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オフィスラブなんて、都市伝説
物流業界の朝は早い。
物流業界に派遣している会社もまた、早い
と言いたいんだけどっ!!
今日も、定時15分前になっても誰もいないという事実。
ギリギリにくるか、遅刻してくる。
「そのくせ、勤怠はしっかり定時で計上するのよね。」
独り言も言いたくなるけど、誰もいない空席の風景を睨んでもなにも、何かが変わるはずもなく…あたしは、届いたFAXたちを仕分け、メールのチェックを始めた。
ヒドい奴がいるんだ、コレマタ!
庄内っていうオンナノコ。
今日も堂々と無断遅刻。遅刻って言ってもだいたい3分とか5分だけど。
「間に合う電車に乗ったのに、電車遅延しちゃいました」 だって。
いやいやいや、違うでしょ。
そもそも、ギリギリで到着する電車に乗るかでしょ?
アンタの通勤路線は、10分に1本走ってる電車なんだから、その電車よりも早い運行に乗ればいいでしょ?
遅刻だけならまだ可愛い
悪びれもなく、遅刻しながらケータイ電話で通話しながら来ることもある。
だが、こんな簡単な一言も、男性陣は何も言わない。
何も言えない事情があるから。
一応、この人には大義名分という名の設定がある。なんかねー、ご実家のお母様がうつ病なんだって。
なもんで、涙ながらのヒステリックなお電話が掛かってきたり、最悪、同居のおねーさんからsosの電話が来ることもある…らしい、っていう家族事情。
…でもね、毎朝の電話は、実家じゃない!というのをこの前知った。
電話の相手、なんと 大概は庄内さんの彼氏!!
しかも、前任の所長だとさ。
さっきの電話も「今日も頑張ろうね」ラブラブ社内恋愛電だっつーんだから、腹が立つ。
男どもは、長い物には巻かれましょうというワケで、誰も注意できない。
前任の栄転してった所長が相手じゃ分が悪い、ってワケ。
…しかも、この女、よく泣いて彼氏にチクるし。彼氏もバカだから、逆ギレ電してくるし。
ますます誰も注意できない。
あーあ。
…男社会は所詮…
そんなもんなんだろうな。
可愛いオンナは大事にされ、役職が高い奴ほど自由が許される。
あーもー
男なんか夢見れない。
恋愛なんか、夢見れない
ある日の事だった。
所長から個室に呼ばれた
「西東京事業部の牧瀬さんがやってる案件って知ってる?」
ああ、あの…クールビューティーなお姉さま。
「品川区内の自社物流センターが本拠地の会社ですよね。原木かなんかに通関絡みで第2物流センターが立ち上がる、なんとか…聞いたことあります。」
所長が「そこまで知ってるなら早いや」と本題を切り出し始めた。
「第2物流センター立ち上げ、ウチの会社に回ってくる話になったんだ。」
所長が社内の内部資料を見ながら話し始めた。
…ふーん。
話だけ聞いてると、全然美味しくない案件だけど…
まあ、こんな新規プロジェクトをアタシに話すって事は…
「立ち上げヘルプっすか?」
要は、アタシをヘルプに出すってことだ。
場所だけ聞いていれば、朝、40分くらい早く出ることになるなあ。
立ち上げだから、休みも思うように取れないだろうし。
「ああ、まあ、うん。」
所長が切り出しにくそうに言う。
「あーそうなんですね」
ウチの会社の怖いところは、ヘルプと称して、殆どの場合が そのまま転勤辞令が下りることが多い。
「…立ち上げが終わったら、全社員を引き上げられる契約なんですか?」
あくまで、おっとりと所長に聞いてみる…どうせ答えは分かってるけど。
「いやまだ…その時になって、向こうの会社の方針が変わるかもしれないし、うんまあ、そんな感じ」
あー、やっぱりね。
予想通りの展開に、あたしは何かがさぁ~っと音を立てて引いていく気がした。
まるで、砂の城が一瞬で崩れ、引き潮のように目の前から遠ざかっていくような感覚。
もーいや。
オフィスワークな女子生活なんて。
どんなに真面目にシゴトしても報われない。
真面目にシゴトするからこそ、面倒シゴトが回ってくる。
トドメはこれか…
部下をヘルプに出すって事は、「大変な部署を助けてあげる」とか言葉はキレイだけど、ホントのトコは、ダークな事情が大きい。
「居なくても業務が回る」から出せるのであって、
「手元に居て欲しくない」から出す事だってある。
どっちにしろ厄介払いする時の絶好なチャンスとも言われる「ヘルプ」。
あんなに頑張って売上に貢献してきたんだけどなあ。
最後は、こうやって 出されるとはね。
「分かりました。良いですよ。」
あたしは、潔く返事した。
こういうのは、後腐れなく サッパリ言ってしまった方が、お互いのためだ。
「あたしの後任、誰になるんですか?」
目の前のウダツの上がらない男が、取り止めのつかない会話をする。
…あっそ、考えてなかったのね。
サヨナラ、自立できない坊やたち。
もう、あんたたちの面倒は見ないわ。
オフィスラブなんて、都市伝説。
その時、あたしは、そう思った。
世間の「オンナノコ」から外れたあたしに、「女の幸せ」なんか無いって信じていたんだけど。
コレがきっかけで、大きく変わることになるとは、予想も出来なかった。
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