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ブサイクの逆襲 作者:黒田容子

本編

10/31

グッバイ あたしのランチタイム

「やっとお昼だ…」
 今日もまた、相変わらず朝から現場は忙しくて、気が付いたら15時だった。

 この業界、マトモな仕事をしたら、昼は食べられない。
 トラブルが起きれば、人と車が動いていない昼休みに取り返すしかないからだ。

 今日の昼休みは、何で潰れたんだっけ?
 あぁ、そうだ。引き継いで置いてきた筈の客先が、アタシに直接電話してきたから潰れたんだった。

 あたし、引継書作ったんだけどな。
 読んでなかったか。
 読まなくても分かると思ったのかな。

 物流業界の事務職にとって、弁当の調達漏れは、死活問題。物流倉庫街にスーパーマーケットはもちろん、コンビニが有ることは少ない。
 もしあったとしても、15時じゃ弁当は無いことの方が多い…


 で、ここで泣き泣き一食抜くあたし…んな訳ないじゃなぁ~い。その辺はシッカリしまっせ。
 世の中、電子レンジという便利な調理器が御座いまして、米も炊ければ餅も焼けるし、うどんだって パスタだって茹でられる。
 カップ麺啜って凌ぐなんて、ベタな生活じゃツマンナイでしょ?
「今日は インチキ☆カルボナーラだな」
 あたしの中では、既に献立が出来ていた。

 うどんを 専用容器で茹でたら、コンビニで事前に調達しておいた生卵の黄身を割り切れて、同じくコンビニで調達したツナ缶をトッピング。
 もちろん、これだけでは美味しくないので、酒のおつまみ、アーモンドフィッシュを これでもかーっ!!!と、まき散らして、オマケでお好みの振り掛けも足してあげた。

 イッヒッヒッ
 本日のランチ 総材料費 多分 300円以下よ? 節約も出来て、出来立て食べられて 栄養もバッチリ。
 いやー、たまんないわね。
 本当、他の業界でまともなOLしてたら、こんな生活、絶対 出来ない。

 と、まあ、何だかんだで、物流業界の緩い気質へ馴染んでしまっているあたしがいる。
 この会社は、あーんま好きになれないけど、このシゴトとこの業界は嫌いじゃないのよね。

 そんなことを思いながら
「イッタダキマース」
 ウキウキで、手を合わせた時だった。

「権田さあん」
 呼ばれただけで、一瞬で顔が引き吊るあたしがいる。

 あんだよっ!
 あたしの食事を何人たりとも邪魔はさせねえぜ!

 呼ばれたけど、まだ返事してない…だって、聞くだけでイラッとする、舌っ足らずな声。あたし、こういう声マジで嫌い。庄内カナコかっつうの。

 振り返るとそこには、あれ?本人じゃない?
 え? お前、何しにきたの?横浜事業所からついに厄介払い?んなわけないか。

 アタマが一瞬フラッシュしたあたしを、横からヒョッコリ加藤さんが顔を出した。
「駅で会ったんだ。地図広げて困ってたから、一緒に来たんだよ」

 あっそう。を言う間もなく 事務所の外線電話が鳴り響く。あーもー、あたしのゴハンがまた遠のく…
「出てもいいよ~ 俺、急ぎじゃないし。」
 あ、スミマセン…

 あたしは、加藤さんへ目線で謝って 電話にでた。

 相手は、最近登録面接に来た作業員だった。大した用じゃないけど何か面倒な内容だった。
 話をしながら、もう一度加藤さんをみやると、いつの間にか慣れた様子でお茶を入れている…

 …ん?
 もしもし、庄内カナコさん?
 チミは、なにを ぼーっとしてるのかな?

「権田さん、来客用の茶托って、ここで良いんだよね?」
 加藤さんが、来客用の道具一式の場所まで把握して、手際よく並べてる。

 頷きながら、庄内カナコをみると、ポーッと加藤さんに見とれてる。
 いやいやいや、その人 王子様じゃないから。業者さんですから。オチャの準備とかさせないでくださいな。そーゆーことは、自分が率先しようね?

 自分が外線にハマっているがために、庄内カナコへ一言物申せないのが歯がゆい。
「あーはい。えぇ、えぇ…」
 ハマり電は、まだまだ続きそうだった。

 加藤さんが急須をゆすり始めている…ん、4人分?? 湯飲みが4人分?
 事務所には、今 3人しか居ないはず。残り1つは何なんだい?
 顔で訊ねると、加藤さんが、あぁそうそう。と言った。

「権田さんに、お客さんがいるよ?」
 加藤さんは、パーティションの向こうを指差す。

 来客?!
 じーっと目を凝らすと、確かに人の気配がする…マジで?
 こんな小忙しいときに、アポ無し来客?!

 あーもうっ!!

 庄内カナコを手招きして呼び出して、「何の御用か、知ってる?」メモに書いて渡しすと、庄内カナコはキョトンとした。
 「わたしですか?」
 いや、お前は 最初から呼んでねえよ。このトンチンカン。

 庄内カナコの手には、あたしの遙か昔の立て替え精算書…あ、返金分持ってきたのね?
 いや、お金は欲しいけど、給料と一緒に振り込んでくれれば別に良かったのに。
 それと、そんな表情しても可愛くないから。

 聞く相手、間違えたかなあ…
 一瞬の後悔が過ぎるものの、すぐに加藤さんが
「作業員の登録面接、って言った方がいいかな?」
 お茶を運ぶばかりの状態で返事をしてきた。

 ああ、そういうことね。
 派遣会社の派遣作業員になりたくて、登録面接に来たってことね。

 内容が分かって、ほっとする反面。
 全く使えない後輩に苛立ち反面。

 もしもし、庄内カナコさん?
 キミ、お茶出しも業者さんにやらせる気?

 ああもう!
 絶対、誰かにチクってやる。
 ウチの業者のオトコに見とれて、何も
手伝ってくれなかったって。あぁ、どうせだから、コイツの彼氏がイラッとするくらいに、脚色してバラ撒いてやろうか…

 イライラを堪えながら電話を切れたのは、そこから5分後のことだった…あたしは、泣く泣くパスタにラップを掛けて「必ず食べてあげるからね、あたしのパスタ」と、冷蔵庫へ仕舞う。

 グッバイ あたしのランチタイム。

 ブースに入る直前、ちらっと庄内カナコをみると、相変わらず加藤さんとキャッキャ話していた。
 あたしは、奴にクギをさす。
「電話番、頼むね。何処の誰からの電話でいつまでに 折り返しが欲しいか、必ず聞いてね。メモは、電話が来た順に並べてもらっていい?」
 庄内カナコよ、電話番くらいは出来んだろ。そして、加藤さんと名刺交換する暇あったら、アタマん中でシュミレーションくらいしてね。頼むから、会社の恥になるような対応しないでよ
 面談ブースに入る前に思わず「南無三」と唱える自分がいた…

 加藤さんの手には、庄内カナコの名刺がある。そもそもが内勤業務も覚束無いオマエが、名刺交換する意味あんの?カイシャの営利目的っつうより、自分の営利がにじみ出てるわよ?

 ああもう。
 ドジったら絶対 お前の彼氏の耳に入るくらいにバラしてやる。

 あたしは、もう一度 深呼吸して面談ブースへ入った。気持ち切り替えて、シゴトだシゴト!
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