため息を吐いた
「カナは、ただ一日何となく来て何となく過ごせればいいと思ってる子だからね。彼氏殿も歳だし、早くまとまってくれれば良いなって思ってたんだけど。」
 その声は、残念よね。と惜しむ声だった。

 早くまとまってくれれば、なんて どう考えても「結婚」でしょう。

 まあね、カナコにしてみれば…今の彼氏殿は、憧れから始まったトキメキで、そろそろ 恋の幻想から醒めてきた…とか、なんだろうな

 …社会人になって、初めて『上司』と呼ばれる存在が出てきた時、それがまた眩しく見えちゃった。
 色々守って貰えるし、大人だからお金有るし、遊びも知ってるし…そりゃ眩しくて憧れちまった訳だ

 でもねえ?現実は、そうでもなかった訳だ。
 相手は、ただの中間管理職だからねえ?

 丸裸にしたら、同年代と張り合うのも厳しい『オッサン』ですから。
(まあ、人のことは言えない『オバサン』なあたしですけどね)

 我に返ってみれば、同年代が懐かしくなったんかねえ…
 それとも、単純に痴話喧嘩したか。


 あたしは、ぼんやりとした予想から戻りきれないアタマで、呟いた。
「あたし。アマノさんを、けしかけなくて良かったかも」
 いや、最初から けしかけてもないけどね?

 カナコ自体は、まあ 見れる顔をしてる。スッピンは知らんが。
 連れて歩くには、ちょうど良い顔だと思うけどなー

「あー、その人、カナ好みなんだ?」
「んーまあ、カッコいいの規定は満たしていると思う…」
 あたしは、初めてホンネを言った。今まで、断定的な嘘は言ってないけど、確証のない作り話しか言ってないしね。

 改めて。
 加藤さんは…庄内カナコのストライクゾーンには、入ると思う。
 そこそこ顔も背格好も悪くないし、人当たりもいい。
 頼んだことをやってくれる以上に、気も利くしね

「あぶないね」
 朝倉姐さんが言う。

 それは、
「泥沼化させないで」なのか
「庄内カナコが食いつきそうね」なのか
 あたしには、そこまで読めなかったけど…

 朝倉姐さんが 庄内カナコを少しだけ見放した瞬間だと思った。


 オンナの敵は、やっぱ、女だ 。
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